2018年03月12日

No.287 王子「製紙再編は不可避」(2018/3/10日経7面)

 2018/3/10の日経10面にあった記事です。

王子製紙 矢嶋進社長 「製紙再編は不可避」 三菱製紙を持ち分法適用会社に 「印刷向け、需要3割減も」 2018/3/10付 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO2796420009032018EA6000/

 2006年に王子製紙は北越製紙に対して、いわゆる敵対的TOBを実施しました。北越製紙による三菱商事に対する第三者割当などの対抗策を打ち出された結果、TOBは失敗しました。王子製紙のフィナンシャル・アドバイザーは野村證券でした。ですので、詳しいことは、野村をやめたと言っても守秘義務があるから申し上げられません。以下、私の個人的な考えを書きます。

 この記事で王子製紙の社長は06年に北越製紙(現・北越紀州製紙)に敵対的TOBを仕掛け、業界の反発を招いて失敗した。敵対的TOBは日本の風土に合わなかったのだろう。」とおっしゃっています。王子/北越のケースではなく、一般論として申し上げますが、日本の風土に合わなかったというのは違うと思います。なぜなら、規模は違えど、佐々木ベジはソレキアに対して敵対的TOBを実施し、成功しました。また、旧村上ファンドは黒田電気の株式を約38%も取得し、株主提案を可決させ、最終的にはMBKパートナーズに売り渡すことができました。敵対的TOBではありませんが、市場買付けにより実質的にはほぼ経営権を確保し、旧村上ファンドの望む形にできたという意味では成功しています。

 敵対的TOBが成功するかどうかは、日本の風土が影響している訳ではありません。今や株主主権論が日本で横行しており、高い値段を提示すれば敵対的TOBが成功する時代になっていると言えます。かつては「乗っ取り」と言われた敵対的TOBが、今ではまともな買収提案と称賛される可能性が高いと思われます。ここを取り違えると大きな誤りにつながります。敵対的TOBは日本の風土に合わない訳ではないのです。現に戦前は経営陣の賛同を得ない買収が成功しているケースもあったのではないでしょうか?

 佐々木ベジが敵対的TOBを成功させたのはなぜでしょうか?入念に対象会社を調べ上げ、想定される対抗策も検討し、そして成立要件に下限を付さないTOBを実施して成功しました。TOB終了後も市場でソレキア株式を買い増し、影響力を高め、実質的に経営権を取りました。そこにあったのは何でしょうか?佐々木ベジの「絶対に成功させる」という覚悟でしょうね。世間に批判される可能性もあったでしょうが、必ず成功させるという覚悟をもってTOBを仕掛けたのでしょう。そして成功しました。今まではソレキアのように40%程度も安定株主がいる会社に対して敵対的TOBを実施しても成功しないと思われていました。でも佐々木ベジは入念にソレキアの株主構成を分析したのでしょう。富士通がホワイトナイトとして登場する場合の対抗策も検討していたのでしょう。そして富士通はホワイトナイトとして登場したとしても、それほど高い価格を提示できないことも織り込み済みだったのでしょう。「絶対に勝てるし、絶対に勝つ」という強い思いで仕掛けたのでしょう。

 日本のどの上場企業に対しても敵対的TOBや株主提案を仕掛ければ成功させられると私は思うのです。「親会社がいるような上場子会社でも?」 ええ。だからエフィッシモは上場子会社もターゲットにしているのでしょう。テーオーシーを覚えていますか?上場子会社ではありませんが、安定株主比率は50%以上ありました。安定株主比率の観点からは、上場子会社と同じくらい敵対的TOBや株主提案が成功するリスクは低いです。でもテーオーシーはエフィッシモの持株を自己株取得しました。エフィッシモは時間をかけてEXITに成功しました。ようは作戦次第です。どんな会社であれ、敵対的TOBや株主提案は成功します。ましてや安定株主比率が50%以上ある会社はめったにありません。また、安定株主比率が50%以上もある会社は、必ずと言っていいほど油断しています。だって「安定株主比率が高いから株主提案なんてされないだろうし、されたって可決できる訳ないじゃん」と常日頃から考えており、対策を研究したこともなければ、敵対的TOBや株主提案に関して勉強もしていないからです。赤子の手をひねるようなもんです。覚悟を決めれば買えない会社などありません。

 一方で、矛盾することを言いますが、覚悟を決めればどんな会社だって守り抜くことができます。ソレキアだって、フリージア・マクロスに株付けされた時点で「時代に逆行すると言われるかもしれないが、買収防衛策を導入しておこう」と覚悟を決めて対応していれば守り抜けたはずです。佐々木ベジに仕掛けられた時点でも「悔しいけど大幅増配して対抗しよう」と覚悟を決めていれば佐々木ベジに乗っ取られることはなかったでしょう。黒田電気も同様です。旧村上ファンドが大量保有報告書を提出した時点で、買収防衛策を導入するなり、経営方針を大幅に変えるなりしていればこのようなことにはなりませんでした。今大量保有報告書を提出されている電子部品商社各社も同様です。

 攻めるにせよ守るにせよ、覚悟を決めないと勝てませんし、負けます。攻めるほうと守るほうのどちらの覚悟が上か?それで勝負は決まるのです。でも、覚悟を決めるのは急にはできません。だから常日頃からの勉強や検討が必要であると私は思います。

 いつも思うのですが、なぜトヨタ自動車はあの時価総額なのに企業防衛体制を万全にしようとするのでしょうか?当然、各企業で価値観が違うでしょうから、どの会社にも当てはまることではないかもしれません。ただし、日本で最も時価総額の大きな会社が企業防衛体制を万全にしようとしていることを忘れてはいけないのではないかと思います。

 こんな記事も出ています。世界で起きていることが、日本で起きない訳がありません。

インテル、ブロードコム買収を検討か 米紙報道 2018/3/10 8:03 (2018/3/10 8:57更新)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27967940Q8A310C1000000/

 先日、岩井教授の記事をコラムにしました。株主主権論の真っただ中にある日本ですが、この流れを止めるのはなかなか難しいです。株主主権論が横行する以上、敵対的TOBも起こるでしょうし、株主提案も可決される時代になるでしょう。避けられません。そういう時代をどう乗り切るかがこれからの課題になると思われます。

 

このコラムのカテゴリ

関連する
他のコラムも読む

日本人って、お上が「やってよいぞ!」って言うと「おっしゃ!やるで!」ってなる気質なんですかね。敵対的TOBが流行ってきたから「オレも!オレも!」と。指針ができる前は「いや~敵対的なんてとんでもない」って言ってたのに、この変わり身の早さ・・・ ...

続きを読む

カテゴリからコラムを探す

月別アーカイブ