2019年11月05日

No.700 (無料公開)700号という節目なので、今後の敵対的TOBに関する見通しを書きます

2019年9月に始めたコラムが700号になりました。ニュースを含めると、もう1,300本くらいです(すみません。まだ登録していないコラムもあるので、それを含めたら1,500本くらいです)。けっこう時間がかかったなあと思う反面、あっという間の3年でもありました。ちょっと気の早い話ではありますが、700号という節目なので今後、日本で敵対的TOBの動きがどうなっていくかを書こうと思います。

今年になって、伊藤忠がデサントに対して仕掛け成功しました。成功といっても保有割合を30%から40%に引き上げる目的ですから、成功するのは当たり前です。エイチ・アイ・エスがユニゾに敵対的TOBを仕掛けるも、フォートレスというホワイトナイトが現れ失敗しました。失敗しましたが、大きな意義があったと私は思います。個人消費者を相手にするビジネスを行っている会社は、レピュテーション、評判を特に気にします。そのようなビジネスをしているエイチ・アイ・エスが敵対的TOBを経営戦略の一つとして選択したことには大きな意義があると思っています。そしてユニゾに対してブラックストーンという名だたる機関投資家がTOBを提案しており、場合によっては敵対的TOBに発展する可能性があります。

何人かのお客様から「そうは言っても、伊藤忠という会社は岡藤さんの色が強い会社。エイチ・アイ・エスもオーナー系企業。普通のエクセレントカンパニーが敵対的TOBを選択するのはまだまだ先ではないか?」とご指摘をいただきました。確かにそうです。それは歴史が証明しています。太字にしたのがオーナー系企業によるTOB、買収提案です。

1999年  ケーブル&ワイヤレス⇔IDC

2000年  村上ファンド⇔昭栄、日本ベーリンガーインゲルハイム⇔エスエス製薬

2002年  村上ファンド⇔東京スタイル

2003年  ダノン⇔ヤクルト

2004年  スティールパートナーズ(SP)⇔ユシロ化学、SP⇔ソトー、三井住友⇔三菱東京/UFJ

2005年  ライブドアニッポン放送、村上ファンド⇔三共/第一、村上ファンド⇔新日本無線、夢真日本技術開発、村上ファンド⇔阪神、村上ファンド⇔大証

2006年  ドン・キホーテオリジン東秀/イオン、王子製紙⇔北越製紙、SP明星食品/日清食品、ダルトン⇔サンテレホン

2007年  いちごアセット⇔東京鋼鐵、SP⇔ブルドックソース、SP⇔天龍製鋸、楽天TBS、SP⇔三精輸送機、SP⇔サッポロ、ダヴィンチ⇔TOC、イオンCFSコーポレーション

2008年  TCI⇔電源開発、SP⇔アデランスHD、日本電産東洋電機製造、エフィッシモ⇔ダイワボウ情報システム

2009年  ブランデス→ローム

2011年  沢井製薬キョーリン製薬HD、エフィッシモ⇔セゾン情報システムズ、TCI⇔日本たばこ産業、エフィッシモ⇔新立川航空機、DRCキャピタル⇔コージツ

2012年~PGM⇔アコーディア、ウットラム⇔日本ペイント、サーベラス⇔西武HD、大塚家具、プロスペクト⇔豊商事、出光興産、スカラ⇔ソフトブレーン、佐々木ベジ⇔ソレキア/富士通などなど

日本で起きた敵対的TOBや買収提案は、基本、提案者はファンドかオーナー系企業です。では今後もその傾向が続くでしょうか?たぶん続くでしょうね。特にこれからはファンドによる敵対的TOBが起きてくると思われます。それも村上ファンドやエフィッシモではなく、名だたる機関投資家によるものです。ブラックストーンがまさか敵対的TOBをほのめかすなんて、市場関係者は誰も思っていなかったでしょう。先日の日経にもアクティビスト・ファンドのエリオットが「エリオットが日本でも上場企業買収に乗り出す日は近いかもしれない。」と報じられていました。世界最強の投資家が日本を狙う日

以前のコラムで私は、日本のエクセレントカンパニーが選択しなくても欧米の経営者は日本企業に対して敵対的TOBを実施するかもしれないということを書きました。ただし、日本のエクセレントカンパニーも選択する世の中になっても不思議はありません。ただし、段階があります。

近い将来において日本のエクセレントカンパニーは敵対的TOBを選択しないかもしれないけど、世界中のファンドが日本企業に対して敵対的TOBを仕掛けてくる可能性があります。米国だって最初はそうだったんじゃないですか?RJRナビスコに敵対的TOBを仕掛けたのはKKRというファンドです。その後、RJRナビスコはどうなりましたか?解体されました。

私は、日本のエクセレントカンパニーが直接的に敵対的TOBを選択するには時間がかかる可能性があると考えますが、間接的敵対的TOBは近い将来起きるだろうと思っています(もちろん、もう起きていますが)。ファンドがエクセレントカンパニーに代わって敵対的TOBを実施するのです。もちろん、エクセレントカンパニーとファンドが水面下で手を結んでやるという話ではなく(そういう話も出てくるかもしれません)、「この会社を買えばあの会社が興味を持つはずだ」と考えたファンドが敵対的TOBを実施し、その後各種施策を実施して価値を高めた上でエクセレントカンパニーに売るのです。そういう間接的敵対的TOBが今後増えてくるだろうと思っています。

ですので、今回、ユニゾに対してブラックストーンがどういう行動に出るか非常に興味深く見ています。ブラックストーンのようなエクセレントな機関投資家が日本企業に対して敵対的TOBを実施したら、もう何でもアリです。https://alternative-asset-management.jp/black-stone/ そしてエリオットも日本市場に本格的に参戦してくるでしょう。

日本の会社はもう待ったなしの状況に追い込まれていると言っても過言ではありません。にも関わらず、買収防衛策を廃止している会社が増えています。一方で国は外為法を強化しています。国は防衛意識を高めているのに、会社は防衛意識が希薄です。私は何も「何が何でも会社を守れ」と言っている訳ではなく、敵対的TOBを仕掛けられたら時間がない中でいろいろな判断をしなくてはならなくなり、敵対的TOBの経験がほとんどない日本の会社が時間がない中で対応するのは難しいから、時間と情報を確保できる買収防衛策を導入すべきと言っています。株主利益を重視しなくてはならないのは当たり前ですが、株主利益のために従業員や取引先の利益をないがしろにしていいはずがありません。すべてのステークホルダーの利益を守るのが経営者のつとめです。

 

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