2022年07月12日

No.1348 有事型買収防衛策のほうがよい、という人にはこう聞いてみてください

平時型買収防衛策は賞味期限切れだとか今は平時型の評判が悪いから有事型のほうがよいとか言うアドバイザーがいます。その人たちにこう聞いてみてください。

「うちにある程度のプレミアムがついた価格で、かつ全株買収という条件のTOBがかかった場合、有事型買収防衛策の発動に投資家は賛成してくれますか?」

賛成してくれますよ、というアドバイザーは嘘つきです。まあ、さすがに賛成してくれるとは言わないでしょうけどね。そしてこう聞いてみてください。

「うちの株主構成で平時型買収防衛策を導入し、株主総会で可決させることはできますか?」

アドバイザーが「できない」と言ったら、

「平時型ですら可決できないのに、どうして有事型のほうがよいと言うのですか?」

そう聞くとアドバイザはたぶん「機関投資家は平時型には反対するけど、有事型なら買収条件次第では賛成するから」と言うでしょう。だったら、もとの質問に戻ります。「全株買収だったら有事型の発動には反対されるんでしょ?」と。

そしてアドバイザーが「平時型買収防衛策を可決することはできる」と言ったら、

「平時型を可決させることができるのに、どうして有事になるまで放っておくのですか?」

たぶんアドバイザーは「機関投資家に反対される」「賛成率が低くなる」といった訳の分からんことを言うと思いますが、では

「それは有事型であっても同じでしょ?どうして平時に買収防衛策を可決できる株主構成なのに、わざわざ有事になるリスクを放っておくの?」

これに対してアドバイザーは

「有事になるかどうかもわからないのに、あえて評判の悪い平時型を入れておく必要はないでしょう」

と言うでしょう。でしたら

「あなた、危機管理の基本、わかってます?発生確率は低いけど、いざ起きると会社の根底が覆されるような事態になるリスクがある。それに備えるのが危機管理の基本でしょ?有事になるリスクが低いから平時型を入れなくていいなんていうのは暴論だ」

と返しましょう。

そもそも平時型買収防衛策を株主総会で可決できないような株主構成の会社は、有事型の発動議案を可決させられるわけがない。もうアクティビストは気づいていますよ。「有事型って、全株買収で仕掛けたらISSやグラスルイスは発動議案に反対推奨するよね?」と。富士興産は有事型買収防衛策を可決できたけど、ISSなどは発動議案に反対推奨しました。富士興産って、平時型買収防衛策を株主総会にかけたら可決できる会社だと思いますよ。そもそも平時型を導入しておけば、敵対的TOBを仕掛けられることもなかったかもしれません。そして東洋建設は議案を撤回しました。実質否決されたということです。

有事型買収防衛策の賞味期限は終わったと私は考えています。

平時型買収防衛策を導入できる株主構成の会社はいますぐ平時型を導入しておくべきです。「有事に発動できる株主構成なのですから、なにも平時型を入れておく必要はないでしょう?」などというアドバイザーを信用すべきではないのです。会社にとって大切なことは有事になったら勝つことではなく、有事にしないことなのですから。

では、平時型を導入できない株主構成の会社はどうすればいいのか?こういう会社は、濫用的な買収者が「濫用的」な条件(50.1%しか買わない、価格が不当に安いなど)で敵対的TOBを仕掛けてきたら有事型で対抗できる可能性はあるものの、「形式的」にはまっとうな条件だけど、実際には誰が見ても濫用的な買収者が株価つり上げだけを目的にしたような買収提案の場合であっても、おそらく有事型の発動に機関投資家やISSは賛成してくれません。対抗できません。こういう会社はどうすればよいのでしょうか?

まったく新しい買収防衛策を考えればいいだけです。もしくは平時型買収防衛策の株主総会へのかけ方を工夫すればよいだけです。もちろん完璧な方法はありませんが、素直に平時型を株主総会にかけるよりは、反対票が減るのではないかと思っています。興味のある方は個別にご相談ください。

 

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