2017年07月07日

No.125 もの言う株主は悪者か など2コラム

■もの言う株主は悪者か

 ものの言い方によりけりです。机をバンバン叩きながら「どうするんですか!?社長!」ってな感じで脅迫めいた要求をするようなファンドは悪です。極悪です。

ちょっと前ですが、2017年6月26日の日経5面「経営の視点 もの言う株主は悪者か 異端児の声、今や日常に 編集委員 小平龍四郎」という記事がありました。記事中でストラテジックキャピタルの丸木さんは「正しいと思う提案を出して一定の賛同を得れば、多少時間はかかっても会社は変わってくる」と発言してらっしゃいます。これに関しては、私も賛成です。何十年にわたってキャッシュをため込んできた会社に対して、ため込み過ぎはよくないということをわかってもらうには時間が必要です。その時間の中で、株主還元だけでなく、経営者の報酬も上げるべきだということも合わせて説明して理解してもらう必要があると思います。株主だけが得をしようと言うのはダメです。会社を本質的に変えて企業価値・株主価値を高めたいのであれば、株主だけでなく会社の役職員の利益も考えなくてはなりません。

 一方で、もの言う株主にもいろんな人がいます。冒頭で申し上げたような、机をバンバン叩きながら高圧的な態度で迫るような人もいます。こういう人は論外です。こういう交渉は、交渉ではなく脅迫と言います。

 私の考え方は、もの言う株主は決して悪者ではない、しかし、異常なほどの株式を取得した上で脅迫してくる株主は悪者である、です。異常なほどの株式のレベルは、例えば10%以上です。5%の水準であれば珍しいことではないでしょうが、10%以上取得して主要株主になった上で何かしらの要求をしてくる株主は、私は異常だと思っています。ましてや20%、30%の水準などあり得ません。株式の取得割合が増えれば増えるほど、会社の内部情報に接する機会が増えるのではないかと思います。つまりインサイダー情報を取得してしまうリスクが高まるということです。主要株主は、会社の重要事実を知りえる立場にあることから、売買報告書の提出義務、短期売買による利益返還、空売りの禁止が課せられています。

 インサイダー情報を取得してしまう危険性がある水準まで株式を取得し、経営陣に接触して株主還元やM&Aなどの財務・経営施策の実行を迫るなんて、危険極まりない行動ではないでしょうか?だから「聞いちゃったと言えば聞いちゃった」などという発言、有罪判決につながるのです。

 もの言う株主をひとくくりにして論じてはいけないと考えます。いろんな人がいますし、そもそも、機関投資家なんて全員がもの言う株主です。もの言わない株主なんていません。安定株主くらいです。

 20%とか30%とか出資している株主って、普通はどういう株主でしょうか?私の考え方からすると、会社の設立時から出資している株主というイメージです。会社の設立目的や創業者の考えに共感し、お金を出資するという極めて友好的な株主という感じでしょうか。つまり、会社の味方でありつつ、時には厳しい意見を言ってくれるお目付け役です。しかし、現在、20%とか30%の水準の株式を市場で買い付けている株主はどういう株主なのでしょうか?その会社の経営に問題がある、問題がある点を是正すれば株価が上がって儲かる、だからたくさん買って経営に圧力を加えてやろう、という株主ではないでしょうか?法律専門家ではありませんが、会社法や金商法は、そういう株主がいるという前提で整備されていないのではないかと思います。当然、大量の株式を背景に経営に圧力を加える行為は違法ではありませんので、正式には文句の言いようがありません。

 6月26日の「経営の視点」ではもの言う株主の声を「異端児の声、今や日常に」と表現しています。20%、30%という水準の株式を取得して経営に圧力を加える株主は、異端児などというくくりで語られる人たちではありません。荒くれ者、博徒です。そういう意味では、黒田電気はもの言う株主の犠牲者、もの言う株主をひとくくりにして論じた世論の犠牲者であると私は考えます。

 前にも申し上げましたが、私は粉飾決算とインサイダー取引は株式市場における最も重大な犯罪であると考えています。インサイダー取引を行ったファンドは、本来は、株式市場に舞い戻ってくることなど禁止すべきと考えます。まあ、投資することまで禁止するのはやり過ぎかもしれませんが、上場企業の経営に関与するなどあってはなりません。もの言う株主が貴社の株式を取得することまで防御するような施策を取るべきではありませんが、荒くれ者から会社を守るための施策は備えておくべきではないかと考えます。

 今、村上さんが書いた「生涯投資家」を読んでいるのですが、あまり読みすすめることができません。なぜか?すべてを読んだ後で感想を書きたいと思うのですが、正直申し上げると、あまりおもしろくないというのが個人的な現時点での感想です。コーポレート・ガバナンスの話はもう何度も聞いたことのある話で、新鮮味がありません。

彼は自身のことを「ファンド・マネージャー」と称しています。私には畳み掛けるように話す彼がファンド・マネージャーには見えないし、ましてや日本企業を変えたいという思いが伝わってきません。何に見えるか?ご想像におまかせします。

