2017年05月15日

No.89 カプコンが買収防衛策を廃止など3コラム

■カプコンが買収防衛策を廃止

 ゴールデンウィーク前の話ですが、カプコンが買収防衛策を廃止しました。皆さん、カプコンを覚えていますか?カプコンは一度買収防衛策を株主総会で否決されましたが、否決された翌年の株主総会に再度議案を上程し、可決させた会社です。そのカプコンが今回、買収防衛策の廃止を公表しました。廃止理由がほかの会社とは異なり、特徴的な内容なので紹介します。買収防衛策を否決されても再度株主総会に諮った会社の廃止理由は一味違います。以下、カプコンのプレスリリースです。

 まず、買収防衛策を取り巻く環境が変化し、多数の機関投資家等から買収防衛策の継続について理解を得るのは容易ではないと判断したそうです。そして平成206月の導入から継続、否決、再導入を通じて法令等の関連知識やノウハウの会得に加え、様々な経験を積んだことにより敵対的な大規模買付行為に対する当社独自の対応策の策定や担当スタッフの育成など、一定の社内体制を構築するとともに、当該対応策が適切に機能するよう鋭意整備を進めております。」とあります。つまり、買収防衛策の導入・否決・再導入に当たって「ものすごく勉強した」ということでしょう。否決される企業はめったにないですし、否決されたのに翌年再チャレンジする企業も初めてでしょう。「当社独自の対応策の策定」というのが気になるところです。

■買収防衛策を継続する企業と廃止する企業

 カプコンは買収防衛策を廃止しました。他にも廃止した企業はありますが、継続している企業もあります。例えば、最近ですとJFEホールディングスは買収防衛策を継続しています。以前のコラムにも書きましたが、サッポロホールディングスも継続しています。廃止する企業と継続する企業の大きな違いは何でしょうか?

 それは有事を経験しているかどうか、の違いです。たまに有事を経験したにも関わらず買収防衛策を廃止する企業もありますが、理由はよくわかりません。当時の関係者が転勤などでいなくなってしまったのか、もしくは安定株主比率が高まったのか。もしかしたら「一回買収されそうになったけど、もうこないだろ?」と考えているのだとしたら間違いです。なぜ買収対象になったのか?その理由が明確になっておらず、かつ、解消されていないのに廃止してしまったのなら問題です。

 サッポロホールディングスについては以前書きましたが、かつてスティールパートナーズというアクティビストファンドに一定程度の株式を取得され、様々な提案がなされました。有事を経験しています。

一方、JFEホールディングスは私の記憶だと、JFEホールディンスグそのものが買収対象になったり、アクティビストファンドに狙われたりしたことはないと思います。ただし、JFEホールディングスが属する業界そのものが「買収対象になるのではないか?」と騒然となった出来事がありました。

 皆さんのご記憶にはもうないかもしれませんが、ミタルスチールによるアルセロールに対する敵対的TOBです。「今度は新日鐵が買収対象になるんじゃないか?」とうわさが出ましたし、NHKでも特集されました。当時、ミタルスチールのラクシュミ・ミタルが来日していたらしい、と。

 JFEホールディングスそのものが買収対象にはなっていないものの、日本の鉄鋼業界が買収対象になるかもしれない状況でした。だからJFEホールディングスは「いざ自社に敵対的TOBをしかけられたらどうするか?」と真剣に考えたのではないでしょうか?だから「そもそも敵対的TOBのリスクがなくなることなんてないし、持ち合い解消が進んでいる今の状況で買収防衛策を廃止するなどあり得ない」と考えたのかもしれません。さすが「鉄は国家なり」の業界です。同規模の会社が廃止している状況において買収防衛策を継続する判断はなかなかできないものです。

