2021年06月23日

No.1097 (無料公開)日邦産業の今年の仕事はフリージア・マクロス対応のみです

今年も半年が過ぎようとしていますが、この半年間、ずーっと敵対的TOB対策のみをしている会社があります。そうです。フリージア・マクロスに敵対的TOBを仕掛けられた日邦産業です。いや、半年ではないですね。フリージア・マクロスが日邦産業の大量保有報告書を提出したのが2019年3月ですから、2年以上、日邦産業がフリージア・マクロスに振り回されてきました。

そして少なくともフリージア・マクロスが日邦産業に対する敵対的TOBを公表した2021年1月27日以降、日邦産業は敵対的TOB対応しかしていないと言っても過言ではありません。以下、日邦産業の特設ページです。

https://www.nip.co.jp/ir/tob_news.html

TOB開始から直近までに日邦産業は42本のプレスリリースをしています。1月1本、2月4本(1週間に1本ペース)、3月15本(2日に1本ペース)、4月8本(1週間に2本ペース)、5月6本(5日に1本ペース)、6月8本(今のところ2日に1本といったところ)です。プレスリリース自体は弁護士中心に作っているでしょうし、裁判対応も弁護士です。ただ、そうはいっても内容を確認する必要がありますし、内容の確認は事務局がやるだけではなく、社長やCFOもするでしょう。会議もたくさんあります。これ、社長もCFOも仕事にならないですよ・・・。これが敵対的TOBのターゲットになってしまった会社の実態です。

このような状態で社長が取引先に行ったり、製品開発に関わったりできるでしょうか?できません。そもそも取引先とのアポイントなんて入れられません。何が起きるかわからないのですから。出張も行けませんね。海外なんてもってのほかです。海外に行っている間に何が起きるかわかりませんから、長期で会社をあけることなどできません。

なぜ日邦産業はこのようなことになってしまったのでしょうか?現経営陣の責任なのでしょうか?私は現経営陣に責任はないと思います。むしろ日邦産業の現経営陣は非常によくがんばっていらっしゃると思います。なぜなら一度買収防衛策を廃止してしまったものの、フリージア・マクロスが登場するやいなや、廃止した買収防衛策を復活導入したからです。一度廃止した買収防衛策を復活させるのは、少々度胸と根性がいります。それをやった日邦産業の現経営陣は非常に評価されるべきと思います。

では何が悪かったのか?簡単です。日邦産業は運が悪かったのです。日邦産業だけではありません。これまで敵対的TOBを仕掛けられた会社は、株価を割安に放置し敵対的TOBリスクを考えてこなかったのではありません。株価が割安に放置されている会社なんて日本にいくらでもあります。そんな数多くある割安銘柄の中で、たまたまアクティビストや買収者に見つかってしまったのです。

もちろん日邦産業だって、あのまま買収防衛策を継続していれば敵対的TOBを仕掛けられなかったかもしれませんが、買収防衛策を廃止した会社なんていくらでもあります。そんなたくさんある廃止企業の中から、運悪く見つかってしまったのです。

フリージア・マクロスのターゲットになった日邦産業やソレキアは非常に運が悪かったのです。しかし逆に言えば、今まで狙われてこなかった会社はたんに運がよかっただけなのです。買収防衛策を導入せず、常日頃から企業防衛に関する議論を深めていない会社は、会社の危機管理を運だけに委ねているように私には見えます。

買収防衛策を導入し、常日頃から企業防衛に関する議論を深めている会社であっても、いざ敵対的TOBを仕掛けられてしまうと助かるかどうかはわかりません。非常に高いTOB価格を提示されてしまうと、助からない可能性のほうが高いかもしれません。日頃から準備している会社ですらこうなのですから、日頃から準備していない会社なんてイチコロです。

日邦産業の経営陣は非常によくがんばっており、なんとか持ちこたえてほしいとは思うのですが、残念ながら最高裁で勝ったとしてもこの戦いはまだ終わりません。なぜなら以下のとおり裁判所がフリージア・マクロスに対して戦い方を示唆してしまいましたから。。。

https://ib-consulting.jp/column/3542/

「日邦産業の買収防衛策には情報提供要求期間に上限がないというフリージア・マクロスの主張について」

確かに上限がないので日邦産業の取締役会が情報提供期間をいたずらに引き延ばすおそれがないとはいえない。しかし、客観的に必要十分な情報を提供したのに、日邦産業の取締役会がなお不十分として情報提供完了通知を出さない場合は、フリージア・マクロスは、その時点で買収防衛策ルールから離れて日邦産業株式の追加取得に動き、これについて日邦産業の取締役会が対抗措置を発動しようとしたときは、フリージア・マクロスが差止請求をすれば、裁判所は当該仮処分命令を発出することになるものである。

最高裁の決定が出ても終わりません。おそらくフリージア・マクロスは日邦産業の買収防衛策ルールに則って買収提案をしてくるでしょう。そして日邦産業がルールに則って情報提要を要求し、それが長期化した場合、その時点で敵対的TOBをまた仕掛けてくる可能性があります。「日邦産業は不当に時間を稼いでいる。もう十分な情報提供をしたから、これ以上ルールに従う必要はない」として。

これからもまだまだ続くと思います。敵対的TOBを仕掛けられたときの最大のリスクは、社長やCFOが本業に専念できなくなり、会社の中長期的な競争力が弱体化するということです。そうならないように、常日頃からきちんと議論し、やるべきことをやっておく必要があるのです。買収防衛策は最低限必要な施策ですし、買収防衛策だけではありません。

 

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