2017年10月18日

No.190 信託銀行も個人株主ビジネスに参入?

 昨日10月17日(火)の日経7面にあった記事です。

三井住友信託銀行はSBI証券と組み、企業の株主が抱える持ち合い株を個人投資家に販売する信託商品を開発した。三井住友信託が売却株の信託を受け、SBI証券が投資家の買い付けを取りまとめる。市場を通さずに株式を一括で売却でき、株価下落などの影響を抑えられるという。個人投資家が安定株主の受け皿となるようなしくみを整え、企業の持ち合い解消を後押しする。大株主が個人投資家に株式を売却する手段には、証券取引所で取引が始まる朝の時間帯を使う立会外分売がある。ただ株式の流動性が低ければ、売却時に株価が下落するなど企業にとっては使いづらい面があった。今回のしくみでは、三井住友信託が株主から売却株の信託を受け、SBI証券が募った買い付けの希望数に応じて株式を短期間で売却する。SBI証券は個人投資家を中心に400万以上の証券口座を抱え、企業にとっては幅広い投資家に株式を持ってもらえる利点がある。投資家も売買が約定する前営業日の終値より3%程度安く株式を買えるようになる。三井住友信託とSBI証券は約定金額の1%ずつを手数料として受け取る。企業統治を高める観点から、企業が取引関係の維持などを目的に保有する持ち合い株(政策保有株)を解消する流れが強まっている。ただ株価への影響や売却後に形成される株主構成への警戒も強く、円滑に進みづらい面があったという。

 持ち合い解消に伴い、受け皿となる株主を企業は探しています。野村證券でも持ち合い株の売却先として個人投資家をすすめていました。証券会社や信託銀行、銀行は手を替え品を替え、皆様のところに「ガバナンス改革が進んでいますよ!持ち合いに対する批判も高まっています!お持ちの株、機関投資家に保有理由を適切に説明できますか?売却すべきですよ!」と営業をかけるでしょう。私もやりました。ただ、私はこのような稚拙なセールストークをした覚えはありません。私は顧客に対して保有株を売却してもらい、手数料をかせぐための営業活動をしたことはないです。今後の株主構成を考えましょうという布教活動はしました。その過程において「相手先の株主構成のことも考慮し、個人向けに販売するという方法もあります」「ただし貴社が売却した場合、貴社の安定株主比率に影響が出ます。今後の株主構成を考えると、個人株主に持ってもらうことが得策です。」というご説明をしています。各金融機関が提示する売却手法はいろいろありますが、特段、目新しいものはもうありませんし、売却手法で特色を出すのは困難でしょう。極論ですが、どこの金融機関を使っても一緒です。

 「持ち合い株を売りませんか?こういう売却手法があります!」 このような手数料かせぎのための外交は品がないので好きではありません。会社の安定株主や株主構成に対するビジョンや理念がないからです。貴社の持ち合い株は多いのか少ないのか?それはなぜなのか?安定株主比率は高いのか?個人株主を増やすべきなのか?自助努力で増えないのか?売りそうな株主はいないのか?・・・こういうことを会社と突き詰めて議論した上で、どの株を売却するのか、誰に売却してもらうのかを考えないとダメです。単純に「個人に売りましょう~個人に買ってもらいましょう~」ではいけません。個人株主に株を持ってもらったときのメリット、デメリットについての分析も必要です。

 最近、各社に対して金融機関からの持ち合い株の売却提案が増えているように思います。なぜでしょうか?株価が上がってきているからでしょうね。それともう一つ。金融機関のビジネス環境もしんどいのでしょう。何とか株式売却の手数料を得たい。そのためにいろんな売却手法を提示する・・・。そのような提案は、会社の株主構成に関する将来像を示していません。顧客のための提案ではなく、金融機関の手数料のための提案です。そもそもなぜ会社は持ち合いをしているのでしょうか?どうして売却しなくてはならないのでしょうか?そこを考えないとダメです。持ち合いをしているのは、会社を守るためです。目的のよくわからない反社会的勢力とも言えるような先から守るためです。どうして売却せざるを得なくなったのか?資金が必要だから、持ち合いをし過ぎたから、相手先が売りたいと言ってきたから、など様々です。しかし、会社は一定程度の安定株主を確保したいのです。であればどういう売却方法がよいのか?

 本当に突き詰めたら、別の安定株主に持ってもらうのが一番なのです。しかし、このご時世、そう簡単に事業会社が株式を持ってくれるはずがありません。だからと言ってすぐに「やっぱり個人投資家ですよ~」などと説明する金融機関は信用なりません。確かに他に持ってくれる安定株主がいない以上、準安定株主である個人投資家に持ってもらうことが得策なのでしょう。ただし、個人投資家は株価が高くなったら売ってしまう株主であることは認識しておく必要があります。株主総会においては白票を投じてくれますが、いざ敵対的TOBを仕掛けられたら安定株主としては機能しません。ではどうするのか?買収防衛策の導入だって検討する必要があります。保有株式を売却するかどうかは重要な経営課題です。流行りのガバナンス議論だけで検討するものではありません。売却手法の検討などは本来最後にやるものですし、それほど重要なものではありません。最近の金融機関の提案はまさに出口だけの提案であり、入り口と過程をすっ飛ばしたものです。

どういう株主構成を目指すのか?安定株主比率の低下をどこまで許容するのか?この議論をせずに株式売却の提案などあり得ません。

 

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週刊ダイヤモンド「最強投資家が狙う割安株」P36に以下のような記述がありました。

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そもそも持ち合いを批判するステークホルダーって株主だけですし、そりゃ株主は批判しますわな。株主以外のステークホルダーで持ち合いを批判する人はいません。当然ですね。

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