■以前、ソレキア株式の購入を投資家に勧めたところ・・・

 海外に住む投資家に今年の2月中旬頃、ソレキア株式の購入を勧めました。念のため申し上げておきますが、当然ながら私はインサイダー情報などを保有しておらず、かつ、ソレキア・富士通・佐々木ベジとは何の関係もなく機密保持義務がないことから、公表情報をもとにセカンダリーに属する投資家に株式取得をすすめました。2月中旬時点での理屈は以下のとおりです。

・佐々木ベジがソレキアに対して実施したTOBは下限がないから必ず成立する。

・上限は付いているが、応募しない安定株主の株数を考えると、たぶん按分にはならない。

・ソレキアが行使した質問権を見る限り、おそらくカウンターTOBの実施を画策している。

・仮にカウンターTOBが実施されなくても、佐々木ベジのTOBは必ず実行されるから、損をしたとしてもかなり限定的。

・(いくらまで上がると想定しているのか?という質問に対して)5,000円は超えてくるだろう。順当にいけば、BPS6,300円を超えても不思議はない。ソレキアのカウンターTOBは失敗するだろう。

結果、その投資家は買いませんでした。理屈は以下のとおりです。

・セールストークは理解したが、買うとしたら出資者の資金でではなく、自分のポケットマネーにする。

・鈴木の理屈を出資者に説明できるだけの知識がない。出資者につっこまれたら私の知識では回答できないだろう。

・何よりもソレキアの平常時の出来高があまりに少なすぎる。株式投資をする以上、逃げ道は確保しておく必要があるものの、ソレキアの出来高では逃げ道にならない。

なお、上記リスク以外に、海外に居住する投資家のため、日本国内でのTOBに応募するには常任代理人などを設置する必要があり、国内投資家よりも手間がかかるという点があります。まあ、最悪、マーケットで売ってしまえばよいのですが。

私はマーケッターである投資家の理屈に対して「なるほどなあ」と思いました。インベストメントバンカーとマーケッターの違いです。マーケッターは流動性を意識します。なぜなら逃げ道の確保だからです。投資をするに当たっては戦略を立てますが、自ら立てた戦略通りにマーケットが動くとは限りません。戦略通りに動かなったときは、逃げる必要があります。その際に重要になるのが、その銘柄の流動性です。ソレキアのように平時の流動性が極端に低い銘柄の場合、何かあると売るに売れなくなってしまうときだってあります。

なぜこの話を私がしたかというと、大量に株式を取得して会社に圧力をかけるアクティビストファンドのやり方は、やはりおかしいのではないかと思うからです。黒田電気や川崎汽船の株式を村上ファンドグループやエフィッシモが30%以上取得しています。ソレキアに比べて、黒田電気や川崎汽船は十分流動性があるでしょう。しかし、発行済株式総数の10%程度であればまだしも、30%以上取得してマーケットで売り抜けることができるのでしょうか?できなくはないのでしょうが、自分たちの売りで株価を押し下げてしまうと思います。自分で自分のクビを絞めるということですね。

では、大量に株式を取得した方々はどうやって売り抜けるのでしょうか?私はファンド運営をしたこともないですし、そんな大量の株式の売買をしたこともないので、素人の想像になってしまいますが、そもそも、マーケットで売り抜けることなど考えていないのではないでしょうか?会社もしくは第三者が一括して引き受けない限りは難しいと考えます。つまり、会社が自己株取得をするか、TOBなどにより第三者が買い取るか、です。このようなことを想定していない限り、30%以上の株式を取得するなど考えにくいことではないかと思います。

しかし、これって正しいことなのでしょうか?そりゃ、法律違反でもなんでもないのですが、そもそも、マーケットで会社に事前相談なく買ったのであれば、当然売るときも会社に事前相談せずマーケットで売れ、ではないでしょうか?よくアクティビストファンドが「あなたの会社はM&Aの対象になるべき会社だ。身売りすべきだ」と言うことがあります。村上ファンドも黒田電気に対して同様の趣旨のことを言っているように思います。

でも、会社の方からすれば「え?オレ達は身売りすべき会社なの?身売り先を探せと言っています?だとしたら、なぜそんな会社に投資したんですか?」ではないかと思います。その会社に魅力があるから投資したのではないのでしょうか?株を買って「身売りしろ」ってどうなんでしょうか?だったら買うなよ、ではないでしょうか。「30%も買ったら市場で売却できないですよね?だから身売り先を探せって言ってるんじゃないですか?あなた方が保有している株式の処理のために身売りするなんて考えられません!」だと思います。

こんなに大量の株式を取得し、ときに経営者に対して高圧的に詰め寄る彼らは、本当に「ファンド・マネージャー」「投資家」なのでしょうか?「ファンド・マネージャー」や「投資家」は、少なくとも市場で買った株式は市場で売却するのではないでしょうか。私には彼らがファンド・マネージャーや投資家には見えないのです。

昨今、日本でもコーポレート・ガバナンスについて活発な議論がなされており、一昔前に比べると日本企業は変わったと言われます。ときには「村上ファンドの活動も影響している」と言われることがあります。しかし、私は彼らが日本企業のマインドを変えたのではないと考えます。日本企業が自助努力で変わったのだと思います。単なるきっかけを作っただけであり、きっかけを作っただけで「オレ達が日本企業を変えた!」などと言うのはおこがましいです。

 

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