2017年05月22日

No.91 なぜトヨタグループは買収防衛策を導入しないのか?

 正確に申し上げると「なぜ事前警告型ルールを導入しないのか?」です。想像ですが、事前警告型ルールは結局20%以上の株式を取得する場合のルールを設定しているに過ぎず、究極的には買収防衛策にはならないから、ではないかと思います。最強の買収防衛策は、「きちんと説明できる」持ち合いです。トヨタグループはそれを実践しているように思います。

 5月19日に豊田合成がダイセルと資本提携を行うことを公表しました。両社がそれぞれ10億円を目安に取得するそうです。また、相互の資本提携ではありませんが、デンソーとイビデンも提携するそうで、イビデンが自己株式を処分する形でデンソーに割当てるそうです(公表資料だと、デンソーの株式をイビデンが取得する訳ではないようです)。

 トヨタグループ各社の安定株主比率はわりと高いと思われます。まず、トヨタ自動車を見てみましょう。

 法人株主比率は19.49%です。これに日本生命3.56%、三井住友海上1.83%を加えると24.88%です。トヨタ自動車の時価総額は約20兆円です。時価総額を考えると相当高い安定株主比率です。ちなみに、トヨタ自動車は個人株主向けに議決権ありの種類株式を発行しています。株主対策にぬかりはないようです。では、トヨタ自動車株式の6.63%を保有する豊田自動織機はどうでしょうか?

 法人株主比率が48.41%です。日本生命やあいおいニッセイ同和、従業員持株会も安定株主でしょうから、合わせると53.16%です。豊田自動織機の時価総額は約1兆8,000億円です。時価総額が2兆円近い会社の安定株主比率が50%を超えています。トヨタ自動車の6.63%の株式を持つ豊田自動織機は完全に守られています。では2.56%を保有するデンソーは?

 法人株主比率が36.7%です。日本生命や従業員持株会、三井住友海上も上位株主に登場していますので、これらを合わせると41.7%です。デンソーの時価総額は約3兆8,000億円です。安定株主比率、高いですね。

 トヨタ自動車と豊田自動織機、デンソーの3社の株主構成を見てみましたが、いかがでしょうか?トヨタグループは安定株主比率が高いのです。時価総額が大きくなれば、通常、安定株主比率は低下します。でもトヨタグループは時価総額が大きいのに安定株主比率が高いです。

 なぜトヨタグループは安定株主にこだわりがあるのでしょうか?正確なことは私にはわかりません。かつて経営危機に陥った経験があるからなのか、小糸製作所へのブーン・ピケンズによる買い占め事件があったからなのか・・・

 いずれにせよ言えることは、日本で最大の時価総額を誇る会社が誰よりも安定株主対策に余念がないということです。買収防衛策を廃止する会社が「企業価値を高めることこそが最大の防衛策である」と説明することがあります。皮肉なことに、時価総額が日本で最大の企業が防衛策に頭をひねっています。企業防衛の世界はきれいごとでは通用しません。企業価値向上は当たり前の話であって、防衛戦略は個々の会社で練り上げておく必要があると思います。「そもそも防衛なんてしない!」 ある意味「潔い」と言えますが、それは「思考停止」とも言えます。防衛戦略を練っておくことはCFOの大事な仕事の一つではないかと思います。「アメリカの会社が防衛戦略なんか準備してるのか?」と言われるかもしれません。ちなみに、企業防衛マニュアルのことを「Black Book」と言います。10年くらい前に皆さん準備しましたよね?Black Bookって英語ですよね?そもそもこういった企業防衛の話などは米国発です。もっと言うと、ポイズンピルを発案したのはアメリカの弁護士です。

 

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