2021年05月10日

No.1066 (無料公開)平時導入型の買収防衛策にはぜひ賛成してください

そろそろ買収防衛策の継続、廃止を公表する企業が増えてきました。機関投資家、個人投資家の皆さんにぜひお願いしたいのは、平時導入型の買収防衛策議案には賛成していただきたいということです。2021/5/7時点の買収防衛策の継続・廃止状況は以下のとおりです。京阪ホールディングスとJFEホールディングスが廃止したのは非常に残念です。

当HPで何度も申し上げてきていることですが、平時導入型の買収防衛策は買収防衛策ではありません。買収防衛策というのは読んで字のごとく、会社を買収から防衛するための策です。買収提案の実現を阻害するための策が買収防衛策です。しかし日本企業が導入している平時導入型の買収防衛策の目的は買収提案の実現を阻害することではなく、買収提案がなされた場合、その内容が株主をはじめとしたステークホルダーにどういう影響があるのかについて詳細な情報の提供と検討するための時間を確保することなのです。例外的な場合において新株予約権の無償割当を行う、つまり買収防衛策を発動することがありますが、あくまで例外的であり、主目的は情報と時間の確保です。

一方で有事導入型の買収防衛策は違います。有事導入型の買収防衛策はまさに買収防衛策です。有事導入型の買収防衛策は買収提案を実施してきた買収者に対して、新株予約権の無償割当=買収防衛策の発動をしてよいかどうか、株主総会を開催して株主の意思確認をします。有事導入型の買収防衛策の目的は買収防衛策を発動することにありますので、まさに買収防衛策なのです。

ここ最近のケースを見ていると、投資家・株主の皆さんは「やっぱり日本企業は買収防衛策を発動するんだな。伝家の宝刀ではないんだな」と思っているかもしれませんが、日本で買収防衛策を発動したケースはすべて有事導入型の買収防衛策です。平時導入型の買収防衛策で発動したケースは1つもありません(エフィッシモに買収提案をされたセゾン情報システムズが株主総会を開催して発動を可決させたケースはありますが、実際の発動にまではいたっていません)。買収防衛策導入企業に対して買収提案がなされたことはありますが、まだ件数としては少なく、そして発動したケースはありません。

平時導入型の買収防衛策を導入している企業はわかっているのです。「買収防衛策は発動することが目的ではなく、情報と時間を確保することが目的である」ということが。私も数多くの買収防衛策導入企業の皆さんと議論することがありますが、発動を前提に考えている経営者に会ったことはありません。当然、買収防衛策導入初期のころはどうすれば発動できるかを議論したことはあります。しかし突き詰めれば突き詰めるほど「買収防衛策を発動できるシチュエーションは非常に限定的ではないか?」と皆さん気付きます。十分に高いTOB価格が提示されている状況である場合、相手が相当ひどい濫用的買収者でない限り、買収防衛策を発動して対抗することは非常に困難です。買収防衛策を導入している企業の経営者はそれがわかっています。

機関投資家や個人投資家の皆さんがこれからも平時導入型の買収防衛策に反対し続けると、経営者はどう考えるでしょうか?「いくら説明しても理解してくれないのなら、買収防衛策をやめよう」と考えます。そして次に「もう持ち合いを強化するしかないな」となります。昨今、持ち合いについては厳しい目が向けられており、なかなか持ち合いを強化するのは難しいのですが、企業同士が腹を括ればできます。なぜなら持ち合いのニーズは現実的には強いからです。

そして次に考えるのが「じゃあ有事導入型の買収防衛策を準備しておこう」です。平時導入型の買収防衛策は捨てるけど、いざというときに守れるように行動します。どんどん買収防衛策がステルス化し、見えない形になってしまい、いざ有事となったら買収防衛策を発動しようとします。こうなってくると投資家にとっては企業防衛行動を予見しにくくなり、思わぬ損害が発生するリスクがあります。

買収防衛策は企業にとっても投資家・株主にとっても、見えていたほうがよいのです。ステルス化すればするほど、お互い不幸になります。

一方で買収防衛策導入企業のほうにも努力は必要でしょう。株主・投資家が抱いている買収防衛策に対する危惧は「経営者が保身のために買収防衛策を利用するのではないか?」という点です。これを払しょくする必要があります。どう払しょくするかは簡単ですね?それは「取締役会メンバーの過半を独立した社外取締役にすること」です。そろそろこれについては対応したほうがよいと思います。「買収防衛策と社外取締役の議論は別モノ」と主張したいお気持ちもよくわかりますが、そうも言ってられません。買収防衛策を継続したいのであれば、やはり株主・投資家の不安を払しょくするための努力は必要でしょう。そして投資家・株主も「取締役会の過半を独立した社外取締役にしている会社の平時の買収防衛策導入議案には賛成する」としてください。

株主・投資家・経営者が歩み寄れば、すべてのステークホルダーにとってきちんと機能する企業防衛体制が構築できると思います。

 

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