2018年02月20日

No.273 株主は全員アクティビストである

アイ・アールジャパン、狙われやすさ診断 物言う株主はここをみる 2018/2/20

あなたの会社が物言う株主(アクティビスト)に狙われやすいか診断します――。企業の投資家向け広報(IR)を支援するアイ・アールジャパン(東京・千代田)は上場企業に対し、アクティビストによる株式の大量保有リスクを助言するサービスを始めた。

 株主への利益配分や社外取締役の比率といった観点を人工知能(AI)が分析し、11段階評価でリスクを知らせる。IRジャパンは過去10年間に大量保有報告書に登場したアクティビストの動き約100をまとめ、AIで傾向を分析した。

 例えば時価総額5000億円以上の大企業なら、過去10年の株式の値上がりと配当金の合計を購入時の株価で割って算出する「株式収益性(TSR)」が低いとアクティビストの注目を集めやすくなる。外国人の保有比率の高さはアクティビストが共同戦線を張る相手を得やすいとみる傾向が強い。時価総額が1000億円未満の中小企業では社外取締役の低さが問題になりやすいという。

 自己資本利益率(ROE)やPER(株価収益率)の水準、ガバナンス体制など23項目で顧客企業を分析し、リスクが最も高ければ10、最低なら0を付ける。総合評価と、特にリスクの高い10項目の点数を伝える。

 アクティビストはシンガポールのエフィッシモ・キャピタル・マネージメントや米エリオット・マネジメントなどが代表的だ。時には経営陣に圧力をかけ要求を通そうとすることで知られる。

 これだけ読むと目新しさがないように感じます。アクティビストの注目点は?株価、PBR、ROE、株主構成、手元現預金、投資有価証券などでしょうか?今さら言われなくてもわかりそうな気がします。会社を点数付けすることが好きですね。点数つけなくてもわかるのに。

 「アクティビストはシンガポールのエフィッシモ・キャピタル・マネージメントや米エリオット・マネジメントなどが代表的」 私のコラムでもアクティビストについてよく取り上げます。しかし、誤解していただきたくないのですが、アクティビストとほかの機関投資家は同じです。そもそも株主というのは口うるさい存在なのです。アクティビストは単にほかの機関投資家と比べて、口が悪い、株主提案などの実力行使に出る、という違いがあるだけです。大きな違いだ、と思われるかもしれませんが、一緒です。なぜならほかの機関投資家は株主提案をしないかもしれませんが、アクティビストが提案した株主提案に賛成することはあります。その提案が株価を上げる可能性があるなら、です。だから、株主提案をしないけど、提案された株主提案が企業価値・株主価値向上に資するのであれば、会社が反対しようが賛成するという意味において、アクティビストと目線は同じです。ですから、あまり「うちはアクティビストに狙われやすいのか?」という観点で見過ぎないことです。そして、アクティビストに狙われないから安心だ、とも思わない方がよいです。なお、ロームや小野薬品に株主提案をしたブランデスは、かつては「中長期的に保有してくれる優良な機関投資家」と言われていました。また、帝国繊維に今年株主提案をしているスパークスも株主提案などしない投資家と思われていました。

 「アクティビストじゃないから会社の味方だ!」ではありません。株主は基本的にアクティビストです。証券マンが「株主を会社の応援団にしましょう」と旧態依然としたことをいまだに言っています。株主は会社の応援団ではありません。株主は会社ではなく株価の応援団であり、株価を上げようとしない経営者を応援しません。

 「アクティビストによる株式の大量保有リスクを助言するサービス」って何ですかね?配当上げましょう、自社株買いしましょう、社外取締役増やしましょう、ですかね?このサービスに金を払う価値があるのかどうか疑問です。こんなの、主幹事にお願いして自社の財務データと他社の財務データ、ガバナンス比較をすれば終わりです。主幹事にお願いするまでもなく、自社でもできるでしょうし、経理・財務部の人に聞けばわかるでしょう。東洋経済や日経ビジネスで過去、何度も取り上げられている特集にあるデータと比較すれば終わりです。

 このサービスって今さら感が強いですし、このサービスを受けたとしても、会社は何も変わらないでしょう。会社の点数付や数値化には何の意味もありません。会社にとって意味のある数値は業績と株価のみです。あと格付けくらいでしょうか。

 アクティビスト対応や敵対的買収対応において、何が最も重要でしょうか?私は他社事例の研究に尽きる、と思っています。徹底的に研究することです。だから私は新聞の細かいところまで見て何かないかと探していますし、大量保有速報も見ています。

ソレキアって、なぜ狙われたのでしょうか?現預金は潤沢、株主構成も強固に見えて実はゆるそう、でしょうか?でもそんな会社ってたくさんありますよね?その中でなぜソレキアは狙われたのでしょうか?買収防衛策がなかったことも大きかったでしょうし、実は富士通という安定株主がいたことも大きかったのではないでしょうか?佐々木ベジは富士通がホワイトナイトとして登場することを手ぐすね引いて待っていたのでしょう。

 では黒田電気はなぜアクティビストである旧村上ファンドに狙われたのでしょうか?安定株主比率は相当低く外人比率が高い、キャッシュリッチ、電子部品商社業界は数が多い、だけでしょうか?表面的なものではなく実質的なガバナンスは?業界内での黒田電気のうわさは?

 アクティビストは財務データという表面的な数字だけで会社をターゲットにする訳ではありません。社外取締役の数という表面的なガバナンスだけでターゲットにする訳でもありません。いろいろなことが複合的に絡まっています。また、会社が気にしなくてはならないのは、何もアクティビストだけではありません。

 「リスクが最も高ければ10、最低なら0」 だからなんだ?「現金が多いですね~。狙われやすいですよ~。」 わかっとるわい!だからどうするのか?配当を出すのか?でも社内では配当を出したくないという人が多いけどどう説得するんだ?買収防衛策を導入するのか?安定株主比率が低いけどどうするのか? そこまで考えるのがアドバイザーの仕事ではないかと思います。

 

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