2017年01月13日

No.46 一定割合の株式を取得されてから買収防衛策を導入できるか? など2コラム

■一定割合の株式を取得されてから買収防衛策を導入できるか?

 そういう事例はたくさんあります。一般的に買収防衛策は「20%以上の株式を取得する場合は、事前に情報を提供してください。また、検討するための時間をください」という設計にしているケースが多いです。そもそも20%という基準が何かに明確に定められている訳ではなく、おそらく20%持たれると持分法適用会社になってしまうから、という理由かと思います。

一定割合の株式を投資ファンドなどに取得されてしまい、取得割合が20%を超えてしまったケースで導入する場合、トリガーを25%程度に設定する場合があります。トリガーを20%超で設定している企業は、すでに投資ファンドなどに株式を取得された後で買収防衛策を導入したケースが多いと考えられます。

 ですので、実例からすると、投資ファンドなどに株式を取得された後でも買収防衛策を導入したケースはありますし、導入できると考えます。しかし、よくよく考えると「後出しジャンケンだよね」です。

 私が買収者なら「我々が株式を取得した後に導入した買収防衛策に従う必要はない」と主張します。まだやったことのあるファンドはいませんが、更に踏み込んでネガティブキャンペーンを展開することも考えられます。先手を打ちます。

 以前私は「買収防衛策を導入しないまでも検討だけはしておき、いざという時には買収防衛策を即座に導入できる体制にしておいた方がよい」と書きました。買収者に「後出しジャンケンだ!」などとネガティブキャンペーンを展開されたらどうすればよいのでしょうか?

 平時から「買収防衛策の必要性を検討している」と表明しておきましょう。どこで表明するか?招集通知とコーポレートガバナンス報告書です。

 招集通知の「当社の財務及び事業の方針の決定を支配する者のあり方に関する基本方針について」とコーポレートガバナンス報告書の「買収防衛策の導入の有無」です。買収防衛策を導入していない企業は、項目自体を掲載しないか、もしくは、「買収防衛策の有無:なし」としています。そこで「当社は現在買収防衛策を導入していないが、常に買収防衛策の必要性について検討しており、必要に応じて買収防衛策を導入することがある」といった内容を記載しておいてはどうでしょうか。そうすれば、買収者が現れたとき、事後的に買収防衛策を導入しても「以前から買収防衛策は経営課題として検討していた」と主張することができます。また、平時のうちから買収防衛策の文案を検討しておき、東証にも趣旨を理解してもらって相談しておいてはどうでしょうか?そうすれば、有事に東証への事前相談も時間がかからないでしょうし、即座に買収防衛策を導入できます。「以前から検討していた」ことがよりアピールできます。

■株主数を大きく増やした企業

 2017年1月5日の日経電子版に掲載されていた記事です。詳しくは日経をご覧ください。記事には「国内上場企業の7社に1社で、株主の数が過去半年間で2ケタ増えたことがわかった。株式を小口に分割したり配当を手厚くしたりして、個人投資家に株主になってもらいやすくする企業が増えたことが背景にある。取引先などとの株式持ち合い解消が進むなか、株主の裾野が広がってきた。」とあります。

 まず申し上げたいのは、数を増やしても意味はありません。重要な点は「率」です。「よし!個人株主数が倍になったぞ!」 でも、個人株主比率が1%しか上昇していなかったら?もちろん、率を上昇させるためには、数を増やす必要はあります。ある程度の数の増加は甘受する必要があります。

 しかし、記事では、

「2016年4月末から9月末までの間に期末・半期末を迎えた各社の直近の株主状況を日本経済新聞が集計したところ、半年前に比べて株主の数が1割以上増えた企業は501にのぼった。東京証券取引所によると、16年3月末時点の個人株主数(延べ人数)は4944万人と1年前と比べて8%増加。上場企業の株式は金額ベースでは外国人が3割を保有するが、株主の数では個人が97を占める。株主数が大きく増えた企業では、個人株主の増加が効いたとみられる。」

「がん治療薬「オプジーボ」が話題になった小野薬品工業の昨年9月末時点の株主数は半年前の4.4に急増した。」

「6月に1株を2株に分割した家電量販大手のケーズホールディングスも株主数は約3割増えた。「長期保有の安定株主を獲得したい」(同社)といい、株主優待制度の拡充も検討している。」

「9月末時点の株主に支払う中間配を増やした味の素やセイコーホールディングスなどもそれぞれ5割前後、株主数が増えた。」

 日経は個人株主の数ばかり注目しています。もちろん、マスコミの観点からは数に注目するのは理解できます。しかし、大切なポイントは個人株主の数ではありません。総務部の立場からは「数増えても嬉しくないよ」ではないでしょうか。また、私の仕事上、記事中の表現に関してどうしても指摘したい箇所があります。「持ち合い解消が進み、金融機関や事業会社による株式保有が減るなか、上場企業にとっては個人投資家を新たな安定株主に取り込みたい狙いもある。」と記事には記載されています。狙うのは勝手ですが、個人投資家は安定株主ではありません。「細かいね」とお思いになるかもしれませんが、これはきちんと理解しておく必要があります。

 皆さんの会社に証券会社の方が来て「持ち合い解消をするのなら売出しにしてもらったらどうですか?個人株主に持ってもらいましょう。個人は安定株主ですよ」という証券マンがいたら、こういう質問をしてみてください。「へえ。個人って、時価の2倍のTOBがかかっても売却しないの?」と。たぶん「御社の価値はそんなもんじゃないですよ。個人をファンにしましょう!うちの個人顧客は中長期的に保有する質の高い個人ですよ!」と言います。

 「質の高い個人」とはなんぞや?中長期的に持つ個人投資家は質が高い?よくわかりません。ちなみに私は前職時代に皆様に「質の高い個人」と申し上げたことはありません。

 個人投資家は基本的に「株価が上がれば売る投資家」です。個人投資家は「逆張りの投資家」です。株価が上がれば売り、下がれば買う、ということです。株主総会における議決権行使は投票しないか白紙で投票するので、総会運営上はメリットがあります。でも、高い価格でTOBがかかったら売る可能性があると理解しておくべきです。誤った認識をしていると、株主総会や買収時の票読みを見誤ります。

 安定株主が減る状況において、個人株主は「準安定株主」として位置づけられるとは思います。持ってくれる先がなければ個人株主に持ってもらうのはよいと思います。しかし、あくまで準安定株主であり、絶対的な安定株主ではありません。総会や買収時の核となる安定株主をきちんと管理し、そのうえで株主構成を検討する必要があります。

 

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