2021年03月31日

No.1043 (無料公開)日本製鉄による東京製綱への敵対的TOBが世の中に与える影響

少し前のことですが、日経で日本製鉄による敵対的TOBについての記事が掲載されています。当社のコメントも最後にありますが、補足します。今日のコラム、ちょっと長いです。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ092KV0Z00C21A3000000/

記事では「自らも2019年まで買収防衛策を導入していた日本製鉄が、敵対的TOBという強硬手段を使ってまで出資比率を高めたのは、東京製綱の経営に対する強い不満がある。」とあります。日本製鉄は2019年まで買収防衛策を導入していた企業です。以下、私が思う日本製鉄の企業防衛の歴史です。

まずきっかけは、ミタルスチールによるアルセロールへの敵対的TOBでしょう。2006年1月27日にミタルスチールがアルセロールに対して、1株当たり28.21ユーロ、総額約186億ユーロ(当時で約2兆6,000億円)で買収提案をすると公表しました。その前にアルセロールはカナダのドファスコに対して買収提案をしており、1月24日にドファスコが合意しました(総額56億カナダドル、当時で5,670億円)。ミタルスチールの買収提案に対してアルセロールは1月29日に拒否するとの意見表明をしました。その後アルセロールは、ドファスコ株をオランダのファウンデーションに移転したことや50億ユーロの株主還元を実施することを公表し対抗しました。また、当時の新日鐵とアルセロールの包括提携契約の中に資本拘束条項などが存在することも判明しました(経営支配権が他社に移った場合に知的財産権などのライセンス契約を無効にできる条項が存在。同条項を行使するかどうかについて当時の三村社長は「新日本製鐵の利益を考えた上で判断する」との方針を示した)。

そして5月18日にミタルスチールが1株28.21ユーロ、総額186億ユーロで6月29日までを期限とするTOBを開始しました。また、翌日にはミタルスチールが買収価格を3割引き上げた新提案を公表しました(1株当たり37.74ユーロ、総額258億ユーロ、当時で3兆7,000億円)。5月26日にアルセロールは対抗策としてロシアのセベルスターリとの統合計画を公表します。6月12日にアルセロールは正式にミタルスチールの提案に拒否することを公表しました。

しかし、欧州委員会がミタルスチールの買収提案を承認したり、ISSがセベルスターリとの経営統合議案に反対推奨したりする動きが出てきました。そしてアルセロールはミタルスチールとの協議に応じ、6月25日にミタルスチールが買収額を1株当たり40.40ユーロ、総額280億ユーロ(当時で約4兆円)に引き上げることを公表し、アルセロールも買収提案に賛成する旨の意見表明をしました。結果、ミタルスチールの買収は成功し、新会社アルセロールミタルが誕生しました。

そして2007年5月7日に放送されたNHKスペシャルです。

https://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20070507

NHKでは去年の秋以降、新日鉄の了解のもと三村明夫社長と「特命チーム」の密着取材を行ってきた。焦点となっている人物は一代で世界の20以上の鉄鋼メーカーを次々買収し世界一の鉄鋼王となったインド人ラクシュミ・ミタル氏。去年ヨーロッパ最大のメーカーを買収、次のターゲットは世界一の技術力を誇る日本のメーカーだと言われている。

当時私もこの番組を見ました。なにせ14年近く前なのでもう覚えていないのですが・・・と思ったら以下の本を見つけました!買ったのですが、最近届いてまだ読んでません。コラムにできそうな内容があればまとめます。

新日鉄VSミタル | NHKスペシャル取材班 |本 | 通販 | Amazon

そして新日鐵は買収防衛策を導入しました。2006年3月29日のことです。ミタルスチールによるアルセロールへの敵対的TOBが実施されている最中のことですね。本当にミタルスチールによる買収の脅威があったのか実際のところは上記の本などを読んでみないとわかりませんが、当時の新日鐵が導入した買収防衛策は珍しい内容のものでした。いわゆる事前警告型買収防衛策の導入については、パナソニックなどが導入し始めた2005年頃にスタートしています。パナソニックは、20%以上の株式を取得する場合、情報と時間をください、ルールを守っている限りは買収防衛策を原則として発動はしませんよ、という内容です。パナソニックは買収防衛策の導入を株主総会にかけていません。取締役選任議案に「各候補者は買収防衛策の導入に賛成しています」といった注を入れて、買収防衛策の導入に賛成している取締役候補者に賛成したのだから買収防衛策にも賛成、という間接承認方式で導入しました。その後、パナソニックの買収防衛策を基本に、独立委員会が買収者に対して情報提供を要請するような仕組みや株主総会に買収防衛策導入議案をかける方法なども誕生しました。

新日鐵が導入した買収防衛策の仕組みは、簡単に言えば「20%以上の株式を取得しようとする買収者は情報と時間を提供してください。買収防衛策を発動するかどうかは株主総会を開催して株主の皆さんに決めてもらいます」という内容です。似たような仕組みを新日鐵の買収防衛策公表以前に(2005/12/15)、以下のとおり商事法務に掲載しました。

