2017年10月13日

No.187 物言う株主 名門狙う

 10月12日の日経15面にあった記事です。なお、10月11日の日経16面にも「GE、取締役に物言う株主 株価重視の経営を強調 外圧で改革の思惑も」という記事がありました。最近、このような記事をよく目にするようになりました。以下、GEの株価です。

 GEはトライアン・ファンド・マネジメントの最高投資責任者を取締役として受け入れたそうです。トライアンはGE株を約1%保有しているそうです。なお、トライアンはP&Gに対して取締役の派遣を要求し、プロキシーファイトをしていたようですが、P&Gが勝利しました。トライアンが持つP&G株式は1.5%だそうです。トライアンは両社の株式をそれほど持ってはいません。

 10月12日の記事に少し気になるところがあります。コラムで散々取り上げましたので、皆さんも気になったかもしれません。

あふれるマネーは日本にも流入してくるのか。「再び米アクティビストの日本企業への関心を呼ぶ契機になる可能性がある」。ニューヨーク在住のある市場関係者は、今年6月の黒田電気への株主提案が可決されたことに注目していた。村上世彰氏が関与する投資会社レノによる社外取締役選任の提案だ。これまで日本の投資家はアクティビストと距離を置き、提案にも賛同をためらうと見られていた。レノの提案に一般株主が賛同したことに変化の兆しを感じるという。日本には現金を豊富に持ち、株価が割安な企業も多い。アクティビストが「物言う」相手には事かかない。

 私の感想は「あふれるマネーは日本に必ず流入してくる」です。ただし「そう簡単に株主提案は可決されない。ある程度の安定株主を確保している企業なら。」です。黒田電気の株主構成をおさらいしてみましょう。

法人比率が22.33%となっていますが、これには村上さんグループであるレノやオフィスサポートなどの持分も入っています。また、個人株主比率が39.44%となっていますが、村上絢氏や中島章智氏の持分が入っています。安定株主比率は5%程度です。純粋個人株主比率も20%程度です。以前書きましたが、黒田電気に関しては「株主提案が可決された!」として注目されるケースではありません。村上グループで約38%も持っていれば、そりゃ提案すれば可決できるでしょう。黒田電気の問題点は村上グループに38%も持たれてしまったことです。GEやP&Gのように、村上グループが株式の1%程度しか持っていなかったら、黒田電気に対して株主提案をしても、おそらく可決されていなかったでしょう。このように外国人株主比率が高い会社であっても、です。株主提案で提案サイドが勝利するのは難しいのです。個人の白票がけっこう影響しますから。

 と言っていられたのは昔の話かもしれませんね。と言うのも、機関投資家が株主提案に賛成し始めたからです。黒田電気の株主提案に関して、賛成した日本の機関投資家を新聞記事でチェックしてみましたが、見当たりません。ニッセイアセット、大和証券投資信託、三井住友信託銀行、野村アセットなどは株主提案に反対したそうです。まあ、村上さんによる提案だから反対ありきで検討したのかもしれませんし、そもそも大株主が推薦する社外取締役だから反対したのかもしれません。一方、機関投資家が賛成した株主提案もあります。役員報酬の個別開示や株主総会での配当決定、相談役・顧問の不設置に関する定款変更、持ち合い株の適切な議決権行使に関する定款変更などは賛成しているケースが見られます。

 これまでの日本企業に対する株主提案に関しては、可決されたことはほとんどありません。これからはどうなるでしょうか?10年前にやってきたスティール・パートナーズの比にならないアクティビストたちがやってくる日は近いと考えておいたほうがよいです。そして、これからは本当に可決されてしまうかもしれない時代です。

 なお、実は株主提案が可決されることが本当の恐怖ではありません。アクティビストの狙いは何なのかをよく見極めることです。アクティビストの狙いは会社の株を買って、会社に嫌がらせをすることではありません。簡単ですね。彼らの狙いは株価を上げて売り抜けることです。そのために株主提案をするのです。株主提案は目的ではなく手段です。そして、株価が目標に達すれば市場で売るでしょう。しかし、大量に株式を取得した場合は別です。市場で売り抜けられません。この場合の狙いは、一見ホワイトナイトに見える第三者に売却することです。本当に黒田電気のケースが「再び米アクティビストの日本企業への関心を呼ぶ契機」になるのなら、本物のアクティビストは村上ファンドの狙いや本質を見抜くでしょう。「日本ではまだこういうことができるのか?日本のマーケットは米国より20~30年遅れているな。これからは大いに日本で稼がせてもらおう」と考えるのではないでしょうか。今日の「私の履歴書」に「米国では75年に株式委託手数料が完全に自由化されていた。」とあります。日本で株式委託手数料が自由化されたのは1999年です。米国に遅れること24年。KKRがRJRナビスコに敵対的TOBを仕掛けたのは1989年です。スティール・パートナーズや村上ファンドが日本で敵対的TOBを仕掛けたのは2003年頃からです。米国のマーケットで起きたことは必ず日本のマーケットでも起きます。今日の日経に「物言う株主に手詰まり感」という記事があります。物言う株主が手詰まっているのは米国においてです。米国で手詰まったアククティビストが次に狙うのは日本企業であることは間違いありません。

 

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