No.1896 (無料コラム)船井電機がこんなことになった原因はこれでは?
特別会員のお客様から「鈴木さん!船井電機ってどうなってるの?教えて!」というご質問をいただき、当初「ああ、なんだかうさんくさいヤツですね。たしかFACTAに載ってましたよ」とお知らせしたのですが、私の視点で何か気づきはないかと調べてみました。これ、現金抜き取りのスキームなどは、私は専門外でよくわかりませんが、結局のところ、多額の現金が確保できてしまった買収価格に問題があったのでは?と思い、当時の公開買付届出書を見たところ、おもしろいことがわかりました。
以下は有料記事なので冒頭部分だけの抜粋です。
見るも無惨! どすぐろい勢力に侵食された「船井電機」 外部から一挙に5人が取締役入り。しかも、貸し金業関係者など電機業界とは無縁の人物ばかり。
2017年には船井氏が90歳で死去し精神的支柱まで失った。長男・哲雄氏は北海道で医師の道を歩んでおり後継者も不在。結局、哲雄氏は21年に持ち株を処分する。手を挙げたのは外資系大手コンサル出身の上田智一氏。独立後、中小企業の再生案件を手掛け、そうした中の1社、出版業の「秀和システム」を通じTOBを実施。船井電機は非公開会社となった。秀和システムは買収資金約260億円の大半をりそな銀行からの借入金で賄っていた。
この件、かなり話題になりましたのでいろんな記事が出てきます。
https://news.yahoo.co.jp/articles/5c1fb4343a8246a76be59aa5bd0aeda6c9333f96
この買収の際、秀和側がりそな銀行から借り入れた180億円は、船井電機の定期預金が担保とされ、今年5月、回収されていた。
上田氏は買収後、経営再建に向け、多角化を進める方針を示し、23年3月に船井電機・ホールディングス(HD)を設立し、持ち株会社制に移行。業容拡大を図り、23年4月に脱毛サロン「ミュゼプラチナム」を買収した。この際、横浜幸銀信用組合(横浜市)から借り入れた33億円が簿外債務となった。ミュゼへの資金支援や関連会社への貸し付けなども行われていた。
こうした資金流出の結果、秀和による買収前に約347億円あった船井電機の現預金は「ほぼ尽きている」状況となり、保有する関係会社株式も相当程度が無価値となることも想定され、破産申し立ての理由となる「継続的に弁済することができない状態」となった。
私がそもそも気になったのは「こんなに現金ジャブジャブの会社をどうやって安く非公開化したのか?」という点です。2021/3期末のB/Sを見ると、現預金349億円、投資有価証券10億円、一方、有利子負債は短期借入金約2億円とリース債務約2億円程度と無借金です。
以下、船井電機が非公開化する際の公開買付届出書です。
https://f.irbank.net/pdf/E36386/etc/S100L0HE.pdf
非公開化のためのTOB価格は918円で、TOB公表日の前営業日である2021年3月22日の終値696円に対して31.90%、終値平均過去1カ月596円に対して54.03%、過去3か月489円に対して87.73%、過去6カ月466円に対して97.00%のプレミアムを加えた価格だそうです。
ただし、買収者は全株主から918円で株式を買い取る訳ではありません。筆頭株主で11,738,780株(所有割合34.18%)を持つ船井哲雄氏からは403円で船井電機が自社株買いをします。みなさん「なんで918円のTOBに応募しないの?」と思いませんでしたか?または「ああ、よくあるよね。TOBには応募せず、会社の自社株買いに応じて税務メリットを取るヤツでしょ?」と思いませんでしたか?
違うんです。これ、税務メリット、取れないんです。自社株買いで税務メリットが取れるのは法人株主であり、このケースでは個人ですからとれません。「だったらなんで918円じゃなくて403円なの?すんげー安いじゃん!」と思いますよね?