 買収防衛策を廃止するかどうか、有事を経験していない会社は有事を経験した会社の動向を見ておいたほうがよいと思います。だいたい継続しています。また、このコラムを読んでいただいている企業の皆様は少なくとも「世の中廃止の動きにはなっているが、ソレキアのケースなんかを見ていると、やっぱり必要なんじゃないか?」と考えていらっしゃるのではないかと思います。でも導入に踏み切れないのは「今さらだよなあ」と考えているからではないでしょうか?コーポレートガバナンス改革と買収防衛策は同じ土俵で議論すべきではありません。そもそも買収防衛策については皆さん少なくとも形式的には「株主のためであり経営陣の保身ではない」と主張しています。ですから、買収防衛策を導入・継続することはコーポレートガバナンス上、悪ではありません。アベノミクスにより海外の資金をマーケットに取り込みたいとは思っているものの、日本企業を外資に売り渡したいとは考えていないと思います。ガバナンス改革はガバナンス改革として実行すればよい話であり、むしろガバナンスがしっかりしている企業は胸をはって買収防衛策を導入すればよいと思います。

■当然投資家は「買収防衛策には反対」と言います

 買収防衛策を導入・継続することに対して、機関投資家は反対します。カプコンも「投資家の理解を得られない」と言っています。なぜでしょうか?それは「買収防衛策」と説明するからです。日本企業が導入している買収防衛策は、決して買収防衛策ではありません。ここをはっきりしておかないと、投資家に誤解されます。「この会社は買収を防衛することを目的に買収防衛策を導入しようとしている」と思われてしまうと、当然反対されます。何が何でも「買収を防衛する」と捉えられてしまうのです。

 日本企業が導入している買収防衛策は、本当に「買収を防衛するための策」でしょうか?違います。「20%以上の当社株式を取得する場合は、事前に買収提案に関する詳細な情報と検討するための時間をください。このルールを守らない場合は対抗措置を発動しますよ」というルールを導入しているに過ぎません。

 これで本当に買収を防衛できると思いますか?ムリです。そりゃあ、買収者にとってみれば「面倒くさいなあ」というルールではありますが、本当にその会社を欲しいと思っている買収者にしてみればどうってことはないルールです。少なくとも私は買収防衛策を突破する方法を考えています。基本的に上場会社の味方をするつもりでビジネスをやっていますが、この世界で生きている以上、いつかは「敵対的サイドでやってみたい」という気持ちはありますから、当然、買収防衛策の突破方法も研究しています。

 買収防衛策を廃止してしまった会社もある一方で、これから導入・継続を公表する会社もいらっしゃると思います。これから投資家に説明する会社はきちんと「東証が買収防衛策という文言をプレスリリースに入れるよう指導しているから入れているまで。当社はこのルールを買収防衛策とは考えていない」と説明してみてください。その上で「本ルールがあることによって、価格が安いと思われる買収であっても価格を引き上げる効果が期待できる。そういうことを考えた上でこのルールを導入・継続するんです。買収防衛策ではなく買収者との交渉ツールです」と説明してみてください。投資家は「買収防衛策を濫用的に使うことをおそれている」と主張するかもしれませんが、その時は「オレたちを信用しろ!」とCEOとCFOが熱く語ってください。

 貴社の説明だけで世の中の流れは変わらないかもしれませんが、投資家も全員が話のわからない方ではないと思います。中には貴社の真摯な説明に耳を傾けてくれる投資家もいらっしゃるでしょう。そういう投資家こそ大事にすべき投資家であり、有事になったら頼りになる存在です。

 買収防衛策の議論は社内で完結するものではありません。3年に一度の更新の際に、投資家に真摯に意見をぶつけてみて議論し合うことが重要です。「ああ、この会社は保身を考えて買収防衛策を導入している訳ではないんだなあ」と思ってもらえるかどうかです。

 買収防衛策を廃止してしまった会社の方々ももう一度考えるべきだと思います。「TOBルールが整備されたから大丈夫!」 本当にそうでしょうか?ルールが整備されたからと言って争いが起きないわけではありません。ルールが整備されても敵対的TOBという戦争はいつ勃発するかわかりません。TOBルールだけでは戦えません。武器がないと負けます。

 あと、そもそも論ですが、機関投資家があのややこしい買収防衛策のプレスリリースを本当に読んでいるのかどうか・・・怪しいもんです。

 加えて、社外取締役の方が「このご時世で買収防衛策を継続するのはいかがなものか」的な意見をおっしゃることがありませんか?そういうことを指摘されたら「うちのフェアバリューはいくらか即答できますか?」と聞いてみてください。答えられません。

 

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