2023年04月04日

No.1506 東芝、歴史は繰り返す

以下の朝日新聞をご覧ください。私のコメントが掲載されています。東芝はこの体質を改善しない限り、未来がないのではないかと危惧しています。しかも根深い問題です。

こだわった上場、手放す東芝 課題は「逃げの体質」の克服

https://www.asahi.com/articles/ASR3X62D9R3SULFA01Z.html?iref=pc_ss_date_article

M&A(企業の合併・買収)に詳しいIBコンサルティングの鈴木賢一郎氏は「東芝はかつて、目先の上場維持のために物言う株主からの増資で逃げ切った。物言う株主がうるさくなると、今度はそこから逃げるために非上場化に走った。問題の本質は、経営陣の『逃げ』の体質だ」と指摘する。

JIPは東芝を将来、再上場させることを視野に入れているとされる。ただ、鈴木氏は「今回のことで『東芝は突き上げれば高値で株を買う会社だ』と見なされた。再上場した時、物言う株主はまた来るだろう。そのとき、経営陣がしっかりと向き合えるかどうかが課題だ」と話す。

かなりきついことを申し上げました。さらにきついことを申し上げると、東芝の逃げの体質は不正会計から始まったことではないと思っています。東芝はずっと昔から逃げの体質だったのではないでしょうか?例えば以下。

https://www.ndl.go.jp/nikki/column/07/

労働争議が続発し、一部では暴力事件が発生するなど、労使間の対立が激しくなる中、東芝を立て直すために石坂泰三氏がやってくるのですが、当時東芝は役員会を会社で開かず、いろんな場所でやっていたそうなのです。理由は「過激な組合交渉から逃れるために役員会の会場を転々と変えていた」のだそうです。役員の席に組合員が押し掛けてこないよう逃げていたのですね。石坂泰三氏はこうおっしゃっています。

石坂は、過激な組合交渉から逃れるために役員会が様々な会場を転々としている有り様を「少し馬鹿げている」と評し、組合に向き合わないそうした経営陣の態度こそ、第一に改めるべきものだと考えました。

「先第一に改善せらるべきは経営陣の改善である」との言葉どおり、石坂は社長への就任が決まると、労働組合側と正面から向き合う態度を示します。当時の労働組合委員長石川忠延が後に語った逸話によれば、石坂は社長就任が決まった後、突然に労働組合事務所へ「この会社の再建が私の仕事です。ざっくばらんに話し合いましょう。」と挨拶をしに来たそうです。

この頃、つまり昭和23年頃から東芝の逃げの体質形成が始まっていたということです。もしかしたらもっと前にきっかけはあったのかもしれません。

不正会計というのもある意味「逃げ」ですよね?本来のあるべき損益計算書をその場しのぎで塗り替える。実績を上げられず数値を改ざんする。プレッシャーからの逃げです。

不正会計をやった東芝は本来、上場会社としてはふさわしくありません。詳細な理由はわかりませんが、不正会計をやったのに東芝は上場に固執しました。上場を維持するために、ゴールドマンサックスの助言に乗っかり、アクティビストへの第三者割当増資という禁断の手段に出ました。本来は上場を廃止し、会社の根本を見つめなおし、改善させなければならなかったのに、逃げたのです。

石坂泰三氏に逃げ、そして土光敏夫氏に逃げた。でもこのときは逃げ場所がよかった。石坂氏と土光氏は東芝を再建することが目的の人たちだったからよかったのです。しかし今回は逃げ場所が悪かったのです。アクティビストは東芝の再建など考えていません。考えているのは東芝の株価の再建です。株価が上がれば後はどうでもよい人たちなのです。

そして逃げ場所を間違えたと気づいた東芝が次に逃げた先がJIPです。非公開化に逃げました。

さて、では東芝の今回の逃げ場所は正しかったのでしょうか?私は大間違いだったと思っています。JIPが東芝を非公開化する目的はなんでしょうか?アクティビストと同じですよ。やり方は多少違うと思いますが、JIPの目的も石坂氏や土光氏とは違い、アクティビストと同じく東芝の株価を上げることです。株価を上げてJIPの利益を最大化することにあります。つまり石坂氏や土光氏は東芝という「会社」を再建することが目的でしたが、アクティビストやJIPは東芝の「株価」を再建することが目的なのです。

東芝はいずれ再上場を果たすのでしょう。もちろん東芝という形で再上場できるのか、多数の事業が売却された東芝が再上場するのかはわかりません。ただ、東芝が再上場するまでの間にこの「逃げの体質」を改善できるかというと、私はかなり厳しいと思っています。おそらく東芝は今の東芝のままで再上場できるよう、JIPをはじめとした出資者と交渉していくことでしょう。東芝の目的は「今の東芝のまま再上場する」ということではないかと思います。その目的を達成するために東芝はまた逃げるでしょう。問題の本質を改善することなく。

東芝が仮に再上場できたとしても、おそらくまたアクティビストがやってきます。何年後に再上場できるかわかりませんが、そのときの日本の株式市場はアクティビストが今よりも跋扈しているはずです。アクティビストの要求も株主還元といった簡単なものではなく、もっと高度化・複雑化しているはずです。今よりももっと厳しい環境で東芝は再上場するのです。

会社の文化、体質って本当に大事ですね。そういったものを築き上げたり、守ったりするだけではなく、ときには改善したりするのも経営者の仕事ですよね。

 

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