2017年09月01日

No.158 安定株主を減らして浮動株を増やした方が時価総額は拡大する?

 時価総額が拡大しない理由の一つとして「安定株主比率が高すぎて、浮動株が少ないからマーケットで適切な株価形成がなされていないのではないか」という意見を耳にすることがあります。私も一時期、「確かにそうかも」と考えました。安定株主比率が高すぎて、浮動株が少ないから、当該企業の株価形成が特定の株主の投資行動によって歪められているのではないかと考えたからです。例えば、上場子会社などは比較的、株価が割安状態です。それに目をつけたのがエフィッシモなどでしょう。

 しかし、安定株主比率が高くて浮動株が少ないから時価総額が小さいという考え方は間違いだと今は考えます。以下、ある会社の株主構成です、外部から見た安定株主比率は64%です。さて、どこの会社でしょうか?ちなみに、この会社の時価総額は10兆円です。

 答えはNTTドコモです。

その他の法人の持株比率は64.18%とかなり高いですね。これはNTTが保有しているからです。NTTドコモはNTTが63.32%の株式を保有していることから、安定株主比率は一般的な水準と比べても相当高いです。しかし、時価総額は10兆円でもあります。多数のデータを見た訳ではないので、正確ではないかもしれませんし、もしかしたら、安定株主比率が高い会社の時価総額は本当に低いのかもしれません。ですが、NTTドコモを見る限り、それは当てはまりません。

 昨今、証券会社の競争は激しくなってきています。また、株主判明調査を行っているIRアドバイザーも同様です。各社とも、ビジネスを獲得するために、あの手この手のセールストークを展開します。その一つとして「安定株主比率が高すぎると、時価総額が拡大しない。だから安定株主を多少犠牲にしてでも時価総額拡大を図るべき」というセールストークがあります。そのために証券会社は「売りたいという安定株主をとりまとめて個人投資家向けに売出しをしましょう」とささやき、IRアドバイザーは「個人投資家向け説明会を充実させましょう」とささやきます。

 売出しで個人株主を増やすことには賛成です。なぜなら建て株会社にコストが発生しないからです。売出し人が負担します。建て株会社にコストが発生しないのならやったほうがよいでしょう。ただし、売りたいと言う株主が大勢いたら、です。こちらから「売りませんか?」などと聞きに行く必要はありません。まあ、売りたい株主との交渉のためにあえて聞きに行くことも考えられますが。

個人投資家向け説明会の実施には反対です。なぜなら、かけた労力とコストの割に個人株主が増えないからです。個人投資家向けの対応は、年に一度の株主総会で十分です。

 本当に貴社にとってよりよい施策なのかどうか、証券会社やIRアドバイザーの都合で提案されたものではないかどうかを吟味する必要があります。一歩間違えると、ホワイトナイトへの救済を依頼してしまったソレキアのように、買収されてしまうことだってあるからです。たった1%の安定株比率の低下が、貴社の自主独立した経営を危うくすることだってあります。

 

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