2020年03月27日

No.797 (無料公開)今日は東芝機械の臨時株主総会です。あとキリンHDの定時株主総会も、ですね

本日3月27日(金)は東芝機械の臨時株主総会、キリンHDの定時株主総会が開催されます。キリンHDについては、英フランチャイズ・パートナーズに株主提案をされており、一部候補者にISSが賛成推奨しています。ま、とは言っても、株主提案においては会社側のほうが有利に戦いを進められますから、たぶんキリンHDが勝つと思われます。ただし、LIXILへの株主提案が可決されたこともありますので、油断は禁物です。

さて、東芝機械ですが、皆さんは東芝機械と村上さんたちのどちらが勝つと思いますか?普通に考えたら、村上さんたちが勝つでしょう。部分的な買収とはいえ、3,456円というTOB価格は今の株価を考えると魅力的です。また、対抗措置発動議案に対してISSは賛成推奨しているものの、国内外の機関投資家が推奨に従うとも思えません。「ポイズンピルの発動に賛成?なぜ?」と不思議に思うでしょうし、発動議案には賛成しにくいでしょう(報道によるとブラックロックは賛成するようです)。一方、村上さんたちのTOBは部分的買付ですし、村上さんたちは明確な経営方針を示しておらず、中長期的な価値毀損になるかもしれないとして発動に賛成する株主もいるでしょう。そしてISSの賛成推奨は、東芝機械の安定株主にとっては議決権行使をするのに好材料です。自社の株主から「なんで対抗措置発動議案なんかに賛成したんだ?」と問われたときに、「東芝機械の主張に納得性があったことに加えて、ISSも賛成推奨していました」と言うことができます。

では、本日の臨時株主総会で上程される対抗措置発動議案は可決されるでしょうか?否決されるでしょうか?それはわかりません。※このコラムは3月25日(水)に書いたものです。議案の可否にかかる新聞報道がもし出ていたとしたら、出ていないベースで読んでいただけると助かります。

もし可決できたとしたら?「なんでその努力を昨年の買収防衛策継続に注がなかったのか?」と私は思います。東芝機械が昨年買収防衛策を廃止した本音は「買収防衛策継続議案を定時株主総会にはかっても否決される可能性が高いから」と考えたからであると思われます。対抗措置発動議案は、買収防衛策継続議案を可決させるよりも随分とハードルの高い議案です。今回東芝機械は可決させるためにどういう努力をしたのでしょうか?機関投資家に対する説明会もやりましたよね?説明会に出席できなかった投資家を個別に訪問して説明しましたよね?中期経営計画も練りなおしましたよね?ISSを説得する努力もしましたよね?このような努力をして、昨年、買収防衛策を継続していれば、村上さんたちに敵対的TOBを突然仕掛けられることはなかったのです。

東芝機械は対抗措置発動議案を可決させるために、アドバイザーにいくらのフィーを払うのでしょうか?平時における買収防衛策継続なら、さほどの金額はかからなかったでしょう。たぶん、平時と比べたらケタが2つくらい違いますよね?まあ平時と言っても村上さんたちに株式を買われている状態ですから、ケタ1つくらいの違いかもしれませんね。アドバイザー以外にもけっこうなお金を払ったのではないでしょうか?意見書も複数取っていますよね?なかなかの金額ではないでしょうか?

持ち合い、もしくは、片持ちのお願いもしたのではないでしょうか?そうでもしないとなかなか可決できない議案ですし、なかなか可決できない株主構成です。もしお願いをしていたとしたら、けっこうハードなお願いだったのではないでしょうか?要求される見返りだって、平時だったら株の持ち合いだけでよかったかもしれませんが・・・。まあ、あくまで想像です。

東芝機械は、買収防衛策を廃止すると決めたときから、もし村上さんたちが市場で20%以上の株式を取得しそうになったり、敵対的TOBを仕掛けたりしてきたら、有事導入・発動型の買収防衛策、勝手に名付けますがサブマリン型買収防衛策、で対抗しようと考えていたのではないでしょうか?平時の事前警告型買収防衛策を継続できそうにないから、もし有事にでもなったらサブマリン型買収防衛策で対抗しようと。なんでそっちに行っちゃったんですかねえ。なぜそっちに行かずに「ちゃんと買収防衛策を継続して村上さんたちに敵対的TOBを突然仕掛けられない体制にしておこう」と考えなかったのでしょうか?心のどこかでは「そうはいっても敵対的TOBまではしてこないだろう」「20%以上もの株式を買ってはこないだろう」と考えていたのではないでしょうか?なぜそう考えたのでしょうか?想像ですが、東芝機械よりも時価総額が大きい会社がアクティビストに38%もの株式を取得されているケースをご存じなかったのではないでしょうか?だから「名門東芝機械がアクティビストの手に落ちるようなことはないだろう」と考えてしまったのではないでしょうか?

