2022年11月27日

No.1434 ジャフコは価格レンジを超えたら自己株TOBをしない???

しますよ。いや、正確にはする可能性を残しています。

ジャフコは以下のプレスで旧村上ファンドからの自己株TOBの実施を公表しました。しかし、自己株TOBの総額は420億円であることを公表したものの、1株当たりいくらで買うのかは公表されておらず、1株当たりの価格は価格決定期間中のVWAP(売買高加重平均価格)をベースに決まります。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/8595/tdnet/2210540/00.pdf

ジャフコは今回の自己株取得の実施に当たって、前提条件を付しており、それが以下です。P2の下あたりです。

2022年11月30日から2022年12月7日の期間(以下「価格決定期間」といいます。)での当社株式の東京証券取引所のプライム市場における売買高加重平均価格(以下「本VWAP」といいます。)が 2,525円以上 2,828円以下(以下「本価格レンジ」といいます。)となること。

また以下のように記載されています。

また、本価格レンジは本日時点における当社株式の市場価格を上回りますが、本公開買付けにおける買付価格(以下「本公開買付価格」といいます。)は本公開買付けの開始予定日に近接した価格決定期間における本VWAPから1%ディスカウントした金額(小数点以下四捨五入) (なお、本VWAPが本価格レンジの枠内である場合には、本公開買付価格は、2,500 円~2,800 円のレンジの枠内の価格となる予定です。)として定められる

価格レンジが2,525円~2,828円になる場合、TOB価格は2,500円~2,800円になる予定としています。これらを読むと「11月30日~12月7日の価格決定期間におけるVWAPが2,828円を超えてしまう場合、自己株TOBを行わないということ?」と考える方がいらっしゃるかもしれませんが、それは違います。※このジャフコのプレス、すごく読みにくいです。私の理解が間違っているかもしれませんので、何卒ご自身で解読され、投資は自己判断でお願い申し上げます。

まず今回の自己株TOBで価格が決まっていないのは、おそらくプレミアム状態にしたくないからでしょう。旧村上ファンドは自己株TOBに応じてもよいけど「ジャフコの適正株価はPBR1倍。今の株価はそれより低い。市場株価からディスカウントした価格では応じられない。PBR1倍の株価が目安」としていたため、BPS2,651円64銭を目安に検討されたようです。

しかし2,651円64銭をTOB価格にすると、11月24日の終値2,391円にプレミアムを付けることになり、おそらく「ジャフコは旧村上ファンドに大量に株式を取得されており、このような状態でプレミアムを付けて買い取ったら、特定の株主に対する利益供与と指摘されかねない」と考えて、なんとか市場株価にディスカウントしたTOB価格にしたかったのではないでしょうか?だから、TOBを実施すると公表しつつ、価格決定期間を11月30日から12月7日のVWAPから1%ディスカウントした金額にするとしたのでしょう。

なお、旧村上ファンドに株式を取得され自己株TOBをやって出て行ってもらった事例でプレミアムを付けた価格でやったケースはあります。西松建設や新明和工業です(ほかにもあるかもしれませんが、私の記憶で書いています)。西松建設の自己株TOB価格は3,626円ですが、公表日2021年9月21日の前営業日の終値3,605円に対して0.58%、過去1か月の終値平均3,509円に対して3.33%、過去3か月3,502円に対して3.54%、過去6か月3,308円に対して9.61%のプレミアムです。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/1820/tdnet/2026010/00.pdf

新明和工業の自己株TOB価格は1,500円ですが、公表日2019年1月21日の前営業日の終値1,357円に10.54%のプレミアム、過去1か月平均1,349円に対して11.19%、過去3か月平均1,418円に対して5.78%のプレミアムです。

https://www.shinmaywa.co.jp/ir/pdf/19-01-21_1.pdf

なおジャフコは今回のプレスP7の下ほうでまた、本応募契約上、本公開買付けにおいて買付けられた応募予定株式についての対価の支払いを除き、当社から村上氏らに利益が付与される旨の定めはありません。本公開買付けに応募することによる対価以外に、当社から村上氏らに供与される利益はありません。」と書いています。西松建設や新明和工業のプレスに同じようなことは書いていないようです(「供与」「付与」というワードで検索をかけましたがヒットしなかったという意味です。もしかしたら類似の開示をしているかもしれません)。

で、ここからですが、ではジャフコは今回、価格決定期間中のVWAPがレンジ価格である2,525円~2,828円を超えてしまった場合はどうするんでしょうか?ジャフコのプレスを詳しく見ていくと、以下のことがわかります

プレスP2(注記2)のところに、11月30日~12月7日の価格決定期間において、VWAPが2,525円以上2,828円以下となることが、自己株TOBの開始前提条件になっているように見えるのですが、ただ、この注記2の最初の3行は以下のとおりです。

本応募契約においては、本開始前提条件として、本応募契約の締結日(本日)及び本公開買付けの開始日において、以下の全ての条件が充足されたこと又は当社により放棄されたことが規定されております。

これを素直に読むと「開始前提条件として注記2の①~④の条件のすべてが充足された場合自己株TOBが実施される」「またはジャフコが前提条件を放棄した場合に自己株TOBが実施される」ではないかと思われます。例えば前提条件であるVWAPが2,525円以上2,828円以下が満たされない、つまり、VWAPが2,828円超、TOB価格が2,800円超となる場合であっても、ジャフコが当該前提条件を放棄すれば、自己株TOBを実施できると読むことができます。

