2017年11月14日

No.208 買収防衛策を取締役会決議で導入するのはダメ?

 全然問題ないと思いますよ。そもそも買収防衛策は会社法、定款で定められた株主総会議案ではありません。たぶん、株主総会決議で導入しないとダメなのか?とお考えの会社は、「取締役会決議で導入したらISSが経営トップの選任議案に反対推奨する。トップの議案が否決されたら本末転倒だ」と考えていらっしゃるのかもしれません。先日のコラムでエーザイのケースを取り上げました。エーザイは取締役会決議で買収防衛策を導入しているため、おそらくISSが経営トップの選任議案に反対推奨していると思われます。外国人株主比率が約27%と高いエーザイですが、トップの議案に対する賛成率は約75%です。ISSに反対推奨されているけど、75%の賛成率は確保できています。まあ、経営トップの議案を「買収防衛策を取締役会決議で導入しているから反対だ!」と考える人もいれば、そう考えない人もたくさんいるということでしょう。そりゃそうです。そもそも、買収防衛策を取締役会決議で導入したというたいしたことのない理由でトップの議案を否決しようと考える人はある意味変人です。

 もう一つ、議案を分析してみましょう。随分前のコラムで取り上げました。

キヤノンの2013年3月に開催された株主総会の議案賛成率です。御手洗さんの賛成率が低いのは、ISSが反対推奨したからです。ISSは2013年2月以降に開催される株主総会から、社外取締役を選任していない企業の経営トップに反対する方針でした。当時はキヤノンとトヨタが社外取締役を選任していない日本の代表企業と見られていたと思います。ちなみに、2013年3月、キヤノンの株主総会のほぼ直前に、トヨタは社外取締役を3名選任することを公表しました。社外取締役を選任していないキヤノンが目立ってしまったのかもしれませんね。御手洗さんの賛成率は約72%でした。

御手洗さん以外の議案で低い賛成率のものがあります。それは第3号議案 退職慰労金制度廃止に伴う打ち切り支給です。この議案もISSは反対します。賛成率は66.01%でした。御手洗さんと退職慰労金打ち切り支給の議案を見比べてみてください。退職慰労金打ち切り支給のほうが賛成率が低いです。両方ともISSが反対推奨しています。であれば、同じ程度の賛成率になるはずでは?

 御手洗さんの議案のほうが6ポイントほど賛成率が高くなっています。つまり、ISSが「社外取締役を選任していない企業の経営トップには反対する」といって機関投資家に反対推奨をしても、機関投資家の中にはISSの推奨通りに議決権行使をしなかった人がいた、ということです。たぶん「社外取締役がいないことのみをもって経営トップの選任議案に反対するというのはどうか」と考えた機関投資家がいたということではないでしょうか? ですので、買収防衛策を株主総会にかけなかったということのみをもって、投資家が全員反対する訳ではありません。私は、経営トップの議案が否決されることは現実的にはないと考えます。

しかし、これからの時代、買収防衛策に対する機関投資家のスタンスは厳しくなっていきます。ですが、これからの時代、買収防衛策はますます必要になってきます。テクニカルには、取締役会決議で導入しても経営トップが否決されることは、現時点では可能性としては相当低いと考えますが、仮に取締役会決議での導入が増えてくると、そうも言っていられません。ISSが「けしからん!」と大騒ぎするでしょうし、機関投資家もそれに呼応して反対するかもしれません。ですから、貴社にとっての買収防衛策の必要性や導入・継続に至った過程の議論をきちんと開示すべきであると考えます。例えば、改正されたTOBルールが浸透したと廃止企業は言っているけど、まともに情報提供した買収者がいるのか?ソレキアのケースでは十分な情報を得られたとは言えないのではないか?市場価格よりも高い値段を提示したがBPSを下回る価格が本当に企業価値を反映した価格と言えるのか?時間と情報を確保できる買収防衛策があれば違った結果になったのではないか?などなど。「そういうことを毎月のように経営会議や取締役会で検討した結果、現時点で買収防衛策は必要と判断した」と説明することが重要ではないでしょうか。

「ちゃんと買収防衛策のプレスでそういうことも書いているよ」とおっしゃる会社もいらっしゃるかもしれません。確かに、プレスで触れている会社もあります。しかし、あの買収防衛策のプレスは長すぎて、もう誰も読んでいないのではないでしょうか?このあたりで、プレスリリースを工夫しないとダメです。

 

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