2016年11月18日

No.21 DOWAホールディングスが実施した長期保有株主への優遇策 など2コラム

■DOWAホールディングスが実施した長期保有株主への優遇策

 最近、長期保有株主に関して意見をいただくことがあるので、先日に引き続き同じようなテーマで書きます。

2006年8月にDOWAホールディングスが、2006年9月末の株主に対して、DOWAホールディングス株式を3年間保有することを条件に1株につき0.05株の株式を受け取ることができる新株予約権の無償割り当てを行うことを公表しました。簡単に言えば、2008年9月末時点で10,000株持っている株主が3年間継続して保有し続ければ、500株もらえるよ、という制度です(http://www.dowa.co.jp/jp/ir/news/pdf/2006/release060830_jyoken.pdf)。継続して保有しているかどうかは、3月末と9月末の株主名簿でチェックします。仮に10,000株持っていた株主が5,000株売ったとすると、もらえる株式は250株になります。

 第3次中期計画の期間中、継続して支援してくれる株主の期待にこたえるために実施したそうです。

 当時は割と注目されました。まだ覚えていらっしゃる方、記憶の片隅にある方、かなりの通です。

 でも、これって、本当に株主にとってメリットあるんですかね???

 例えば、DOWAホールディングスのすべての株主が「すばらしい施策だ!3年間継続して保有しよう!」と考えた場合。ポイントは「すべての株主」です。全員、保有し続けた場合、全員に新株が交付されます。

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 そうです。株式分割したのと同じことなんです。

 もっとわかりやすくしますと、例えば、企業価値5、発行済み株式総数5株、株主数5人、1株当たりの企業価値1の会社があるとします。その会社が「3年間持ち続けてくれたら、みなさんに1株ずつ新株を交付しますよ!」と言いました。5人の株主は「それはよい!持ち続けよう」と考え、3年経ちました。会社は「ではみなさんに1株ずつ交付しますね」と。何が起きたか?当然、この施策だけでは企業価値は向上しません。5人に対して1株ずつ新株が交付された結果、発行済み株式総数は10株、1人当たりの株数は2株になります。なお、企業価値は変化しませんので、1株当たりの企業価値は、企業価値5÷発行済株式総数10×持株数2株=0.5です。全員2株持っていますので1です。3年前と何ら変わりません。

 では、5人の株主のうち、1人の株主が「?単なる株式分割じゃないか」と気付いてしまいました。その株主が別の人に株式を売ってしまいました。別の人は3年後に株式がもらえることは知りません。3年経ちました。5人のうち4人が3年間継続して保有したことになります。1株当たりの企業価値は、企業価値5÷発行済株式総数9=0.55555・・・・・・です。5人のうち4人は2株持っていますので、1.11111・・・・・・となります。でも、1人だけは3年間継続保有していないので0.555555・・・・・・・・です。

 つまり、この施策により、新たなに株主になった人から既存株主に対して利益移転が起こっているということになります。

 なお、DOWAホールディングスはこの施策を継続しませんでした。追随する企業もありませんでした。ただ、この仕組みを本当に理解した上で追随しなかったのかはわかりません。「なんかややこしい施策だな。大がかりだな」と思って追随しなかっただけのように思います。しかし、これだけ世の中で「長期保有株主を増やしたい」と言われていますので、改めて検討する会社があるかもしれません。十分注意された上で検討したほうがよいと思われます。

■どうして敵対的TOBは成功しなかったのか

 過去、日本において敵対的TOBが起きました。が、結果的には成功したケースはありません。なぜ成功しないのか?

 よく言われることですが、安定株主の存在です。「日本企業は安定株主に守られているから、敵対的TOBなんて成功しないよ」という理屈です。基本的には正しいと思います。友好的なTOBですら、100%の株主が応募する訳ではありません。TOBが起こっていることを知らない、という株主もいます。また、敵対的TOBの場合、機関投資家ですら、ある理由から応募しないことがあります。この理由については、お聞きになりたい方は個別にお願いいたします。

 以前書きましたが、一般的な上場企業だと安定株主比率は25%~35%程度だと思います(あくまで私の経験上の推測ですが)。だとすると「じゃあ、70%くらいは非安定株主じゃないか。だったら敵対的であっても、成功しても不思議はないのに」と思う方がいらっしゃるかもしれません。そうなんです。非安定株主が70%もいるのに、「日本だと敵対的TOBは成功し難い」と思われているんです。ただ、過去の事例を見ても、非安定株主が70%近くいたとしても、敵対的TOBは成功しませんでした。

 実は、敵対的TOBが成功しなかった理由が、安定株主の存在に加えてもう一つあります。私は「信念が足りなかったんじゃないか?」と考えています。絶対にTOBを成功させる、そのために何が必要か?マスコミになんて言われようが、この会社はうちにとって必要な会社なんだ!どうすれば買えるんだ?

 ここから先は、我が社のノウハウにもつながることなので詳しくは書きませんが、強い信念があれば、敵対的TOBは成功します。信念と、場合によって少々の時間が必要です。

 また、逆に、事業会社であれ、投資ファンドであれ、本気で買収したいと考えた買収者が現れた場合、買収者の戦略次第では安定株主比率が高くない会社は買われます。まだ完全に買われてはいませんが、川崎汽船のケースです。他にもあります。

 

 

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