2017年03月15日

No.68 意見表明は反対と言えばよい、ではないなど2コラム

■意見表明は反対と言えばよい、ではない

 先日のコラムでお伝えしましたが、佐々木ベジ氏に敵対的TOBを実施されているソレキアがTOBに対する反対の意見を表明しました。内容はお伝えしたとおりです。株式掲示板などを見るとこんなことを書かれてしまいました。

(意見表明を)要約すると「嫌なんで、応募しないで!」

残念な中学生のような表明です。。。

大人だったら、「〇〇するから、応募しないで」というべきでしょう。

自分の都合だけ言っても、何の関係もない株主には、伝わりません。

 匿名の掲示板での意見ですから無視すればよいのですが、書いてある内容はけっこう正しいです。ソレキアは「佐々木ベジは当社のことを何も知らない。しかも当社に事前相談なく突然TOBを実施した無礼者である。当社は非常に混乱した。このような者が当社の経営に関わるなどあり得ない。だから株主の皆さん、TOBには応募しないでください」と言っているのですから。

 この掲示板の意見は非常に正しいです。株主にお願いをするのであれば「○○するから応募しないで」と言わなくては、今までの市場株価に対して非常に高いプレミアムを付しているのですから、株主は応募してしまいます。

 たぶん掲示板でコメントを書いた人は「増配するから応募しないで」ということをイメージしたのではないかと思います。今回のTOBの条件を考えると、短期で抜本的な対抗策を打たないと、佐々木ベジ氏が持株数を増やすと言う意味において影響力が増してしまいます。ですから、増配か第三者(ホワイトナイトや経営陣)によるカウンターTOBをしないと対抗できないと思います。ただし、この2つしかないというわけではありません。中長期的な経営戦略を練った上で「我々は今回公表した中長期戦略を実行することで○年後には株価を○円にします」と宣言し、その内容に株主が納得すればTOBには応募しないこともあり得ます。なお、株価を○円にします、とまで言うかは慎重に検討する必要があります。株価をいくらにする、と言うと意見表明に迫力が出ますが、仮に買収者が「じゃあ、TOB価格を●円にします」と目標株価よりも上に変更してきたら、対抗し難くなります。

 でも、今回、ソレキアの経営陣が新たな中長期的戦略を公表したところで、株主が納得してTOBに応募しないでいてくれるでしょうか?たぶん、目先のプレミアムが付いたTOB価格に魅力を感じてしまい、応募してしまう可能性が高いのではないかと思われます。

 なぜ今回、中長期的戦略を公表しても株主はTOBに応募してしまう可能性があるのでしょうか?簡単です。「そんな計画、実行可能なのか?本当に株価が上がるのか?」と思うからです。そもそも過去10年間において達成できていない株価で買うと佐々木ベジ氏は宣言しています。10年間達成できなかった経営陣が新たに示した経営戦略を信用する株主がいるでしょうか?しかも、経営戦略を練った期間は、TOBが開始されてからになりますから、たった1か月です。たった1か月で練られた経営戦略など誰も信用しませんよね。

 でも、これが半年かけて練った経営戦略だったらどうでしょうか?自社のみではなく、例えば第三者との業務提携なども盛り込まれた内容だったら?たった1か月で作った経営戦略よりは信用されそうですよね?

 何が言いたいかと言いますと、やっぱりソレキアのケースを見ても、買収防衛策は必要だということです。買収防衛策があれば、短期的な対抗策を急いで打つ必要もないですし、時間をかけて十分な情報確保に努めることもできます。買収者が情報を出してこなければ「出せ!」と言い続けられます。その間に第三者との業務提携などを進めればよいのです。情報提供を要請し、その内容を分析しつつ、対抗策をしっかりと練る時間があるということです。時間をかけて十分に練った経営戦略で、かつ、具体的な根拠もあり、数値も示すことができれば、株主からの信用は増します。

