2017年06月30日

No.119 ひどいというより戦略か?・・・大戸屋HDの総会議案 など2コラム

■ひどいというより戦略か?・・・大戸屋HDの総会議案

 以下、日経記事の抜粋です。「これ、さすがにひどくないですかね?」と昨日のメールに書きました。正確にはやや違うようです。

大戸屋HD、創業者に功労金2億円 株主総会で議案可決 2017/6/28

大戸屋ホールディングスは28日、都内で定時株主総会を開き、創業者に功労金2億円を支払う議案を可決した。功労金は同社の実質的な創業者で、2015年に亡くなった三森久実前会長に対するもの。もっとも、会社側が提示した「ストックオプションとして新株予約権を発行する」との議案は、約2割の株式を保有する創業家が反対に回ったため否決された。同社は役員退職慰労金制度を廃止しているため、功労金の支払いについては総会での承認が必要だった。株主からは「金額が多すぎないのか」といった意見も出たが、賛成多数で可決した。三森氏の功労金や長男の智仁氏の処遇といった経営体制などを巡り、会社側の経営陣と創業家は長らく対立が続いていた。16年5月の取締役選任議案に創業家側が反対したことで対立が表面化し、その後は膠着状態が続いていた。

今年の株主総会の議案賛成率です。

 この表を見ると、創業者の遺族は役員選任議案とストックオプション議案に反対し、弔慰金や功労金贈呈の議案については議決権行使をしていないということでしょうか?反対個数がほかの議案と比べてかなり少ないです。でも賛成個数は他とほぼ同じですね。これは創業者一族の作戦ではないでしょうか?弔慰金や功労金の金額に納得していない、だから賛成・反対の意思表示はしないということでしょうか。当日出席して、役員選任議案とストックオプションには反対の意思を表明し、弔慰金と功労金議案には反対・賛成・棄権の意思を表明しなかったということでしょうか(すみません。総会実務に疎いもので。もしご存じの方がいらしたらぜひ教えてください)。でも、遺族は「我々が意思表示をしなくても弔慰金と功労金議案は否決されない」と踏んだのではないかと思います。では、大戸屋HDの株主構成は?

 大株主の状況を見ると、創業者の遺族である三森三枝子氏と智仁氏の持分合計は18.77%です。ちなみに、昨年からお家騒動が発生しており、昨年の社長選任議案の賛成率は62.66%でした。ただ、コラムで大戸屋のケースを取り扱った際に、遺族の持分が18%程度であれば、役員選任議案が否決されることはない、ただし、特別決議が必要な議案は否決される可能性がある、と申し上げたと記憶しています。昨年も遺族が反対したものの、社長の賛成率は62.66%でしたから、たとえ弔慰金・功労金議案に意思表示をしなくても可決されるだろうと考えたのでしょう。そうすれば「遺族としては2億円という金額には何ら意思表示をしていない」というスタンスを構えつつ、もらえるものはしっかりともらえるという訳です。なかなかの戦略ですね。あくまで私の想像ですが。

なお、大戸屋HDは個人株主比率が非常に高いため、議決権行使率が低いです。今年の議決権行使率は約58%です。どうでしょうか?貴社の議決権行使率と比べて随分低くないですか?議決権行使率が低くなればなるほど、創業者の遺族の影響力は増すことになるため、普通決議議案を可決できても、特別決議の議案は否決されてしまいます。

 これから大戸屋HDはこういう株主と長年にわたって付き合い続けなければなりません。いや、そうではない可能性もあります。遺族が第三者に株式を売却してしまうおそれがあります。功労金をもらった遺族はどういう行動を起こすでしょうか?金額に不満があるから「もっとよこせ」と交渉するでしょうか?「交渉してもムダだろ?2億もらったからもう用はない」と考えたら?

大戸屋HDは買収防衛策を導入していません。過去、同じ業界で同じようなケースがありました。そうです。オリジン東秀株式を遺族がドン・キホーテに売却したケースです。その後、ドン・キホーテは敵対的TOBを実施しました。大戸屋HDの株主構成を見て、皆さんはどうお考えになりますか?

「この株主構成なら買収できる」ではないでしょうか?ソレキアよりもずいぶんと買収しやすい株主構成です。

■賛成票が8割以下だったら企業は真摯に受け止めるべきか?

 村上ファンドの村上さんが関わるファンドからの株主提案が可決されました。本日の日経3面に記事が掲載されています。また、同じ面の「株主総会 真剣勝負に」という記事の中に「ガバナンス・フォー・オーナーズ・ジャパンの小口俊朗代表取締役は「賛成票が8割以下の企業は真摯に受け止めて投資家に改善策を示すべきだ」と話す」というコメントがありました。

 なんで8割も賛成しているのに改善策を示すべきなのでしょうか?理解できません。ガバナンスコンサルなどを業務としている会社が煽っているとしか私には思えません。8割賛成しているのであれば、まったく問題ないでしょう?極端な話ですが、議案によっては50%台であっても全く問題ないと思います。特に買収防衛策議案なんて、賛否両論ありまくりですから。

 それと、その隣にある「今年は相談役や顧問制度の廃止など「検討に値する株主提案が増えている」と野村アセットマネジメントの今村敏之責任投資調査部長は指摘している」というコメントですが、私の意見は「箸の上げ下ろしにまで口出しするな」です。役員選任議案に賛成している以上、経営に対して細かい口出しはせず、株主は「ドンと構えておけ」です。それが株主でしょう?株主の皆さんはヒマなのでしょうか?仕事のための仕事を増やしているような気がします。いろんな方の思惑によって、日本の事業会社の負担が増えているのではないでしょうか?

昨日、どことはあえて申しませんが、ある会社の株主総会に出席して思いました。確かに会社の対応はお粗末でした。しかし、「経営に関与するつもりはありません。だからTOBで取得する株式は50%未満に設定しました」という買収者を信用できますか?そんなのウソに決まっていますよ。だって、実質過半数取って経営権を握るじゃないですか?

実質的に経営を支配するレベルの株式を保有し、まるで経営陣を脅すような要求をし、それでも「私は株主でござい」と言う人は本当に株主なのでしょうか?

私はそういう方々は株主ではないと思います。本当にそのような方々の言い分に会社が従う必要があるのでしょうか?そのような方々が買収防衛策はダメだ!と言っています。そりゃそうですよ。そのような方々がにとっては買収防衛策なんてジャマなだけですから。でも、そのような方々がの攻撃をしのぐには買収防衛策は不可欠です。30%、40%もの株式を取得して、強圧的に様々な要求をしてくる株主からはきちんと身を守らなくてはいけません。

また、そのような方々が屋の意見を金科玉条のごとく取り扱っているISSなど、本当に正しいのでしょうか?ガバナンスをビジネスにしている会社の言うこともしかり。そのような方々がうるさく言えば言うほど、ガバナンスビジネスは儲かるでしょう。今年の株主総会を見ていると、日本企業は振り回され過ぎている気がしてなりません。

今年の株主総会での注目議案などは別途まとめますが、とりあえず私の思いです。この世論の中で買収防衛策を導入するのは困難な道かもしれませんが、そうしないといつかそのような方々の餌食になるというのが私の考えです。

 

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