2022年07月27日

No.1358 買収防衛策に対する投票行動~野村大和日興アセットのケース~

比較すると興味深いです。野村アセット、大和アセット、日興アセットは平時型買収防衛策には原則反対です。ブラックロックは以下のとおりです。P12~です。

https://www.blackrock.com/jp/individual/ja/literature/publication/blkj-proxy-voting-guideline-jp-ja.pdf

ここに列挙した国内機関投資家は平時型買収防衛策には原則として反対です。一方ブラックロックは原則反対ではなく、基準を満たせば賛成することもあります。しかも、例えば「取締役会の過半が独立した社外取締役でないとダメ」といった日本企業にとってハードルの高い基準は設定されていません。ブラックロックはきちんと説明したら平時型に賛成してくれる余地のある投資家です。

そして有事型の発動議案を見ると、

東芝機械:ブラックロック賛成、国内3社すべて反対

富士興産:野村アセットと大和アセット賛成、ブラックロックと日興アセット反対

東京機械製作所:ブラックロックと大和アセット賛成、野村アセット反対

という状況です。東芝機械に対する旧村上ファンドの買収条件は部分的買収で、富士興産に対するアスリードの買収提案は全株買収でした。おそらくブラックロックはそこを重視したのではないでしょうか?だから東芝機械の有事型発動には賛成し、富士興産には反対した、と。

野村アセットは富士興産の有事型発動に関しては賛成しているのですが、賛成理由が私には「???」です。おそらくアスリードの変更報告書の不提出・虚偽記載の可能性に関して富士興産が主張していたのですが、それを問題視したということが発動議案に賛成した理由のようです。うーん、これを理由に発動議案に賛成しますか?以下が富士興産の主張です。P24~25あたりに書いてあります。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/5009/announcement2/69341/00.pdf

まあ、問題は問題でしょうし、重視するのもわからんではないものの、実際に問題なのかどうかはわからんわけですし(こういう問題があったから大量保有報告書の制度が見直されるきっかけになったのかもしれませんが)、これをもって対抗措置の発動に賛成するというのがどうにもしっくりきません。そういう問題は監視委員会なりがちゃんと調査して必要に応じて罰を与えればよいのであって、株主が発動という罰を与えるべきなんでしょうか?株主は「そういう問題は監視委員会にまかせるとして、株主としては今回提示されている買収条件を精査します」というのがあるべきスタンスのように私は思うのですがね。また、野村アセットは東京機械製作所の発動議案にも反対していますが、あんな1週間かそこらで30数%も急激に強圧的に買い増してきた提案への発動には反対するの?

大和アセットは東芝機械の発動議案には反対したものの、富士興産と東京機械製作所の発動議案には賛成しています。なんで?東芝機械に対する部分的買収への発動には反対するけど、富士興産に対する全株買収への発動には賛成するの?意味がわからん・・・。

日興アセットはすべて反対していますね。これはこれで「買収防衛策と名の付くものには全部反対なんじゃい!」という潔いスタンスに見える一方、「ちゃんと買収提案を精査しているんかいな?」「市場株価にプレミアムがついてればなんでもOKなんかい!」と言いたくなりますね。

興味深いのは、ブラックロックと国内機関投資家はわりと真逆の判断をするということですね(笑) 

いいですか、皆さん!どうして平時型には反対するのに、有事型だと賛成する場合があるのか?おかしいと思いませんか?東芝機械が平時型を継続していたら、これらの国内機関投資家3社は反対していたでしょう。でもこれらの機関投資家は東芝機械の有事型の発動議案には反対しましたから、この時点では筋が通っています。

しかしアスリードの全株買収提案に対して有事型を発動した富士興産に対しては、国内機関投資家2社は賛成しているのです。仮に富士興産が平時型買収防衛策を導入していた場合、これら国内機関投資家2社は当然議案に反対していたでしょう。でもアスリードが平時型を備えている富士興産に対して買収を仕掛け、富士興産が買収防衛策の発動議案をかけた場合、国内機関投資家は賛成するということですよ。平時型の導入議案に反対しておきながら、いざ発動するとなると賛成するのです。だって賛成するでしょ?野村アセットは「大規模買付行為の過程で買付者から株式の大量保有目的について適正な情報開示が行われなかった可能性があると判断」という理由で発動に賛成していますし、大和アセットは「株主価値の向上に資すると判断」という理由で賛成しています。有事型だから賛成するということは言っていません。逆に「平時型による発動だから賛成できない」なんて理由は言えないでしょ?だって「適正な情報開示が行われなかった」「株主価値の向上に資する」という理由で発動に賛成したのですから。

これこそが私が常に「おかしいでしょ?」と言っていることです。そろそろ国内機関投資家の皆さんは平時型の導入・継続議案に原則反対というスタンスを変えるべきです。有事型の発動議案に賛成しておきながら、平時型の導入・継続議案に原則反対しなくてはならない理由をぜひ私にわかりやすく教えていただきたい!

このシリーズはまだ続けます。ほかの国内機関投資家の投票行動も調べてみましょう。

 

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