2022年05月20日

No.1311 社長!金庫株の使い道を教えてください!

まだこういう質問をする投資家っているんですかね?誤解している方もいらっしゃるかもしれないので、改めてまとめますね。

「金庫株の使い道を教えてください!」という質問に対する正しい回答とは?

はあ?質問の意味がわかりません。

です。まず貴社の金庫には自己株式などないということをご理解ください。純資産の部に自己株式がマイナス計上されているだけで、自己株式という資産が貴社にあるわけではありません。会計上表示されているだけです。そもそも存在しないものの使い道を聞かれても困るのです。

ではなぜみんなが金庫株の使い道を質問するようになったのでしょうか?正確なことはわかりませんが、たぶん、有価証券報告書の上位株主に自己株式が登場するようになったから、みんな「なんで自己株式をこんなに持ってるんだ!持っているなら使い道を示せ!示せないなら消却しろ!消却したら株価が上がるぞ!」と考え始めたのがきっかけじゃないでしょうかねえ。

そしてこれに加えて諸悪の根源が証券会社をはじめとした金融機関でしょうね。貴社に対して「金庫株の使い道を考えましょう。投資家から、使い道がないなら消却しろ、と言われます。ちゃんと使い道を考えないといけませんよ」って提案し始めました。私も営業マンに相談されたことありますよ。「鈴木さん、私の担当会社は金庫株が多いんですよ。使い道を提案したいんですけど、相談に乗ってくれませんか?」と。私の回答は「相談には乗らん!金庫株に使い道などない!そんな提案で会社を誤解させるな!」です。営業マンはぽかーんとしてましたけど。

ではそもそも一般的に言われている金庫株の使い道って何でしょうか?大きくは2つです。金庫株を処分して資金調達をするか、M&Aの対価にするか、ですね。つまり金庫株の使い道を考えるということは、貴社の資金調達やM&Aについて考えるということです。そして資金調達やM&Aは何も金庫株がないとできないわけじゃありません。新株でいいでしょ?いや、金庫株があれば使えばいいけど、金庫株じゃないとできない方法なんてありません。別に金庫株なんて今すぐ消却して、資金調達やM&Aが必要になれば新株でやればいいだけの話です。自己株取得は株主還元であり、自己株取得を実施した時点で終了しています。金庫株になるかどうかは消却するかどうかの違いだけであり、消却しなくても別に何の影響もありません。

資金調達で金庫株を使うメリットは、新株で資金調達をする場合、増加した資本金の額の1,000分の7を乗じた金額を登録免許税として支払わなくてはなりませんが、金庫株の場合はこれがかかりません。金庫株を使う唯一のメリットがこれです。これだけです。ちなみに誤解している方もいらっしゃるかもしれませんが、金庫株を処分して資金調達するには、新株の場合と同様の法的手続きが必要になります。勝手に金庫株を市場で処分して売却代金を手に入れることなどできません。目論見書も作らなくてはならず、新株の場合と同じだけの手間がかかりますM&Aの場合も同じです。金庫株を使った場合のメリットなどはないです(細かいメリットが多少あったかもしれませんが大きなメリットはないです)。

これ、本当にわかっている投資家もあえて金庫株についての方針を聞いてくることがありますが、確信犯ですね。たぶんわかっている投資家の言い分は「金庫株を保有しようが消却しようが一緒。でも日本の経営者は自己株取得をイヤイヤやってるだろ?いつか金庫株を処分してまた資金調達してやろうと考えているだろ?そういうことをしないという姿勢を示してもらうためにあえて消却しろと言っている」だと思われます。わかってない投資家もいると思いますよ。

ですから投資家の「金庫株の使い道は?」という質問に対する正確な回答は「今のご質問は当社の株式発行による資金調達戦略、M&A戦略についてのご質問と理解すればよろしでしょうか?」と確認すればよいのです。消却しないのか?と聞かれたら「消却しようがしまいが同じこと。消却すれば一時的に株価が上昇するケースも知ってはいるが、投資家が誤解して株価が上がっているだけ。当社は投資家の誤解につけこんだ株価の上げ方などしたくない」と答えたらどうでしょう?

本当に理解している投資家が「それはわかっていますよ。私は貴社の資金調達の姿勢を聞いています。安易にエクイティ資金を調達し、希薄化してほしくないのです」と聞いてきたら、「当然です。もちろん上場会社として幅広く資金調達手法を確保しておかなくてはならないという観点から、絶対にエクイティ調達をしないと明言することはできない。ただし、安易なエクイティ調達をするつもりはありませんし、する場合は株主の皆様にご納得いただけるようなきちんと資金使途や成長戦略をお示しします。」と答えればよいと考えます。

金庫株の使い道なんて考える必要がないのです。正確に言えば、金庫株の使い道という考え方ではなく、当社の株式発行による資金調達戦略、M&A戦略を考えるということであり、当然それらは上場会社として常に考えていることです。証券会社の営業マンが金庫株の使い道についてプレゼンしてきたら「顔を洗って出直してこい」と丁重に伝えてあげましょう。

 

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