そして東芝機械の決断に異を唱える外部のアドバイザーがいなかったのかもしれませんね。「東芝機械さん、本当に平時の買収防衛策を継続できない会社が有事にサブマリン型買収防衛策で対抗するなんて現実的だと思いますか?どれくらいハードルの高いことをしようとしているかわかっていますか?どれだけのアドバイザリーフィーを取られるか知っていますか?」と。

東芝機械の対抗措置発動議案が可決されるか否決されるかは現時点でわかりません。可決できるよういろいろと策を講じてきたことでしょう。だからハードルの高い議案ではありますが、可決できる可能性はあります。ただし、大切な点はそこではありません。大変失礼ながら、東芝機械は努力のベクトルが間違っていました。有事になったらサブマリン型買収防衛策を導入して対抗しようと考えるのではなく、いかに有事にしないように平時の準備をしておくかに努力すべきでした。平時に買収防衛策を継続しておけば、突然有事になることもなかったし、高額なアドバイザリーフィーを支払う必要もありませんでした。経営者や従業員が敵対的TOBに対抗するために、時間を割く必要もありませんでした。この2か月間、本業にさぞ集中できなかったことでしょう。対抗措置発動議案を可決できるだけの努力をしたのであれば、なんで昨年努力して買収防衛策を継続させなかったのか不思議でなりません。やればできたのに・・・。

話は変わりますが、このサブマリン型買収防衛策は投資家の存在を無視した買収防衛策のように思えてなりません。株主のことは無視していません。株主総会に議案をはかっていますから。ただ、このような特定の株主の議決権比率を希釈化するような議案を普通決議で決めてよいのかどうかは疑問です。特別決議は必要ないという高名な法律学者の意見書を多数取っているのでしょうけど・・・。このサブマリン型買収防衛策は市場で東芝機械の株式を売買する投資家の存在を無視していませんか?敵対的TOBが実施される可能性があると公表されたとき、突如として平時の買収防衛策を廃止した東芝機械がサブマリン型買収防衛策の導入と発動を公表しました。TOB実施の直前に公表されたので「売買が開始される前に公表したから投資家に迷惑はかけていない」と主張するかもしれませんが、このような複雑な仕組みをなかなか理解できないのではないでしょうか?また「そもそも短期で売買して儲けようなどと投資家ではなく投機家だ!」と言うかもしれません。が、株式市場は短期、中期、長期といろいろな投資家で成り立っています。いろいろな投資家がいるから、流動性が供給されています。長期保有の投資家だけなら株式市場は成立しません。日々の株価が付きません。ですので、短期の投資家も重視する必要があります。

仮に可決されたとして、これでいったい誰が得をしたのでしょうか?会社は村上さんたちの敵対的TOBから逃れられたから得をしたのでしょうか?半面、多大な労力とコストをかけています。想像ですが、村上さんたちは本音ではTOBをもう撤回したいのでしょうから、得をしたのでしょうか?でもこれまでずいぶん時間をかけて対応してきましたよね?村上さんたちにも多大な労力とコストが発生しています。株主は?村上さんたちのTOBが撤回されたら、株価が下がるかもしれません。一方、会社が中期経営計画を達成できたら株価が上がるかもしれません。投資家は?儲かった人もいれば損した人もいるでしょう。まあ、いろんなステークホルダーにとってメリット・デメリットのあることではありますが、本当にここまで大規模なことをやる必要があったのか疑問です。もっとスマートな方法で時間をかけずに対応することもできたと思われます。

もし対抗措置発動議案が可決されたら、村上さんたちはどうするのでしょうか?「ラッキー!3,456円で買う必要がなくなった!」でしょうか?もう発行差止請求をしないのでしょうか?仮にしたとしたら、今度は裁判対応ですね。いったいいくらのアドバイザリーフィーになってしまうのでしょうか・・・。

では対抗措置発動議案が否決されたら?もう目も当てられませんし、言葉もありません。少なくとも対抗措置発動議案を普通決議で可決させて、あとは裁判で勝負するというシナリオなんだろうと誰もが思っていたことでしょう。それが、最初の一歩で、かつ、絶対に負けられない戦いで敗れてしまったのですから。「え?そこで負ける可能性が高かったのに、こんな勝負に挑んだの?」ですね。

大切なことは、有事になったら戦おう!ではありません。本当に大切なことは、会社が有事の状態に陥らないように平時のうちから対策を打っておくことです。適切な経営戦略や財務戦略を実行し、株価を高めておくことも大切です。平時のうちから事前警告型買収防衛策を導入、継続しておくことも大切です。どういう買収者ならよく、どういう買収者ならダメなのか?その理由は何か?皆さんが本当に守りたいものは何なのか?これらを突き詰めて議論し、準備しておくことが大切なのです。ただし、どれだけ準備をしておいても、有事の状態になる可能性はあります。有事になる場合も想定し、平時のうちから「いざというときは戦う」という覚悟も養っておかないとダメです。

「いざとなったらサブマリン型買収防衛策で対抗だ!」と考えると非常に危ないです。サブマリン型買収防衛策には弱点があります。

今後村上さんたちは攻め方を変えてくるだけです

No.792 東芝機械が成功したら同じやり方をやればよい?いや、2回目はムリです。

No.795 有事導入型の買収防衛策の是非につい

 

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単なる予感です。具体的な話などを聞いているわけではないですし、聞いていたら書きません。そろそろ敵対的TOBが始まるかもしれないと私が思った理由は以下のとおりです。

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