2018年03月20日

No.293 じゃあ次は持ち合い禁止だ!

 って金融庁が言い始めたらどうしましょうか?

http://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/siryou/20180313.html

コーポレートガバナンス・コードの改訂と投資家と企業の対話ガイドラインの策定について(案) より以下抜粋

4.政策保有株式

近年、政策保有株式は減少傾向にあるものの、事業法人による保有の減少は緩やかであり、政策保有株式が議決権に占める比率は依然として高い水準にある。

政策保有株式については、企業間で戦略的提携を進めていく上で意義があるとの指摘もある一方、安定株主の存在が企業経営に対する規律の緩みを生じさせているのではないかとの指摘や、企業のバランスシートにおいて活用されていないリスク性資産であり、資本管理上非効率ではないかとの指摘もなされている。

こうした状況を踏まえれば、政策保有株式について、投資家と企業の間で、これまで以上に深度ある対話が行われることが重要であり、企業には、個別の政策保有株式の保有目的や保有に伴う便益・リスクを具体的に精査した上で、保有の適否を検証し、分かりやすく開示・説明を行うことが求められる。また、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針をしっかりと開示することも重要である。

政策保有株式をめぐっては、保有させている側に対する規律付けの重要性も指摘されたところであり、所要のコード改訂等を提言している。

 事業会社による持ち合いもドンドン厳しくなりつつあります。買収防衛策よりも、持ち合いのほうがやりにくくなっているような気さえします。しかし金融庁が「持ち合いはダメー!」と言うことはないでしょう。そもそも持ち合いの定義をすることが難しいでしょうから。

 現状、持ち合い禁止と言われている状況に等しいと思われますし、禁止はされないものの今後、持ち合いに関する踏み込んだ説明や説明できないなら削減を求められるでしょう。そのような状況下においても持ち合いを継続するためには何が必要でしょうか?おそらくポイントは「政策保有株式については、企業間で戦略的提携を進めていく上で意義があるとの指摘もある一方、安定株主の存在が企業経営に対する規律の緩みを生じさせているのではないかとの指摘や、企業のバランスシートにおいて活用されていないリスク性資産であり、資本管理上非効率ではないかとの指摘もなされている。」というところでしょう。持ち合いについては「安定株主の存在が企業経営に対する規律の緩みを生じさせている」というリスクや「資本管理上非効率」というリスクがあるのです。しかし「企業間で戦略的提携を進めていく上で意義がある」ということは持ち合いを全否定できないのです。そりゃそうです。新日鐵住金だって最初は持ち合いから始まっています。つまり持ち合いは、デメリットが多いと思われるがメリットがある以上、一方的に禁止はできないということではないでしょうか?

 であれば、持ち合いの意義、意味を徹底的に訴えるととともに、投資家が懸念するリスクを排除してあげればよいのではないでしょうか?以下の例を見てみましょう。

 これ、中部電力の有価証券報告書から抜粋しました。特定投資株式の保有目的ですが、「地域発展への貢献」「安定的な燃料/資材/資金調達」となっています。おもしろいですね。KDDI株式の保有目的が「地域発展への貢献」となっていますが??トヨタ自動車から持ってくれと言われたからでしょうか。あとANAホールディングス株式の保有目的も「地域発展への貢献」となっていますが??ANAって名古屋の会社じゃないですよね?セントレアがあるからでしょうか。これを見た投資家はどう思うでしょうか?「そもそも燃料/資材/資金調達のために株式を持つ必要などない!」ではないでしょうか?そりゃそうですよね。株式を持っていなくても、安定的な燃料/資材/資金調達はできるでしょうね。なんだか「地域発展への貢献」という保有目的が潔いような気がしてきました(ESGと繋げれば保有目的として成り立つかもしれません)。だとすると、皆さん、政策保有株式の保有目的はいっそのこと「日本経済発展への貢献」と書いてしまってはどうでしょうか?