 有事の対応は平時の対応から決まっている、とも言えます。資本市場と常日頃から対話していないと、いざというときに経営陣が何を言っても、株主や投資家は信用してくれません。平時のIR活動で株価を上昇させることは非常に難しいことだと思いますが、平時のIR活動は株主や投資家との信頼関係の構築の場なのでしょう。有事になったときに「あの経営陣の言うことなら信頼できる」と思ってもらえるかどうかが勝負のポイントになってきます。

 佐々木ベジ氏は現時点でソレキアの反対意見に対して何も言っていません。安定株主に胡坐をかいた意見表明に対しては「反論する価値がない」と思っているかもしれません。これ以上何も言わなくても、応募する人は応募します。

■リーガルアドバイザーとファイナンシャルアドバイザー

 ソレキアはリーガルアドバイザーとファイナンシャルアドバイザーを雇っています。有事においては会社とアドバイザーの信頼関係が重要です、と以前申し上げました。

 皆さんの会社に敵対的TOBが仕掛けられたらどうしますか?顧問弁護士や主幹事証券にまずは相談するでしょう。顧問弁護士さんとは普段からお付き合いがあるでしょうし、有事になっても「先生、頼りにしてますよ」でしょう。では主幹事証券はどうでしょうか?おそらく皆さんの会社には主幹事証券の担当者がいらっしゃるはずです。有事になったときに「○○さん、頼りにしてますよ」となるでしょうか?たぶんならないです。なぜなら担当者は敵対的TOBの専門家ではありません。敵対的TOBなどが実施されたら、専門部隊が登場しますが、皆さん、初めて会う人たちではないでしょうか?信頼できますか?貴社の一大事を託せますか?

 弁護士がいるから大丈夫でしょ?そうでしょうか?ソレキアのケースでも弁護士はいましたし、当然、有事対応では必要不可欠です。でも弁護士は法律専門家であり株式や投資家に対する専門家ではありません。それにアドバイスする範囲も法律家としての範囲ですし、ファイナンシャルのことは「そこは証券会社さんに聞いてください」となります。「先生、この意見表明で問題ありませんか?」と聞いたら「法律的には問題ありません」と回答するでしょう。でも「先生、この意見表明で株主や資本市場は納得するでしょうか?」と聞いたら「それはファイナンシャルアドバイザーの意見をまず聞いてください」と言うでしょう。ファイナンシャルアドバイザーが「安定株主がいますし、TOB価格のことは触れない反論にしましょう」と答えたら、弁護士も体をはって止めにくいでしょう。専門外のことですから。

 今回のソレキアの対応に関しては、先日のコラムで記載したとおり、TOB価格が安いのか高いのかについて意見を述べなかったことに対して私は批判的です。TOB価格が高いからあえて価格に対する意見を言及しないというやり方は、戦略の1つとしてはあり得ます。ただし、非常に危険です。今回、ソレキアのケースはあまり話題になっていません。これが話題になっていたら、今回の意見表明は相当マスコミや有識者から批判されていた可能性があると思います。正直、10年以上この仕事をやっていますが、あの意見表明を読んだとき「え?これじゃあ、経営者の保身で反対していると捉えられてしまうのではないか?」と思いました。

 アドバイザーはいろいろな意味で対象会社を守る必要があります。もちろん、敵対的TOBの局面においては敵対的買収者からどうやって会社を守るかに主軸が置かれます。しかし、対象会社がこれからも資本市場で生き残っていくためには、資本市場関係者から非難されないよう守る必要もあります。「上場会社の経営陣としていかがなものか?」などと非難されるような行動を対象会社がとろうとした場合、体を張って対象会社を止めなくてはなりません。それが、結果的には対象会社を守ることにつながります。

 TOB価格について言及しなかった対象会社に対して、資本市場関係者は「経営陣の保身のために反対した」「事前に打診がなく経営を混乱させたから反対、などとは理由にならない。」「敵対的TOBを実施されるのは上場している以上当たり前」と批判する可能性があります。そうなってしまうと、対象会社は今後、資本市場から見放され、誰も対象会社の株式に興味を持たなくなってしまう可能性があります。そうならないようにするのが、特にファイナンシャルアドバイザーの役割です。

 

 

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