2020年06月05日

No.839 (無料公開)この機会に買収防衛策とは何かをもう一度考える

今年も多くの会社が買収防衛策の有効期限を迎えており、継続する会社もあれば、廃止する会社もあります。廃止する会社の理由は「株主総会で否決されるかもしれないから」です。表面的にはいろいろな理由をおっしゃっていますが、これ以外に廃止理由はありません。

私、常々思うのですが、なんで皆さんそんなに否決されるのがイヤなんでしょうか?議案が否決されることって、そんなに恥ずかしいことですか?株主総会に上程した議案が、過半数の賛同を得られず否決されるに過ぎません。ましてや役員選任議案が否決されるのではなく、たんなる事前警告型買収防衛策の継続議案ですよ。反対する機関投資家が多い議案ですから、否決されてもなんら不思議なことではありません。

なぜそんなに否決されるのがイヤなのか、私には理解できないのです。20年前ならいざ知らず、これだけ機関投資家の議決権行使率が上がり、平気で社長の選任議案ですら反対してくる時代ですよ。買収防衛策議案に反対してくるのは当たり前です。

ここで皆さんに考えていただきたいのは、皆さんが導入している事前警告型買収防衛策は、本当に買収防衛策なのか?ということです。違いますよね?買収提案がなされた場合、日本で導入されている事前警告型買収防衛策では、完璧に守ることなど不可能です。

機関投資家は日本の会社が導入している買収防衛策が買収防衛策ではないことを認識しているはずです。この買収防衛策では守り切ることが不可能なのに、反対します。なぜでしょうか?たぶん、時間をかけて情報提供を要請することで、買収提案がなかったことにしたいと日本の会社が考えているに違いない、むやみやたらと時間をかせぐに違いない、日本の経営者は敵対的TOBを価格で判断することはしない、と考えているからでしょう。なんとかして買収防衛策で守り切るつもりに違いない、と日本の経営者を信用していないのでしょう。

大きな誤解ですよ。日本の経営者は理屈もなしにそんなことしません。と言っても、機関投資家は信用しないでしょうし、今後も間違いなく買収防衛策に反対してくるでしょう。ではどうすればよいでしょうか?

機関投資家と徹底的に対話することでしょうね。「機関投資家と対話したけど賛成してくれないよ」とおっしゃるかもしれませんが、では、その対話はいつしたのでしょうか?「今年の6月で買収防衛策の期限を迎えるなあ。そろそろ継続するかどうか議論するか」と社内議論を始めるのが年明け1月くらいではないでしょうか?そして3月末か4月アタマに東証に対して継続のプレスリリースのドラフトを提示するのではないでしょうか?機関投資家に説明するのっていつですか?買収防衛策の継続を公表してからではないでしょうか?

遅すぎます。そもそも機関投資家との対話って1回程度ではないですか?それじゃあ機関投資家を説得できるはずがありません。買収防衛策に関する対話は常にしておく必要があります。IRの方にまかせるのではなく、買収防衛策を担当する部門の方が同行して説明すべきです。毎回毎回、機関投資家をIRで訪問するたびに、買収防衛策に関する対話をすべきなのです。

そして、機関投資家を動かすのです。「この会社は毎回毎回買収防衛策に関する議論をするなあ。ちゃんと買収防衛策や企業価値、株主価値について考えている会社なんだなあ」と。そして社長にも対応してもらいます。社長から機関投資家に対して「我々は買収防衛策を買収防衛策とは思っていません」と言ってもらいます。

何のための買収防衛策なのか?どうして機関投資家がこれだけ反対しているのに会社は継続したがるのか?「我々が導入している買収防衛策は、買収提案の実現を阻害するためのルールではありません。株主、従業員、取引先、地域社会にとって、その買収提案が本当にメリットのある提案なのかどうかを慎重に検討するための時間と情報を確保するためのルールと考えているのです」と説明してもらいます。

「敵対的買収であっても、買収価格がBPSに満たない場合もあります。そのような株主にとってメリットのない買収提案であっても、成立可能性が高い場合は、価格に不満があっても応募せざるを得ないこともあります。そのようなことにならないよう、我々経営陣が責任をもって買収価格を引き上げるよう交渉するためのツールとして買収防衛策は有効に機能します」とも説明しましょう。

いかに経営陣が株主のことを考えて買収防衛策を導入しているかを理解してもらいましょう。また、独立委員会だけではなく、やはり取締役会の過半数を独立した社外取締役にすることも検討しましょう。それも機関投資家と対話してみましょう。

買収防衛策を継続するためには、機関投資家と本当の意味での徹底的な対話が必要です。買収防衛策の有効期限が迫った状況で対話しても意味がありません。常日頃から、IR面談のたびに徹底的に対話、議論するのです。何度も繰り返して貴社の思いを伝えれば、機関投資家だって信用してくれると思いますよ。

なお、機関投資家サイドも「買収防衛策に賛成することは、出資者に対して説明ができない」と言わないでいただきたいですね。経営者が株主、従業員、取引先、地域社会など会社の利益を構成するステークホルダーを守るために導入しているのが買収防衛策なのですから。出資者にはちゃんと説明すればよい話です。会社が真剣に機関投資家の皆さんに納得してもらえるよう説明しているのであれば、機関投資家の皆さんも出資者に納得してもらえるよう真剣に説明すべきです。

 

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以前にも書きましたが、買収防衛策の導入・継続議案に賛成してもらう具体的方法です。以前の案は以下のとおりです。

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