2018年06月12日

No.358 ガバナンス総会 本格始動 株主提案、賛成の流れ強まる(2018/6/10日経電子版)

6月10日の日経電子版にあった記事です。

 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31573890Z00C18A6K15200/?n_cid=NMAIL006

 注目企業の総会日程とポイントが掲載されています。

トヨタ自動車:女性取締役を初選任

日本郵政:政府保有株売り出し中止など株主提案、

シャープ:2,000億円規模の増資

新生銀:米ファンドの株主提案に反対せず

神戸鋼:製品データ改ざんなどの不祥事

UACJ:大株主の反対でトップ人事が迷走

アルパイン:大幅増配と社外取締役の株主提案

アルプス:アルプスとの統合案に一部株主が反対

SUBARU:燃費・排出ガス検査の不正が追加発覚

伊藤忠:自己株消却求める株主提案

みずほFG:報酬の個別開示など株主提案

東芝:車谷CEOの選任に一部ファンド異議

武田:大型買収に総会決議求める株主提案

富士フイルム:米ゼロックスの買収が難航

出光興産:村上ファンド系投資会社などが株式保有

三菱UFJ:社外取締役を過半数に

TBS:英ファンド、東エレク株の現物配当を提案

CBC:配当増額、自社株取得などの株主提案

 以上、私が気になった総会です。記事の中でジェイ・ユーラス・アイアールの岩田代表という方が「今年は、株主提案元年になる」「株主提案が可決される事例が出てくる」とおっしゃっています。私も、出てくるかもしれない、と思います。では、上記の株主提案の中で、可決される可能性が高いケースはどこでしょうか?新生銀行は可決されるかもしれませんが、これは会社も反対していませんので。では、日本郵政は?株主提案の内容は以下の通りです。

 おもしろいですね。提案した株主は「定款で株主が売却する権利を制限しろ」と言っているということですか?詳しくは以下の通りです。

 これはまず可決されないでしょうね。無茶苦茶な提案ですよ・・・。なんでもかんでも定款変更で提案すればよいというもんではない。ちなみに、財務大臣が日本郵政株式の80%を保有しています。可決されません。

 アルパインに対して増配と社外取締役に関する提案がなされていますが、これも可決されないでしょう。だって、アルプス電気が40.4%持ってますから。では、伊藤忠に対する自社株消却に関する提案は?これ、そもそも意味ないでしょ?株主は「消却すれば株価が上がる!」という根拠の薄い理屈で提案している場合がありますが、消却したら上がりはしますが、すぐ下がりますよ。それに、「自己株式の放出懸念!」と叫びますけど、そもそも自己株式を処分する場合、新株発行と同様の手続きが必要ですから、合理的な資金使途もなしに処分などできません。証券会社がよく言う「エクイティストーリー」ってヤツが必要です。これに本気で賛成する投資家がいるとしたら、その方々は会社法を知らないバ〇です。みずほFGに対する役員報酬の個別開示に関する提案は?昨年も同様の提案がなされており、賛成率は35%でした。これ、定款変更議案ですから2/3の賛成が必要です。これも可決はムリですね。

 武田薬品に対する「大型買収に総会決議求める株主提案」についてはどうでしょうか?

 これもまあ、なんでもかんでも定款に入れるな、ですかね。定款変更だから可決するのはムリですね。スピードが求められる上場企業の経営において、このような縛りを定款で求めることは無茶ではないでしょうか。会社が提示した買収が気に入らなければ、取締役解任に関する株主提案、臨時株主総会の開催請求をすればよい。原発反対の株主提案と同じレベルの提案であると私は見なします。一体誰がこんなくだらない提案をしたのでしょうか?

 あとは、TBSとCBCに対する株主提案ですが、両社とも非常に安定株主比率が高いので、可決はムリでしょう。

・・・さて、どこの会社に対する株主提案が可決されるのでしょうか?なんだか、どこの会社に対する株主提案も可決されないような気がしてきました。「株主提案元年!」と言うためには、訳のわからんちっぽけな株主提案ではなく、それなりに注目されている会社で可決されなければ言えないでしょう。これらの会社に対する株主提案が可決されるのは厳しいと思います。

 私、本音では株主提案が可決されてもいいし、会社提案議案が否決されてもいいと思っています。株主提案が可決されることで、どれだけ会社が不幸になるかを知らしめたほうがよいからです。また、会社提案議案が否決されることなど「普通のこと」という認識が広まればよいと思うからです。「株主提案元年やー!」 どうでもいいです。株主提案が可決されただけでしょ?これだけ安定株主比率が低下しているんだから、可決されることなどあって当たり前ですから。「世の中、可決される時代になりましたよ!」10年位前から言われていたことです。それよりも、株主提案が可決されたことで、会社経営にどのような影響を与えるのか?これが重要です。「わー!わー!わー!株主提案が可決されたぞー!」じゃなくて、可決された会社のその後が重要なのです。

大幅増配の株主提案が可決された会社の経営がその後どうなったのか?特に何も変わらなかったのであれば、どんどん株主提案が増えるでしょうし、国内機関投資家も賛成するでしょう。自社の還元政策を見直すべきかもしれません。しかし、大幅増配のせいで事業投資に悪影響を与えたとしたら?それで株価が下がったら?

買収防衛策の議案が否決されて、その会社が「買収を阻害する策じゃない!来年も総会にかける!」と宣言したら?機関投資家も買収防衛策に対するスタンスを変えるかもしれません。

株主総会の動向についてはよく見ておく必要があります。自社の株主還元政策などを見直すよい機会かもしれません。また、自社の株主構成を検討し直す機会でもあります。

 

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