2016年11月28日

No.25 キヤノンの株主構成の変化など2コラム

■キヤノンの株主構成の変化

株主構成関連のテーマを続けます。本日はキヤノンを取り上げてみたいと思います。新人の頃、資料に「キャノン」と書いて上司に怒られた記憶があります。

 キヤノンの個人株主比率と外国人株主比率の推移は以下のとおりです。

 キヤノンは、知名度があり時価総額も大きいのに、個人株主比率が低い企業の代表でした。私が勝手にそう思っていただけですが。

 キヤノンの個人株主比率と言えば、一桁台でした。グラフのとおり2011/12期あたりまでは一桁でした。ただ2012/12期の個人株主比率は11.38%となり、直近の2015/12期は18.74%まで上昇しました。株価推移は以下のとおりです。

2008年頃までは株価が高かったんですね。「キヤノンはいつ1単元の株式の数を変更したの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。キヤノンは平成16(2006)年5月6日に1,000株から100株に変更しています。随分前です。ただ、2005/12期末と2006/12期末の個人株主数を比べると、74,463名から117,791名に増加しています。

あとはキヤノンと言えば自己株取得(自社株買い)でしょうか。キヤノンの自社株買いに関するプレスリリースなどを正確に分析したわけではないので、あくまで想像です。

10年前は60万~70万くらい出さないとキヤノンの株式を買えなかったけど、最近では30万~40万出せば買えるようになった。自社株買いを積極的に行っており、株主還元を強化している。と見えるから個人株主もキヤノンの株式を取得するようになってきた。知名度に個人株主比率が追い付いてきた、というイメージでしょうか。

個人株主比率を上昇させることは非常に難しいですが、個人株主が増えるであろう方策、例えば、単元の見直し、株式分割、株主還元強化、などを複合的に行っていけば、増えなくはないんです。

■買収防衛策と社長選任議案

 買収防衛策を導入するには株主総会にかける必要がある、というのが一般的なイメージです。しかし、実は買収防衛策を株主総会にかける法的義務はありません。なぜなら買収防衛策というのは会社法上の株主総会議案ではないからです。経営判断として取締役会決議で導入して問題ありません。例えばパナソニックは取締役会決議で導入し、役員選任議案に「各候補者は買収防衛策導入に賛成しています」といった注を付しています。「間接承認」と言われています。

 ただ、多くの会社は買収防衛策を株主総会に諮っています。よく「宣言的決議」と言われます。しかし、買収防衛策を株主総会の議案にしないと、ISSは会長、社長の選任議案に反対推奨します。このため、多くの会社は「買収防衛策を否決されるならまだしも、会長、社長の選任議案が否決されては本末転倒」と考え、買収防衛策を株主総会に諮るという安全策を取ります。でも、本当に社長選任議案が否決されるのでしょうか?

 以下の事例は2012/12期にかかるキヤノンの株主総会の議決権行使結果です。キヤノンは買収防衛策を導入している訳ではありません。見ていただきたいのは御手洗さんの賛成率です。他の役員と比べて賛成率が20ポイントほど低いです。ちなみに、前年の御手洗さんの賛成率は90.57%でした。前年と比べても相当低下しています。

 理由は簡単で、ISSが反対したからです。ISSは2013年2月以降に開催される株主総会から、社外取締役を選任していない企業の経営トップに反対する方針だったからです。ちなみに、当時はキヤノンとトヨタが社外取締役を選任していない日本の代表企業と見られていたと思います。しかし、2013年3月、キヤノンの株主総会のほぼ直前に、トヨタは社外取締役を3名選任することを公表しました。

 ここで注目していただきたいのは、御手洗さんの賛成率が低かったこと、ではありません。もう一つ見ていただきたい議案があります。それは第3号議案 退職慰労金制度廃止に伴う打ち切り支給です。この議案もISSはよく反対します。賛成率は66.01%でした。御手洗さんと退職慰労金打ち切り支給の議案を見比べてみてください。退職慰労金打ち切り支給のほうが賛成率が低いです。両方ともISSが反対推奨しています。であれば、同じ程度の賛成率になるはずでは?

 御手洗さんの議案のほうが6ポイントほど賛成率が高くなっています。つまり、ISSが「社外取締役を選任していない企業の経営トップには反対する」といって機関投資家に反対推奨をしても、機関投資家の中にはISSの推奨通りに議決権行使をしなかった人がいる、ということです。

 たぶん「社外取締役がいないことのみをもって経営トップの選任議案に反対するというのはどうか」と考えた機関投資家がいたということではないでしょうか?

 買収防衛策も同じことが言えると思います。買収防衛策を議案にしてしまうと、機関投資家としてもISSの推奨どおりに反対すると思います。しかし、買収防衛策を株主総会議案とはせず、パナソニックのように間接承認にしてしまえば、経営トップの選任議案が否決される事態にまではならないと思います。パナソニックは毎年買収防衛策を更新しています。

 なお、機関投資家に対して、なぜ買収防衛策を導入するかなどをきちんと説明する必要はあると思います。説明の仕方やコーポレートガバナンス体制なども工夫する必要はあります。

 純投資と主張しながら経営に重大な影響を与える株式を保有する投資家が存在する今、もう一度、本当に買収防衛策が必要ないかどうか、企業防衛・企業価値向上に関する議論をする必要がないかどうか、あらためて検討するときがきたように思います。

 

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