2017年03月04日

No.64 片倉工業への株主提案など3コラム

■片倉工業への株主提案

 2017年3月4日の日経15面に掲載されていた記事です。香港に拠点を置くオアシス・マネジメントというファンドが片倉工業に対して株主提案をしています。オアシスは片倉工業の発行済株式総数の3%を保有し、「事業ごとのROE公表を定款で取り決めた上で5%を下回る事業からは撤退し、収益の見込める事業に集中すべきだ」と提案したそうです。片倉工業は12月決算企業で、今月30日に株主総会が開催されます。

 では、この株主提案は可決されるでしょうか?ポイントは片倉工業の株主構成です。以下は2015年12月末のデータです。

 まず、株主構成を分析する前に気になる株主がいます。「ロイヤルバンクオブカナダ」ですね。はい、川崎汽船の株式を約38%保有しているエフィッシモがよく使っているカストディアンです。片倉工業は香港のオアシスだけではなくエフィッシモにも株式を持たれているようです。片倉工業の連結財務諸表を見ると、総資産1,500億円のうち、現預金224億円、有価証券22億円、投資有価証券374億円です。有利子負債は233億円です。時価総額は533億円です。多額の現預金や投資有価証券を保有している点に目をつけられたのでしょうか?また、筆頭株主の三井物産が10.22%保有しています。エフィッシモは資本上位会社が存在する企業にも目をつけますね。いろんな要素が重なり合ったがゆえに狙われたのでしょう。

 2つのファンドに目をつけられたのですから大変です。両方合わせると持分は7.3%です。オアシスの株主提案にエフィッシモが賛成したら、少なくとも7.3%の賛成票を得られますが、株主提案は可決されないでしょう。

 なぜなら今回の株主提案が「定款変更」だからです。定款変更は特別決議が必要ですから、可決させるには2/3の賛成が必要です。まずムリです。そして、外部から見た片倉工業の安定株主比率ですが、法人株主比率が17.95%です。また、上位大株主を見ると金融機関が登場しています。それらを合算すると、39.26%です。安定株主比率は相当高いです。仮に今回の株主提案が特別決議を要する議案ではなく、普通決議の議案であっても通らないでしょう。

 基本的にある程度の安定株主が存在する会社に対して株主提案をしても、可決されません。日本企業はある程度安定株主がいる会社が多いですから、日本企業に対して株主提案をしても可決されることはまずないと考えておいて問題ありません。しかも個人株主は白紙で議決権行使をすることが多いので、株主提案においては会社側のほうが有利です。

 ちなみに、片倉工業は買収防衛策を導入していません。安定株主比率が高いので、過半数をファンドに取得されることはまずないでしょう。しかし、1/3持たれるリスクはあります。1/3持たれてしまうと、特別決議が必要な議案を通すことができなくなってしまいます。買収防衛策を導入している企業は買収されるリスクよりも、相当程度の株式を持たれてしまうリスクを回避したいと考えている方が多いと思います。私が片倉工業なら、即買収防衛策を導入します。

■同じ記事の中でもう一つ気になるファンド

 同じく2017年3月4日の日経15面「ファンド提案に反対へ」の中に、もう一つ気になるファンドがいます。「ストラテジック・キャピタル」というファンドです。このファンドは図書印刷に対してROEを改善するよう要請する意見を表明したそうです。ストラテジック・キャピタルはホームページを開設しています(http://www.stracap.jp/)。

 ホームページにある会社概要を見ると、代表取締役は丸木強氏となっています。この方、皆さん、覚えていますか?もう一人の方が有名過ぎて、ご存じないかもしれませんね。

村上ファンドの設立メンバーの一人です。ちなみに、村上ファンドの前は、野村證券です。村上ファンドをしめたあと、2012年9月にストラテジック・キャピタルを設立したようです。このファンド、それほど有名にはなっていないと思いますが、2016年には4社に対して株主提案をしています。蝶理、新日本空調、図書印刷、日本デジタル研究所の4社です。大量保有報告書を提出している先もありますが、5%未満の投資先もあります。

「当社の出来高は少ないから、アクティビストファンドが大量保有報告書を提出するレベルまでは買えないだろう」と思っている方がいらっしゃるかもしれません。でも、ファンドが「うちは●●株式会社に対して株主提案をしましたよ!」とか「うちは●●株式会社の株式を2%保有する株主です。●●株式会社には経営改善要求をするつもりです!」と一方的に公表されたらどうなるでしょうか?何かが起きるかもしれない!と投資家が考え、株式を取得するかもしれません。そうなると、少なかった出来高が急増します。アクティビストファンドも買い増しやすくなります。

アクティビストファンドが目をつけた会社は、それなりに魅力があるということです。それは、事業上の魅力というよりは財務上の魅力です。配当・自己株取得の余力があるということです。片倉工業のように香港のオアシスだけでなく、エフィッシモのようなファンドにも目をつけられるリスクがあります。

ちなみに、エフィッシモも村上ファンド出身者が作ったファンドです。当然、ストラテジック・キャピタルの方と面識はあるでしょう。というか、村上ファンド時代は上司と部下という関係だったのだと思います。今でも連絡を取り合う仲かもしれません。

皆さん、目をつける企業はおんなじ、かもしれません。事業上の魅力の判断はファンドによって様々でしょうが、財務上の魅力は誰が見ても明らかです。財務上の魅力があり、安定株主比率が高くない場合、アクティビストファンドにとってはこれ以上ない魅力的な投資先に見えるのでしょう。