また、プレスP5の真ん中より下の部分に以下が記載されています。

なお、本公開買付けは、本開始前提条件のとおり、本VWAPが本価格レンジの枠内となることを前提条件としており、本VWAPが本価格レンジの枠内とならない場合には、原則として本公開買付けを実施いたしません但し、その場合であっても、本VWAPが本価格レンジの上限を超える場合であって、当社とシティらが別途合意したときは、当社とシティらが別途合意する日を開始日として、本公開買付けを行うことがあります本VWAP が本価格レンジの下限未満の場合には、シティらが、シティらによる応募の前提条件の一部又は全部を放棄することにより、所有する当社株式の全てについて本公開買付けへ応募を行う意向の有無を確認し、応募が見込まれない場合には、本公開買付けの目的であるシティらの当社株式の所有割合を低下させることによる事業遂行、特にファンド募集の円滑化等による経営の安定化が実現できないため、本開始前提条件の全てが充足することはなく、また当社が放棄することもなく、当社は本公開買付けを実施しない予定です。なお、本価格レンジを設定した上で本公開買付けの実施予定について公表することについては、本開始前提条件の充足又は放棄を条件に、当社が実際に本書記載の条件に従い本公開買付けを行うことを決定した上で行われるものであり、本公開買付けを実際に行う合理的な根拠がないにもかかわらず、本公開買付けを実施する可能性がある旨を公表するものではありません。

つまり、VWAPが価格レンジから外れる場合は原則として自己株TOBをしない、ただし、VWAPが上限を超える場合で、かつジャフコと旧村上ファンドが合意したときは自己株TOBを実施することがある、ということではないかと考えます。

一方、VWAPが下限(2,525円)未満になった場合は、旧村上ファンドが応募の前提条件を放棄し、意向の有無を確認の上、応募が見込まれない場合は、自己株TOBを実施しない、と書いてありますので、逆に言えば、自己株TOBを実施したら応募する意向である場合は、自己株TOBを実施する、ということかと思われます。まあこの場合は旧村上ファンドが期待した価格より安い価格で応募しなくてはならなくなりますから、応募するという意向を示さないのかもしれませんが「BPSよりしただけど、例2,450円だったらもういいか!」と考える可能性はあります。

また、VWAPが上限(2,828円)を超える場合ですが、P2には以下のように書いてあります。

P2(注1)の上5~6行あたりにあります。上限を超える場合、前提条件を放棄するかどうかはジャフコと旧村上ファンドの合意が必要?旧村上ファンドは高い値段で買ってもらいたいから、上限をVWAPが超えた場合、放棄してもらった方がよいわけで、当然、放棄に合意しますよね?なぜわざわざ両社の合意としたのかはわかりません(単に「契約」に書いてあるから、放棄には両社の合意が必要ってだけかもしれません)。

但し、(注2)の②については、本VWAP((注2)の②で定義されます。)が本価 格レンジ((注2)の②で定義されます。)の上限を超える場合については、放棄は当社及びシティの合意によるものとする。)

 

P12(2)買付け等の価格 (注2)

なお、本公開買付けは、本開始前提条件のとおり、本VWAPが本価格レンジの枠内であることを前提条件としており、本VWAP が本価格レンジの枠内とならない場合には、原則として本公開買付けを実施しません。但し、その場合であっても、本VWAPが本価格レンジの上限を超える場合であって、当社とシティらが別途合意したときは、当社とシティらが別途合意する日を開始日として、本公開買付けを行うことがあります。本VWAP が本価格レンジの下限未満の場合には、シティらが、シティらによる応募の前提条件の一部又は全部を放棄することにより、所有する当社株式の全てについて本公開買付けへ応募を行う意向の有無を確認し、応募が見込まれない場合には、本公開買付けの目的であるシティらの当社株式の所有割合を低下させることによる事業遂行、特にファンド募集の円滑化等による経営の安定化が実現できないため、本開始前提条件の全てが充足することはな く、また当社が放棄することもなく、当社は本公開買付けを実施しない予定です

価格レンジを設定してはいるものの、それはあくまでTOB価格のためですね。ジャフコのおっしゃるとおり、下限2,500円だけ設定してしまうと、アービトラージャーが買い上がってくるかもしれないし、株価がドンドン上がって買付株数が少なくなります。そうすると按分になって村上さんから買い取れる株数が少なくなり、手残り株が多数発生するリスクがあります。だから2,800円を上限に設定しているものの、2,800円をTOB価格が超えるリスクもあるから、ジャフコがその前提条件を放棄することができ、仮に2,800円を超えるTOB価格になったとしても、なるべく旧村上ファンドから買い取れるような仕組みにしたのでしょうかね。ただ、株価が急騰し3,000円とか3,500円とかになってしまったら、さすがにやらんのかもしれませんが。

なお、投資家が「ジャフコはレンジを超える価格でも自己株TOBをやるつもりだな!じゃあいっぱい買って応募しよう!」と考えたとしても、上記のとおり自己株TOBの買付予定株数は420億円÷買付価格と上限が決まっているので、按分になりますから全部を買ってもらえるわけではないので、価格決定期間中に買い上がるのは危険です。

11月28日の株価はどうなりますかね。ちょっと楽しみです。

 

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