2018年04月19日

No.314 では、何のための買収防衛策なのか?

 いつも私が申し上げていることですが、日本企業が導入している事前警告型ルールを世間では買収防衛策と呼んでいます。なぜでしょうか?答えは、事前警告型ルールよりも買収防衛策の方が言いやすいから、ポイズンピルなどの企業防衛手法を総称して買収防衛策と呼んでいるから、などに加えて、以下のとおりです。

 (買収防衛策)って導入企業がプレスリリースのタイトルに入れているからです。なぜでしょうか?

 はい、東証が上記の指導をしているからです。買収を防衛するための策ではないのに、東証が「開示の表題には必ず買収防衛策という文字を入れろ!」と指導しているからです。この指導は明らかに間違いです。だって、買収防衛策じゃないんですもん。ちなみに、東証が定義する買収防衛策とは以下のとおりです。

http://www.jpx.co.jp/files/tse/rules/regulations/060307_a1.pdf

 日本企業が導入している事前警告型ルールは、経営者にとって好ましくない者による買収を防ぐための施策ではありません。経営者の事前の賛同なしに開始される買収に対して、時間の確保と情報提供を求めるものです。好ましくない者を対象にしている訳ではありません。そんな幼稚な経営者は日本にいないと思います。

 こういう東証の指導のおかげで、日本の事前警告型ルールがドンドン誤解されており、経営者の保身とまで言われています。本当に東証のおかげです。なお、おもしろい開示例があります。

 おもしろいですね。買収防衛策という文字を表題には入れたくないが、東証が折れないから、「株主共同の利益の確保・向上のための」と入れたのでしょうか?さすが新日鐵。

 さて、皆さんはなぜ買収防衛策を導入したのでしょうか?導入していない会社であってもこのコラムを読んでくださっているのであれば「やっぱり必要だ」と考える方もいらっしゃると思いますので、では、なぜ必要と考えるのでしょうか?10年前を思い出していただきたい。あの頃、買収防衛策を数多くの会社が導入しました。また、たぶん全上場会社が導入の是非を検討したはずです。なぜでしょうか?敵対的TOBが実際に日本で起きたからです。誰がやったのでしょうか?王子製紙などの事業会社もやりましたが、皆さんの印象に残っているのはアクティビスト・ファンドでしょう。

 買収防衛策を導入する目的はアクティビスト・ファンド対策か?そうとも言えますが、正確にはそうではありません。本心では「同業にも買われたくない」と考えた経営者もいらっしゃるでしょうが、本音では「何を考えているか理解できないよからぬ買収者には買われたくない」と考えて導入した会社が多いのではないでしょうか?つまり、反社会的勢力かも知れない相手に会社を乗っ取られる訳にはいかない、ということです。だから日本の事前警告型ルールが禁止されることはないですし、消えてなくなることもないです。

最近のマスコミや東証は、投資家と乗っ取り屋と総会屋の区別ができていないのではないかと感じます。

 

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