■最後にもう一つ気になる記事

 同じく2017年3月4日の日経15面です。「ソフトブレーンへ出資上げ スカラ、比率50.23%に」という記事です。経緯の詳細はすでに何度も書いていますが、わずか数日でスカラがソフトブレーン株式を大量に取得し子会社化したケースです。これまでの議決権比率は45.57%でしたが、さらに追加取得し、50.23%に引き上げました。以下、ソフトブレーンの株価・出来高推移です。

2017年3月3日に変更報告書を提出しました。最近60日間の売買動向を見ると以下のとおり、1日で発行済株式総数の3.76%を取得しています。

 上表のとおり、株価も急騰しています。ソフトブレーンは12月決算、3月総会の会社ですから、今回の取得は今月の株主総会には関係ありません。まあ、12月時点で約45%持っていますから、すでにスカラが勝ったようなもんですが。

 創業者の宋文洲さんはご自身のブログで以下のように綴っています。

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今年7月にある会社が、事前協議はおろか、TOB(株式公開買付け)などの手続きも踏まずに、市場からソフトブレーンの株を45.57%取得したうえ、彼ら自身が採用している会計基準である国際会計基準(IFRS)を用いるというテクニカルなやり方で、一方的にソフトブレーンを「子会社(IFRS上の)」にしました。この会社は先月までは株式会社フュージョンパートナー(以下FP社という)と称しますが、最近はスカラと社名変更したそうです。

株の大量取得の際、FP社はソフトブレーンの豊田社長に「持分法適用会社になるまで株を市場で買いたい」と説明しました。私はその情報を知った時、「持分法適用」の目的を信じて善意をもってFP社に接しました。マスコミの記者達が「珍しい敵対買収」として取材に来られましたが、私はFP社を信じてむしろ記者達を抑えたほどです。
しかし、その直後、このFP社は突然にやってきて「さらに買い進めて45%まで買った。当社はIFRSを使っているため、ソフトブレーンは当社の子会社になった」と宣告したのです。この会社が発表した取得目的も突如「持分法適用会社にするため」から「連結子会社にするため」と変更しました。
このような「潜水艦による奇襲攻撃」のような方式による企業買収に不信感を感じざるを得ませんでしたが、それでもソフトブレーン経営陣がFP社の提案を真剣に検討し、企業価値を上げるための協力関係を探りました。しかし、FP社からはソフトブレーンの企業価値向上につながるような提案がないうえ、「奇襲」による株取得に似たような、信頼を損なう行為が重なりました。
相当悩んだ末の判断だと思いますが、ソフトブレーン経営陣は正式にFP社の奇襲買収を敵対買収として認定することにしました。詳細についてはご興味がある方はソフトブレーンの正式発表をごらんください。

私が経営から引退した後、リーマンショックなどもあり、上場の前から会社を支えてくれた現在の経営陣と幹部と社員達は相当苦労しました。幾多の危機を乗り越えながらも米国企業との競争にも強みを発揮し、顧客満足の向上とシェアの拡大を続けてきました。ゼロ金利を利用し、ほぼノンコストで資金を調達し、騙し討ちで企業の株を買うことは簡単ですが、多くのお客様に信用していただくことと、国際競争に勝つことは容易いことではありません。
お客様との関係を築き上げてきた経営陣と社員達の理解を無視し、借金と奇襲による企業の株取得は企業の価値を損ない、社会に何の価値も提供しないと考えます。長い間、私は株主としてソフトブレーンの経営陣と社員達に寄り添ってきましたが、敵対の大株主が資本の原理で彼らの意思を無視するようなことをした場合、私は今後のソフトブレーンに未練がなくなります。
私の愛情は常に企業内外にいる人間達(社員、顧客など)に向けるのです。箱ものの企業そのものに関心がありません。たとえその企業が私が創業し育てた企業であっても。

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 ほぼ全文です。おっしゃっていることは、感情的には理解できなくはないのですが、上場している以上は甘い考え方です。上場している以上は潜水艦による奇襲攻撃をされるリスクを常に抱えています。ソフトブレーンのケースは珍しいケースではありません。過半数を超える株式を市場で取得されたという意味では珍しいですが、突如としてある程度の株式を取得されることなど珍しくありません。このようなケースは起こりえます。厳しい言い方をしますが、ソフトブレーンは創業者である宋氏が株式を持っていることに甘えていたと考えます。創業者が株主として残っているから安定株主対策のことなど考えもしなかったのでしょう。むしろ「会社のカネを使って安定株主対策など考えるほうがおかしい」と考えていたかもしれません。ましてや買収防衛策など気にもかけなかったでしょうし、「買収防衛策ってなに?」という状態だったかもしれません。創業者が株式を持っていることで、株主構成に対する危機感がなかったため、買収対策など考えもしなかった。だから買われたということです。

 ソフトブレーンは買収防衛策さえ導入しておけば買収されることはありませんでした。ちなみに、来週ころには何らかの動きがありそうな、現在敵対的TOBを仕掛けられているソレキアも。ソレキアについては、買収者である佐々木ベジさんも、買収防衛策を導入されるとやっかいだから事前に接触をしなかったことを認めています。

 「うちは安定株主比率が高いから大丈夫!」

 はたしてそうでしょうか?持ち合い解消が進んでいます。いつ安定株主が「株式を売却させてほしい」と依頼してくるかわかりません。自社を守ることができるのは他社ではなく、自社にしかできません。防衛ツールを持つか持たないかで会社の命運が大きく変わってきます。日本で本格的な敵対的買収が起きてから10年たちました。再度企業防衛について考え直すべき時期が来ていると認識すべきではないでしょうか?

 

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絶対に成功しないことはこの道のプロなら初めからわかっていましたし、ストラテジックキャピタル自身が一番わかっていたでしょう。

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