船井哲雄氏は船井電機創業者の長男ですが、FACTAによると北海道で医師の道を歩んでおり、船井電機とは関係があまりないようです。ただ、公開買付届出書には以下のような記載があります。創業者の長男として船井電機の業績がよくないことを悩んでいたのかもしれません。
船井哲雄氏は、2017年9月下旬から、対象者の業績状況を鑑み、対象者の創業者の長男として対象者の業績を回復させ、対象者を再成長させる必要があると考えていたものの、自らが対象者の主要株主であり筆頭株主として業績回復・再成長に関与していくよりも、過去に業績の低迷する企業を再成長させた経験を有する経営者に対象者の業績回復及びその後の中長期的な発展・再成長を託したいと考えていた。
そしていろんな方に相談した結果、買付者である秀和システムHDの上田氏と出会ったようです。詳しくは公開買付届出書をご覧ください。
で、なぜ918円のTOBではなく403円の自社株買いに応じるのかというと、公開買付届出書にこう書いてあります。なお、当初は(ⅰ)自己株取得と(ⅱ)買収者による相対取得のどちらの方法で船井哲雄氏から買い取るか未定だったため、以下のような書き方になっています。また、以下では買取価格が400円になっていますが、最終的には403円になりました。
(ⅰ)対象者自己株式取得、又は、(ⅱ)公開買付者による相対取得により船井哲雄氏の所有する対象者株式全てを1株当たり400円で売却することについて、2020年10月上旬、船井哲雄氏に提案を行いました。これに対して、船井哲雄氏は、具体的な試算までは実施していないものの、(ⅰ)又は(ⅱ)のスキームを採用した場合であっても、船井哲雄氏に税務上のメリットがあるものではなく、本公開買付けに応募した場合と比較して船井哲雄氏が本公開買付けに応募した場合に受領することとなる経済的価値よりも、(ⅰ)又は(ⅱ)のスキームを採用した場合に受領することとなる経済的価値の方が小さくなることを確認しましたが、対象者の業績状況を鑑み、対象者の創業者の長男として対象者の業績を回復させ、対象者を再成長させる必要があると考えていた中、本取引の実現が対象者の企業価値向上及び今後の事業展開にとって重要であると判断し、本取引の実現性を高め、かつ船井哲雄氏以外の対象者の株主の皆様への経済的な還元を優先したいとの意向を示した上、本取引に創業家及び大株主として協力する観点から、2020年10月上旬、船井哲雄氏の所有する対象者株式の全てについて本公開買付けに応募せず、上記(ⅰ)又は(ⅱ)の方法により船井哲雄氏の所有する対象者株式全てを1株当たり400円で売却することを受諾する意向である旨の返答を行いました。
創業者の長男として責任?を感じていたから「私の分は安い価格でけっこうですから、他の株主さんを優先してください。そして浮いたお金は会社の再建に使ってください」と考えたのかもしれませんね。
創業者の長男である船井哲雄氏が安い価格で株を売却したから、トータルの買収資金を抑えられたということです。918円で買ったのは買付予定数の株数22,782,386で合計約209億円です(スクイーズアウトなどは考慮せずざっくりの金額と思ってくださいね)。そして船井哲雄氏については11,738,780株を403円で自社株買いをしましたから、かかった金額は約47億円です。トータル256億円かかったわけですが、もし船井哲雄氏の持ち株も918円で取得していたら?約108億円です。ということはトータル317億円かかるということになり、船井哲雄氏が403円にしてくれたから、買収にかかる金額がおよそ61億円も浮いたということになります。
では、こんなに安くTOBをできるなら、アクティビストが登場する可能性もあったのではないかと考えられますが、以下、船井電機の2017/3期~2021/3期の財政状態です。まあ、悪い。

もっとさかのぼっても以下の通り。H24/3期(2012/3期)~H28/3期(2016/3期)いやいや、悪いな・・・。

これだけ悪いと、本当に立て直せるのかわかりませんからアクティビストも寄ってきませんよね。そして以下の通り、船井哲雄氏は投資ファンドとも接触したけど、信頼関係を構築できないと考えたそうで、突然、アクティビストが登場しても、船井哲雄氏はアクティビストに協力しないだろうし、自社株買いに応じずスクイーズアウトできないと考えて寄ってこなかったのかもしれません。
船井哲雄氏は、2018年8月下旬から、対象者の第9位の大株主である船井興産の専務取締役を務める黒宮彰浩氏を介して、複数の投資ファンドとも接触の機会をもったものの、これらの投資ファンドとは信頼関係を醸成することはできなかったとのことです。
あと、詳しくは法律専門家に聞いていただきたいのですが「2020年3月10日、船井哲雄氏と秀和グループとの間で、船井哲雄氏の所有する対象者株式の譲受けの検討についての独占交渉権に関する合意書を締結」ともありますから、こういった契約の存在もアクティビストが寄ってこない要因の1つかもしれません。
しかし、その浮いた61億円は船井電機の再建に使われることはありませんでした。創業家の良心につけこんだ許しがたいおこないですね・・・。最近、上場会社の非公開化案件が増えていますが、こういった時代の過渡期にはこのような投資家とは呼べない人々が暗躍します。マザーズ市場ができたときも怪しい方々がいたでしょう?
非公開化をしたい会社は適正な価格でやればいいと思いますが、非公開化という行為自体は買収防衛策ではないということを肝に銘じておいた方がよいのです。船井電機はおかした人々に買収されて、結局、食い物にされたのですから。
船井電機の総括・・・
人の好い創業者の長男がおかしな投資家にたらしこまれたせいでこんなことになってしまった。
