2022年07月26日

No.1357 経営者の「保身」嗅ぎ取る株主 買収防衛策に反発

以下、2022年7月15日の日経に掲載されていた記事です。買収防衛策に対して経営者の保身を株主が嗅ぎ取っているそうです。最初に言っておきますが、平時型買収防衛策は経営者の保身の策ではありません。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC131320T10C22A7000000/

キッコーマンは賛成率55.3%、住友不動産が55.9%、京王電鉄では57%――。22年の総会で買収防衛策の継続や導入を諮る議案は薄氷の可決が相次いだ。キッコーマンは前回更新した19年の総会で72.1%あった賛成率が大きく下落。株主の目線は厳しさを増している。

任天堂創業家のファンドから買収提案を受けている東洋建設は株主総会の前日に議案を取り下げた。大規模買い付けを行う者に対して情報開示や評価期間を求めるもので、投資家から実質的な買収防衛策ではないかとの批判がでていた。事前取り下げは「大手の機関投資家が反対に動いたのが決め手」(証券関係者)との声がある。

東芝機械が旧村上ファンドに対して発動した有事型買収防衛策に対しては賛成する投資家もいました。ISSも賛成推奨をしました。SBIに敵対的TOBを仕掛けられた新生銀行も有事型買収防衛策で対抗しようとしたところ、ISSは発動議案に賛成推奨をしました。いずれも全株買収ではなく部分的買収であることが影響したと思われます。

しかし、一般的に国内外の機関投資家は平時型買収防衛策に対して反対します。有事型買収防衛策の仕組みは平時型とほぼ同じですよね?基本的には平時型買収防衛策の仕組みを骨格とし、その導入のタイミングが買収者から買収提案のあった有事であるものが有事型買収防衛策です。

投資家にとっての予見可能性の観点、事前開示の観点からは当然、平時型買収防衛策のほうがよいはずなのです。だって突然有事になったからと言って買収防衛策を導入されるよりも、平時からその仕組みを開示し、株主の意見を確認している平時型のほうがよいに決まっているでしょ?ではどうして機関投資家は有事型には買収条件次第では賛成するのに、平時型には反対するのでしょうか?

これ、きっかけは東芝機械です。たぶんですが、機関投資家、特に国内の機関投資家はISSや海外の機関投資家が有事型買収防衛策の導入・発動に賛成するなんて思っていなかったのでは?違いますか?ISSが賛成推奨をしたことに対して、非常に驚いたのではないでしょうか?そして以下の記事をご覧ください。

https://ib-consulting.jp/newspaper/2104/

以下は東洋経済です。

https://toyokeizai.net/articles/-/339022

村上グループを除くと筆頭株主となるブラックロックグループ(約5%を保有)も、対抗策や2月4日に発表した中期経営計画を評価し、われわれに賛成の意向を表明した。スチュワードシップ・コードを持つ機関投資家は賛成を出すのが難しい環境にあるので、先陣をきってブラックロックやISSが賛同を表明してくれたことは非常に大きい。今のところ順調に賛成票が積み上がっていると思う。

さきほど国内の機関投資家は平時型買収防衛策に反対すると言いましたが、海外の機関投資家であるブラックロックは違います。以下のとおり、ブラックロックは2021年4月から6月に開催された株主総会で買収防衛策議案に3社賛成しています(反対は47社)。賛成した会社は、東武鉄道、乾汽船、ヨロズです。乾汽船は当時のアルファレオ対策でしょう。しかし、ヨロズには旧村上ファンドがいますが、まあ平時は平時ですし、東武鉄道は平時です。

https://www.blackrock.com/jp/individual/ja/literature/publication/blkj-board-voting-results-202106-publication-jp-ja.pdf

ブラックロックは平時型買収防衛策には何が何でも反対というわけではないのです。きちんと会社の主張を聞き、プレスを読み、過剰防衛になっていないかどうか、恣意的な運用ができない仕組みかどうかをチェックしています。平時型はほぼほぼ反対、有事型は買収条件次第、というふうに判断しているわけではないのです。

ここがブラックロックと国内機関投資家の違いです。そりゃ、国内の機関投資家だって一律に平時型には反対というわけではないかもしれませんが、現実的にはほぼ反対しているでしょ?でもアスリードに敵対的TOBを仕掛けられた富士興産による有事型の発動議案には賛成している国内機関投資家もいたのでは?これ、何度も言いますが、おかしいですよ。ブラックロックの行動は正しいです。平時型だって賛成することもあるし、有事がだって賛成することもある。でも国内機関投資家は有事型には賛成したのに、平時型にはほぼ反対なんです。同じ仕組みで、導入のタイミングが違うだけなのに。

どうしてこういうことが起きるかと言えば、東芝機械が誤算だったんですよ。まさかISSやブラックロックが賛成するとは思わなかった、だから富士興産では賛成する国内機関投資家も出てきた。でもそれが自分たちの平時型への反対スタンスと矛盾することに当時は気づいていなかった。ただ最近「あれ?有事型に賛成しておきながら、平時型には反対するっておかしくない?」って気づき始めたと思いますよ。でもこれだけ平時型に対して批判的で、かつ現実として反対票を投じてきた経緯から、もうスタンスを変えられなくなっているんじゃないかと私は推測します。

ですから冒頭の日経記事にあるように、株主は買収防衛策に経営者の保身を嗅ぎ取っているから反対しているのではなく、単に自分たちのスタンスを変えられないから反対しているに過ぎないと私は考えています。そもそも買収防衛策に保身のにおいを嗅ぎ取っているのなら、有事型にも反対すべきでは?買収提案の実現をまさに阻害する有事型こそが買収防衛策なんですから。明日、実際の機関投資家の投票行動をもとにもう一度解説します。

ちなみにブラックロックは東芝機械の有事型買収防衛策の発動議案には賛成しましたが、富士興産の有事型買収防衛策の発動議案には反対しました(笑)

https://www.blackrock.com/jp/individual/ja/literature/publication/blkj-board-voting-results-202106-publication-jp-ja.pdf

富士興産、で検索すると見つかります。

 

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