2018年01月30日

No.258 独裁は悪いですか?

 先日のコラムNo.253で、GMOインターネットに対する株主提案を取り上げました。株主提案をした香港のオアシスがGMOの熊谷社長の過去の買収提案に対する姿勢を「独断で断った」と断罪していました。まあ、おかしな話です。何のメリットもない安い価格の買収提案など、経営者が独断で断るべきでしょう。経営者が一つ一つの買収提案に対して「株主の皆さん、いかがでしょうか?この提案を受けるべきでしょうか?」といちいち確認しろとでも言うのでしょうか?そもそも買収者自身も公表していないのですしねえ。

 おもしろいインタビュー記事がありました。1月23日の日経電子版に龍角散の社長に対するインタビューです。少し抜粋します。https://style.nikkei.com/article/DGXMZO25802390X10C18A1000000?channel=DF190720172684&style=1&n_cid=NMAIL006

――企業経営はよくオーケストラに例えられます。オーナー企業の場合、小編成のアンサンブルと比較して独裁的だと批判されることもありますが、この点に関して、音楽家でもある藤井社長はどうお考えでしょうか。

「独裁で何が悪いのですか?経営者は決断するためにいるんです。それがなかったら、いったい誰が結果責任を負うんですか?」

「オーケストラの団員と指揮者は同列ではない。なぜかといえば、情報量が圧倒的に違うから。オーケストラの団員は自分のパートの譜面しか持っていません。聞こえる音の範囲も自分の周りだけ。全体を最適化できるポジションにはないし、全体のことをああだ、こうだと言う権限はありません」

「指揮者は自分で演奏をしませんが、すべてのパートが書かれているスコア(総譜)を持っています。スコアを見ながら、どこで、誰が、どんな音を出しているかを把握している。聴衆を背負い、全体の音を均一に聞ける位置に立っているのは指揮者だけです」

「いい指揮者は独裁的ですよ。方針を決めるのはあくまで指揮者。みなさん、この曲をどう演奏したいですかとご用聞き的にやる指揮者はヘボです。みなさんの言うことを聞きました、はい、それをつなぎました、ではいい演奏にならない。そんなことをしたら、めちゃくちゃな演奏になって聴衆を満足させることはできません」

「なにも高圧的になれ、と言っているのではありません。意見は聞くし、必要なら説得もします。それと、決断するからには必ず現場にも行きます」

 「オーケストラの団員と指揮者は同列ではない」「全体のことをああだ、こうだと言う権限はない」「いい指揮者は独裁的。方針を決めるのはあくまで指揮者。この曲をどう演奏したいですかとご用聞き的にやる指揮者はヘボ。そんなことをしたらめちゃくちゃな演奏になる」 おもしろいですね。オーケストラの指揮者=社長、団員=部下、ですかね?では、株主は?

 株主=聴衆ではないでしょうか?株主提案というのは、指揮者に対して聴衆が「オマエの指揮がよくないから代われ!」「バイオリンがヘタだから交代させろ!」「そもそも曲目がよくない!」と文句を言っているのと同じことでしょう。素人なのにプロヅラして指揮者に対して、あーだこーだと文句をつけているのがアクティビストではないでしょうか?そんなにイヤなら聞きに来るなよ、他のコンサートに行けよ、ではないですかね。もしくは「だったら自分で指揮してみろよ」。指揮者=経営者って、棒を振っているだけ=指揮/指示しているだけ、のように見えるから、アクティビストは「オレもできる!」と勘違いしているのかもしれません。大変な勘違い野郎です。

 ま、いくらここで文句を言ってもアクティビストの株主提案が減る訳ではありません。むしろ、これから増える一方でしょう。企業サイドは何をしておくべきでしょうか?自社の財務や事業、株主構成をよーく観察・分析し、アクティビストに狙われる要素はないかどうかをじっくり考えることだと思います。だいたいの企業は、アクティビストに指摘されたことを実行するのをイヤがります。ま、お気持ちはわかります。なんだか、アクティビストに言われたからやる、みたいに思われたくないですからね。それに、アクティビストから指摘されたから諸施策を実行すると、「あの会社は言われたことを何でもやる会社だ!アクティビストの言いなりだ!」と見なされ、他のアテクティビストも寄ってくる可能性があります。アクティビストに言われる前にやるべきことをやっておく、ということが重要なのでしょう。しかし、いろいろなハードルがあってできないことだってあります。やらなきゃいけないのはわかっているが、社内関係者の説得など時間が必要な場合がある、あんまり配当上げ過ぎても従業員給与や取引価格との兼ね合いで・・・、などなどでしょうか。無理やり話を買収防衛策に結び付けるつもりはないのですが、株主提案を阻害するものではないにしても、いろいろな意味で時間をかせぐためにも買収防衛策は有効だと思います。買収防衛策は株主提案を対象としてはいませんが、20%以上の株式取得に一定のハードルを設けるものです。ということは、アクティビストも買収防衛策導入企業の株式を買っても、20%未満でストップせざるを得ない訳です。これからも株式を買い増すぞ!という脅しのスタンスを見せても、現実的には20%以上は買いにくい訳です。ということは、対象会社に与えることのできる圧力にも限界があります。であれば、株主提案をするにしても、買収防衛策を導入していない企業のほうが効果的に圧力をかけることができると考えるかもしれません。

 買収防衛策導入企業を狙うのは「面倒くさい」のです。だから、アクティビストは導入していない会社を狙います。いくらでもありますから。

 

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