ー株主・対象会社・買収者にとってフェアな買収防衛策の試案ー

https://www.shojihomu.or.jp/article?articleId=1138301

新日鐵が導入した買収防衛策には賛否もあったと記憶していますが、非常に工夫されたおもしろい内容だったと思います。しかし新日鐵は取締役会決議で導入していた買収防衛策を2016年6月から総会にかけました。そして更新を迎えた2019年に買収防衛策を廃止すると公表しました。余談ですが、買収防衛策を公表する際、東証の規則でプレスリリースのタイトルに(買収防衛策)と明記しなくてはなりません。これ、私は今でも大反対です。なぜなら日本企業が導入しているのは、買収者に対して情報提供を検討時間の確保を要請するルールであって、いかなる買収提案の実現を阻害するような「買収防衛策」ではないからです。私の勝手な思いですが、新日鐵も同様の考えをお持ちだったのではないかと思っています。新日鐵の買収防衛策のタイトルは一味違うからです。

https://www.nipponsteel.com/ir/library/pdf/20160428_200.pdf

「当社株式の大量買付けに関する適正ルール(株主共同の利益の確保・ 向上のための買収防衛策)の変更に関するお知らせ」と単に(買収防衛策)ではなく(株主共同の利益の確保・ 向上のための買収防衛策)となっています。こういうのを見ても「さすが新日鐵!」と思います。

なお、新日鐵は買収防衛策だけで企業防衛体制を構築していた訳ではありません。いろんなことをやっています。例えば、持ち合いです。買収防衛策の導入を公表した2016年3月29日に以下のプレスを公表しています。

https://www.nipponsteel.com/news/old_nsc/detail/index.html?rec_id=3054

「新日本製鐵㈱・住友金属工業㈱・㈱神戸製鋼所間の連携施策の推進状況と更なる深化を確実にするための三社覚書締結について」です。

新日本製鐵、住友金属工業、及び神戸製鋼所は、これまで、連携施策を着実に推進し、昨年3月末の三社連携深化の公表以降は、資本市場の変化に対し必要となる対策についても、各社個別の取り組みに加え、共同で研究・検討してまいりました。今回は引き続き連携を深化・推進し、その成果を享受していく観点から、三社のいずれかに買収提案がなされた場合に、他の二社への通知と要請に基づいて、買収提案が提携関係に与える影響及びそれに対する対応を共同して検討する旨を取決めた三社覚書を本日付けで締結致しました。同覚書は、今後も買収提案に備えた諸施策に関し継続して検討することなども定めております。

(中略)

また、これらの提携策の検討及びその実行をより一層円滑かつ確実に推進して行くため、相手方に出資を行ってまいりました。結果、新日鉄は、住友金属の普通株式を240,826千株(5.01%)、住友金属は、新日鉄の普通株式を123,512千株(1.81%)、新日鉄は、神戸製鋼の普通株式を63,975千株(2.05%)、神戸製鋼は、新日鉄の普通株式を28,017千株(0.41%)、住友金属は神戸製鋼の普通株式を63,795千株(2.05%)、及び神戸製鋼は、住友金属の普通株式を82,184千株(1.71%)、保有するに至っております。

買収防衛策、持ち合いなどなどいろいろな企業防衛施策を打ってきた新日鐵ですが、その集大成がまさに住友金属工業との経営統合でしょう。買収防衛策を導入し、持ち合いもやりつつ、企業防衛の王道である「時価総額の拡大」という策を打ちました。

私は新日鐵の企業防衛体制というのは、日本企業のお手本だと思っています。買収防衛策や持ち合いに対して批判は強いですが、買収防衛策は決して買収防衛策ではないですし、持ち合いも意味のある持ち合いがあります。新日鐵はそれを実践してきました。「文句あるか?」だと思いますよ。

その新日鉄、日本製鉄が今回、東京製綱に対して敵対的TOBを実施しました。そして持分を約19%まで引き上げました。東京製綱の規模が小さかったことや取得する株数が少なかったことなどもあったせいか、あまり話題にはなりませんでした。しかし私は、これまでお手本のような企業防衛策を実践してきた日本製鉄が敵対的TOBを実施したことに対して、非常に驚きました。何かの間違いかと思い、プレスを二度見しました。間違いなく、東京製綱の同意を得ていないTOBであり、敵対的TOBでした。

なぜ日本製鉄が敵対的TOBを選択したのか?私にはその経緯はわかりません。しかし大切なのは、日本製鉄が敵対的TOBを選択したという事実です。おそらくいろんな事例を分析したのではないでしょうか?そして「日本製鉄が敵対的TOBを実行しても、世間、株主、ステークホルダーから批判されることはない」と判断し、踏み切ったのではないかと考えます。

日本製鉄の今回の行動が他の日本企業に与えるインパクトは大きいと思いますよ。「日本製鉄までもが敵対的TOBを選択する時代になった」と認識するでしょう。これから敵対的TOBは経営の選択肢から外せないものになっていくと思われます。敵対的TOBを仕掛けてくる会社はもうオーナー系企業やアクティビスト・ファンドだけではないのです。そういった時代にどう対応し、独立した上場会社として生き残っていくかを考えなくてはなりません。そのためには「仕掛けられる前に仕掛ける」という発想も必要なのではないでしょうか?もちろん、買収防衛策や持ち合いについても引き続き考えていく必要はあります。

これから日本企業は本格的な敵対的買収時代を迎えます。

 

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