 もう1社、事例を見てみましょう。

 これは国際石油開発帝石の開示内容です。社名同様、保有目的が長いですね。JXホールディングス株式の保有目的は「同社グループには当社の主要顧客の一つ及び当社グループの中核事業である石油・天然ガス開発事業を営む会社が属していることから、同社グループとの事業上の関係の円滑化のために株式を保有しています。」となっています。長い・・・。けれど、よーく読むと保有目的は「事業上の関係の円滑化のため」の一言です。枕詞が長いだけで実際の保有目的はこれだけです。

 持ち合いの意義、意味を徹底的に訴えましょう!と申し上げたものの、投資家が納得できる保有目的を書くのってムリですよね・・・。そりゃそうですよ。だって持ち合いなんですもん(全部とは言いませんが)。コーポレートガバナンス・コードの改定案では「企業には、個別の政策保有株式の保有目的や保有に伴う便益・リスクを具体的に精査した上で、保有の適否を検証し、分かりやすく開示・説明を行うことが求められる。」とありますが、これ以上わかりやすく開示・説明するなんて不可能です。

 ではどうしましょうか?いっそのこと、正直に書いてみてはどうでしょうか?「持ち合い」「安定株主確保のため」・・・それだと正直者すぎます。例えば、

一定程度の資金を拠出し株式を保有することで会社として資金的リスクを負った上で、責任をもって安定した取引を確保し、かつ、今後の取引を拡大させるために保有している。定期的に情報交換会を開催し、安定した取引の確保・拡大に向けた協議を実施している。当然、投資先企業の経営状態を適切に監視し、投資先企業の持続的成長や株主価値向上に資するかどうかを総合的に判断し議決権を行使している。

 でどうでしょうか?持ち合いってそういうことじゃないですか?一定の資金をお互いに拠出して株式を持ち合いましょうね、お互いに経営を監視しましょうね、だからちゃんと議決権も行使しましょうね、ということでしょ?だったらそう書きましょう。保有目的を書いた上で議決権もちゃんと考えて行使しますよと書けば、たとえ文句を言われても、抗弁はできるのではないでしょうか。「こんなことをやっているのは世界中で日本だけだ!」 いいじゃないですか、日本は発展したいい国なんですから。少なくとも日本より株式市場が発展している米国以外に批判される謂れはないでしょ。ま、持ち合いの歴史的経緯を考えれば米国にも批判される謂れはないのですが。

 最後にもう1社見ておきましょう。これ、東レの特定投資株式の開示内容の一部抜粋です。〇を付けたところを見てください。

 東レが保有するTBS株式の保有目的です。「コーポレートブランド力の強化等を目的として保有している」・・・なんだろ?テレビ局だから?CMを流しているから?もしかして、この関係でしょうか?http://www.tbs.co.jp/ppotennis/ こういう開示を見ていると皆さんの苦労がよくわかります。保有目的の議論はいつまでたっても終わりません。だとしたら、保有目的の開示内容にアタマをひねるのは時間がもったいないです。

 なお、投資家が気にしているのは議決権行使もあるでしょう。だったら、投資家と同じように政策保有株式に関する議決権行使方針を策定し開示してはどうでしょうか?そうすれば、お手盛りの議決権行使をしていないと主張できます。何なら議決権行使助言会社の助言も参考にするとしてしまいましょう。まあ、本音は「参考にはする」ですけどね。

 日本企業が持ち合い開示について積極的に行動しないと、金融庁や東証の言うがままの開示を強要されることになります。このままいけば「取引先との関係強化が保有目的だと言うなら、保有株式ごとに取引金額と内容を示せ!」という開示まで求められることになりそうです。ですから、企業が独自に積極的に開示案を考える必要があると思います。

「さっきの持ち合い開示の内容はいいんだけど、取引のない持ち合い先はどうしたらいい?」とお考えになる企業もいらっしゃるでしょう。だったらこう書きましょう。

一定程度の資金を拠出し株式を保有することで会社として資金的リスクを負った上で、責任をもって経営基盤の拡大可能性を模索するために保有している。定期的に情報交換会を開催し、経営基盤の拡大に向けた協議を実施している。

 でどうでしょうか?「経営基盤」と書けばだいたい通用しますよ。もしくは「経営基盤の拡大可能性」を「今後の取引拡大の可能性」と置き換えてもよいかもしれません。なお、形式的であってもよいので、持ち合い先とは何らかの接点を定期的に持った方がよいと思います。これだけやれば投資家に対して抗弁できる材料はそろいます。

 

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