2017年03月10日

No.66 大塚家具の株主総会~ISSは役員選任議案にどう推奨するのか?~など2コラム

■大塚家具の株主総会~ISSは役員選任議案にどう推奨するのか?~

 大塚家具は12月決算ですので、今月株主総会が開催されます。大塚家具の招集通知を見ると、3月24日に開催されるようです。今回の議案は、剰余金の処分と定款変更、役員選任などです。定款変更議案は、監査等委員会設置会社への移行に関するものです。役員選任議案には大塚久美子社長も含まれています。

 さて、ISSはどうするのでしょうか?久美子社長とお父さんの大ゲンカのとき、ISSは久美子社長を支持しました。以前のコラムにも書きましたが、ISSは大塚久美子社長が外部環境の化を正しく把握し、その化に対応しうる経営戦略をげ、またその行が可能な社外取締役候補の陣容を擁立していること」などを理由に支持していました。

 大塚家具の経営成績を見ると、とてもじゃないですが久美子社長が外部環境の変化を正しく把握していたと思えませんし、変化に対応する経営戦略を実行できたとも思えません。

 久美子社長はお父さんと大ゲンカしたときに主張した中期経営計画を取り下げました。「この戦略を実行して企業価値・株主価値を高めていくから、株主の皆さん、どうかわたしを支持してください」と訴えた訳ですが、実行できなかったということです。

それを支持したISSは機関投資家に対して、今回の大塚家具の議案をどう推奨するのでしょうか?機関投資家に「なんで2年前は久美子社長を支持したの?」と聞かれたらどう答えるのでしょうか?

「いやー、だってあのお父さんを支持できなかったしょ?」「あのときは久美子社長の言い分が正しかった」とでも回答するのでしょうか。かなりダサいです。プロの意見とは思えません。

 では、今回の久美子社長の選任議案には反対するのでしょうか?2年前のプロキシーファイトで主張した経営計画を実行できなかったのだから、その責任を問うためにも反対推奨する可能性があります。では、誰が社長にふさわしいのでしょうか?反対推奨はするけど、人選は会社が考えろ、ということなのでしょう。久美子さんは社長に不適格だけど、適格な人が誰なのかは、社内のことを知らないISSが口をはさむ話ではないということでしょう。であれば本来は、家具屋の経営がわからないISSが久美子社長とお父さんのどちらが経営するのにふさわしいのかについて、意見を述べるべきではなかったということですね。対案を出せない議案については口をはさむべきではないです。

 プロキシーファイトはめったに起こらないことでしょうが、ISSが役員選任議案に反対推奨するケースはどこの企業にも起こり得ることです。コラムを読んでいただいている皆様の会社でも、実際に反対推奨されたという会社もいらっしゃるのではないでしょうか?

 ISSが久美子社長を反対推奨した場合、大塚家具はどう反論するのでしょう。反論のプレスを出すとしたら、どういう内容にするのか私には見当がつきません。いずれにしろ、今年の大塚家具の株主総会は荒れるのでしょう。

■DMG森精機~疑わしきは罰するISSに反論~

 DMG森精機が、3月22日開催の株主総会に上程する議案に対して、ISSが反対推奨しています。ISSが反対推奨している議案は「第三者割当による自己株式の処分の募集事項の決定を

取締役会に委任する件」です。森精機が従来行ってきた社会貢献活動を、森精機に代わって一定規模で安定的に推進することを目的に2016年3月に「一般財団法人森精機製造技術研究財団」を設立したそうです。今回、有利発行による第三者割当増資を財団に実施し、今後、財団は受取配当金を活動原資に事業を推進していくそうです。

 森精機の議案に対してISSは反対推奨しています。ISSのレポート自体を見た訳ではありませんが、概要を森精機が反論プレスでまとめています。それによると、ISSはいろいろと反論しているようですが、大きな反対理由はは、敵的買の際に友好的な株主として機能する。財の議決行使する三井住友信託銀行は、具体的な議決行使方針を開示しておらず、財経営陣の保身ツールとなっているとの印象はしがたい。」です。(https://www.dmgmori.co.jp/corporate/ir/ir_library/pdf/20170309_iss.pdf)。

