2017年11月16日

No.210 IRとは・・・

 何年も前ですが、事業会社のIR部の方に勉強会をしました。個人投資家を増やすことの重要性についてです。「個人株主をファン株主にしましょう!」といったおとぎ話をしに行ったわけではありません。安定株主が減少する状況における個人投資家の重要性についてです。その会社のIRの担当者から「でも個人株主が増えると大変なんです!だって個人株主から電話がかかってくると、ものすごく長い時間拘束されるんです。この間も、取るに足らない話を延々と2時間も聞かされたんです!」という発言がありました。私は「電話、切ったらよかったじゃないですか?」としれっと答えたところ、その担当者は「切れる訳ないじゃないですか!切ったら掲示板に何を書かれると思ってるんですか!」と怒りました。私も当時はまだ若かったので「ほっとけばいいんですよ、そんなの。そんなのは株主ではありません。ただのクレーマーです。そもそも掲示板などの影響で貴社の株価が下がることなどあり得ません!」と答えましたが、その方の怒りは鎮まりませんでした。当時若かったので生意気な口調で答えたのかもしれませんが、年を取った現在でも回答内容に変化はありません。そんな個人株主は株主ではなくクレーマーに過ぎません。そもそも、IR部は個人株主からの電話質問などに対応する部署ではないと思います。はっきり言って個人株主のレベルは低いですし、IR部というのは機関投資家対応のための部署と考えられます。個人株主に関しては「株主総会に来てください」「個人投資家向け説明会で対応しています」という対応で構わないと思います。そのようなレベルの個人株主のいわば愚痴に2時間も対応するなど考えられません。その方に会社がかけているコストと仕事内容が合っていません。

 あんまり申し上げると怒られますが、個人株主に対して本気で対応しようなんて思わないほうがよいです。IRは財務や経営の話を理解できる機関投資家に向けた仕事なのです。個人株主はマス対応にしておくのがベストです。最近の世論を見ると、株主総会の分散化とか開かれた株主総会とか言われていますが、ちゃんちゃらおかしい話です。怒られない程度に対応しておけばいいのです。そもそも株主総会開催前に議案の賛否は決まっています。株主総会はセレモニーであり、いかにうまく回すかが重要なのです。

 こういうと「個人株主に長期保有してもらうには、丁寧に対応した方がよいのではないか?」とおっしゃる方がいらっしゃるかもしれませんが、機関投資家ではない投資家に長期間で持ってもらおうとする発想自体が理解できません。もっと言うと、機関投資家であっても長期間で持ってもらいたいという発想自体も理解できません。なぜ皆さん、そんなに長期間保有してもらいたいと思うのでしょうか?「証券会社が、うちの顧客は中長期的に保有する投資家ばかりですよ、って説明してるじゃないか!」 すみません。元証券会社の社員としてお詫び申し上げます。あれ、ウソですよ。そんなわけないじゃないですか。他証券との差別化のために言っているセールストークに過ぎません。野村の顧客だろうが、大和の顧客だろうが、皆さん一緒です。「IRをやって、優良な機関投資家に長期間保有してもらいましょう」 はい、これも証券会社やIRアドバイザーのウソです。優良ってなんですかね?そもそも、ある程度の規模の会社はIRなんてやらなくても、機関投資家が「買い」だと思えば買います。アドバイザーが進めるIRはIRアドバイザーの仕事のために作った仕事です。機関投資家は銘柄探索能力を持っています。

以下の記事を見てみましょう(2015年4月3日の日経)。ファナックに関する記事です。IRって外注するもんなんですね・・・。

代表例が工作機械メーカー、ファナック。これまで投資家との対話に消極的とされてきた同社は、4月から対話の専用窓口「シェアホルダー・リレーションズ(SR)部」を設けると発表した。東京証券取引所が示した企業統治指針で、企業に投資家との建設的な対話を促したのが設置の背景にある。保有現金が豊富なファナックは米投資ファンドのサード・ポイントから自社株買いを要求されてきた経緯があり、市場からの圧力が強まっていた。実はIRジャパンはこの対話窓口の業務をファナックから受託している。投資家からの要望を整理したりする情報とりまとめ役を担う。直訳すると「株主関係」となるSRは耳慣れない言葉だが、IRジャパンは1998年からSR支援業務を細々と続けてきた。ファナックからの案件でようやくまいた種が花開く時が来た格好だ。寺下社長は「すでに複数の企業からSR分野で助言がほしいと依頼が来た」と明かす。

 正確にはIRではなくSRなのですが。ファナックってアタマいいですねえ。SRを外注するという発想は当時の私にはありませんでした(SRの一部の外注かもしれませんが)。なぜファナックは外注したのでしょうか?コストの高いファナックの社員を充当したくなかっただけでしょう。コーポレートガバナンス・コードが制定され、IRや株主対応について世間からうるさく言われるようになり、何かやらないと批判されるから対応したのでしょう。でもコストの高い社員をSR業務には当てたくないから「そうだ!外注しよう!」と考えたのではないでしょうか?ファナックの平均年間給与は13,183千円です(有報より)。業者がいくらで受けているかはわかりませんが、安くできるのなら外注しようと考えた可能性はあります。そもそも外注ってそういうもんでしょうし。ではSRを外注し、積極的なIR活動を行っていないと思われるファナックの株価は右肩上がりです。

 IR活動って何なのでしょうか?私は適切に会社の情報・状態を投資家に伝え、本来の企業の価値と株価のギャップをなるべく解消するための活動と認識しています。また、投資家の声を拾い上げ、経営に正確に伝えて、経営側でも企業の価値と株価のギャップをなくすための行動を促すための活動でもあります。ただし、現在の情報化社会において、IR活動の結果、「おお、そうなのか!割安じゃないか!」などと考えて投資家が株を買うなどということは考えにくいです。以前にも申し上げましたが、バランスシートの左右を使わないことには株価は上がらないです。

 IRという言葉を使い始めたのはGEだと記憶しています。SRって言葉はいつから使われるようになったのでしょうか・・・。IRビジネスが飽和状態になり、「よし!IRだけだともう儲からないから、次はSRじゃー!」と業者が考えたのでしょうね。

誰のためのIR・SRなのでしょうか?投資家や株主のためのものではなく、業者のためのもののような気がしてなりません。SR活動って、株主総会と適時開示だけでは足りないのでしょうか?どうして上場企業の負担がどんどん増えるのでしょうか?「IRだけでなくSRもやって株価を上げましょう、社長!」 社長!そんなことで株価が上がる訳ありませんから!ただでさえ忙しい社長が振り回されてはいけません。

IRについてはいろいろな見解をお持ちの方がいらっしゃると思いますので、皆さんのお考えをぜひお聞かせください。

 

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