2022年10月19日

No.1412 敵対的買収から逃げるな!

私が言っている訳ではなく、日経さんが言っています。少し抜粋します。

[社説]企業は敵対的買収から逃げず価値向上を

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK1169K0R11C22A0000000/

買収をしかけられた企業も防衛策を乱用して交渉の道を閉ざすべきではない。社外取締役が株主の代表として最善の対応を考えるべきだ。そうでなければ産業の新陳代謝も停滞する。

今日はこの部分に関する私の考え方をまとめます。まずちょっと余談ですが「社外取締役が株主の代表として最善の対応を考えるべき」って本当にそうなの?株主に選任された方ではあるものの、株主の代表として株主のために最善の対応を考えるべき、というならそれはちょっと違うのでは?「会社のため」ならわかりますけど。では本論です。

日本で敵対的買収が本格的に実施されるようになったのは2000年~2003年頃からです。当時の村上ファンドが昭栄に対して実施したり、スティール・パートナーズがユシロ化学とソトーに対して実施したりしたのがきっかけです。そこからいくつか事例が出てきたものの、2008年のリーマンショックにより敵対的買収の動きが沈静化しました。そして敵対的買収の動きが再開したのが2017年で、佐々木ベジ氏がソレキアに対して実施し成功させました。まあ、これはマニアックな事例なので、この事例をきっかけに敵対的買収が増えたとは言いません。敵対的買収が増えるきっかけになったのは、やはり伊藤忠商事によるデサントに対する事例でしょう。

一方で守る側にも特徴的な動きが出てきています。2020年に旧村上ファンドが東芝機械(現芝浦機械)に対して敵対的TOBを実施したところ、今でいう有事型買収防衛策で対抗した結果、株主総会で過半数の賛同を得て発動に成功しました。この事例の特徴は、東芝機械が安定株主のおかげで発動できたわけではない、という点です。東芝機械の安定株主比率が仮に高ければ、平時型買収防衛策を廃止することを選択しなかったでしょう。安定株主比率が低いにもかかわらず、発動議案に対してブラックロックが賛成したこと、ISSが賛成推奨をしたことにより、発動できたのです。

そしてここから買収防衛策の発動事例が多発しています。私は買収防衛策の発動が多発していることに関して、ちょっとどうなのかなあと本音では思っています。もちろん買収者の目的や属性によっては買収防衛策を発動して会社を守らなくてはならないものの、なんでもかんでも発動して阻止するという風潮?はどうなのかなと思っています。

少なくともまっとうな目的の買収者が全株買収で魅力的なプレミアムを付した価格で仕掛けてきた場合、本当に買収防衛策を発動していいのでしょうか?当然ながら「まっとうな目的とはなんぞや?」「魅力的なプレミアムとはいくらなのか?」という問題はつきまといます。そして「まっとうな買収目的」かどうかを解決してくれるのが、買収防衛策による情報と時間の確保ではないかと考えるのです。

きちんと平時から買収防衛策を導入し、買収提案があったら、ルールに基づいて情報収集をし、きちんと買収者の目的や条件を確認する。そして買収目的がおかしいと考えれば、株主総会にかけて買収防衛策を発動するかどうか決めればよいのです。

そして買収目的が「まっとうであり発動はそぐわない」と判断した場合、やはりあとは「魅力的なプレミアムかどうか」はTOBに委ねなくてはならないのではないでしょうか。「いや、その場合も自分は価格に不満だけど、他の株主が応募してTOBが成立する可能性があるから、買収防衛策を発動して対抗すべきかを株主に確認すべき」という方もいらっしゃいますが、私は「まっとうな目的の買収者なんだから、あとは価格で決めればいいんじゃないの?そもそもTOBって株主に対して保有する株式を売ってくださいっていう行為なんだから」と思うのです。

そもそも最近起きた敵対的TOBの事例において、取締役会がTOB価格に言及した例ってありましたっけ?私の記憶では「1社もない」か「ほとんどない」なのです。TOBなのに、TOB価格が安いかどうかの言及すらしていないケースがほとんどなのです。TOBに応じてほしくないのなら、株主に対してTOB価格に対する取締役会の考えを示すべきなのに、「TOB価格が安すぎる」と誰も言及しないのですよ。これはおかしいと思うのです。言及しない理由はわかっていますよ。価格が安いと言って引き上げられたら反論しにくくなる、安いといっておきながらTOBが不成立に終わった後にTOB価格を株価が下回ったり、中長期的に株価を上げられなかったりした場合に責任を問われるからでしょう。

それってやっぱりヘンですよ。TOBなのに価格が安いかどうかに言及しないなんて、それこそが株主を馬鹿にしているってことでは???

私が言いたいのは、

・買収防衛策の発動は当然あってしかるべき。他のステークホルダーの利益などどうでもよく、自分たちの利益しか考えていない買収者や株主がいるから。

・平時に導入される買収防衛策は時間と情報を確保することが主目的であり、買収の実現を阻害するものではない。ましてや経営者の保身が目的ではない。

・一方で最終的には買収防衛策を発動して追い払えばよい、などと考えてはいけない。それこそが安定株主にあぐらをかいた経営。※当然、上場会社の置かれているステージによってはホントにとんでもない乗っ取り屋さんが来ることもあるので、ある程度の安定株主が必要な会社もあることは事実。

・敵対的TOBを仕掛けられた場合、買収防衛策を発動する場面においても、TOB価格が安いのかどうかを経営者は言うべき。言いたくない=株主に対して無責任。上場会社の経営者なら、責任をもってTOB価格に言及すべきだし、反対するなら中長期的にはちゃんと提示されたTOB価格を上回る株価を達成するよう最大限の努力を株主のためにすべき。

ということです。長々とすみません。

 

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