 森精機の株主構成を見てみます。

 その他の法人株主比率が3.91%、森氏一族や従業員持株会が7.3%ですから、合計で11.21%が安定株主比率です。自己株式がけっこうありますし、個人株主のなかにもまだ森氏一族がいらっしゃるかもしれませんので、実際にはもう少し高いと思います。今回の第三者割当で財団が保有する株式は2.63%です。そんなに大きな比率ではないですし、安定株主比率を大幅に上昇させるものではありませんね。安定株主対策だとしたら、微々たるもんです。

 森精機はけっこう詳しく説明しています。寄付金で行うよりも、税効果が取れることなども説明しています。

https://www.dmgmori.co.jp/corporate/ir/ir_library/pdf/20170309_manufacturingresearch_qa.pdf

 外国人株主比率がそこそこ高いですし、この議案は特別決議が必要なため、ISSの推奨により外国人株主が反対してしまうと、否決されるリスクがあります。

 捉えようによっては安定株主を確保する方法と見ることもできますし、森精機が言うとおり寄付+配当のほうが税務メリットを取れるという説明も納得できますし・・・Q&Aを掲載して説明するなど、けっこう丁寧に対応している印象を持ちます。また、ISSは三井住友信託銀行の議決権行使スタンスについて、具体的に開示していないと主張していますが、行使基準は割と具体的に開示しています。多少、会社よりの行使をするスタンスにも見えますが、具体的に開示していないと言われる筋合いはない!と反論されるかもしれません。

 また、新聞記事には、ISSは昨年の株主総会で同様の議案を上程した久光製薬にも反対推奨したとあります。

久光製薬の安定株主比率は43.61%と推測されます。かなり高いです。久光製薬は買収防衛策を導入しているので、保身じゃないのか?とより疑われた可能性はあります。しかし、これくらい安定株主比率が高いと、更に高めようとは思わないのではないかと・・・

なお、財団への第三者割当は森精機や久光製薬以外にも、過去、トヨタ自動車、フクダ電子などが実施しています。

森精機は安定株主対策ではないと一生懸命説明していらっしゃいます。確かに、安定株主として機能する可能性は高いとは思われるものの、森精機が主張している内容が合理的ではないとは言い切れません。疑いだしたらきりがありません。ちなみに、森精機は買収防衛策を導入していません。

 トヨタ自動車が個人投資家向けに種類株式を発行したときもISSは反対推奨しました。個人株主を安定株主と見なした上での反対推奨です。確かに個人株主は議決権行使を白紙でしてくれるという意味においては安定株主として機能する余地はありますが、絶対に白紙という訳ではありません。それを言い出したら、個人投資家向けIRを実施することも個人投資家向けに売出しや公募増資をすることも「悪」ということになってしまいます。

「疑わしきは罰する」がISSのスタンスであるように思えてなりません。今回、森精機はかなりきつめにISSに対して反論しています。本日の日経21面「大機小機」に「全ては投資家との対話から」とあります。議決権行使においてはISSが間に入ることから、場合によってはISSが投資家との対話のジャマになっていることがあるのではないでしょうか?森精機はISSの推奨に対する反論を公表しました。しかし、森精機は前もってISSに説明しているようですし、機関投資家にも説明しているようです。やはり、ISSが反対推奨しそうな議案については、ISSの推奨が出る前にいろんな投資家を訪問して十分に説明することが重要だと思います。森精機は自社の安定株主比率を主張してもよかったのではないでしょうか?例えば「当社創業者である森氏一族の保有株式は●%。従業員持株会は●%。うちの安定株主比率はかなり低い。この数値をたかだか2.6%引き上げたところで何の意味もない。だからうちは安定株主比率の上昇のために財団への第三者割当増資をするわけがない」と。

なお、今回のISSの主張に関しては、わからなくもないという主張はあります。ISSと森精機の主張を見比べると、企業価値向上とCSR活動のおりあいをどこでつけるかがポイントでしょうか。ISSの推奨のすべてを否定したい訳ではありませんので。念のため。

 

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