2023年01月31日

No.1471 丸木さんのストラテジックキャピタルの買収防衛策に対する主張について

以下、村上ファンドの創業メンバーの一人で、ストラテジックキャピタルの代表である丸木氏が、早稲田大学ビジネススクールの講義で使用した資料です。

https://stracap.app.box.com/s/tfd1wljn91awijhe4rne48wq9bc1fptd

以下のストラテジックキャピタルのHPに掲載されています。

https://stracap.jp/

資料のタイトルが「コーポレート・ガバナンス~買収防衛策を中心に~」とありますので、これはぜひ拝見せねば!と思い見ていたところ、ちょっと気になることがありましたのでまとめます。

まずP5の「弊社による用語の定義」ですが、皆さんこれを読んだら「もちろん鈴木君は「会社は株主だけのものじゃない」って言うんだろうな」と考えるかもしれませんが、今回は言いません。株式会社の目的は株主利益の最大化であり、丸木さんのおっしゃるとおりです。もちろん、株主利益の最大化のために従業員や取引先の利益を犠牲にする必要はないし、そんなことをやったら株主利益を最大化できません。それは丸木さんは分かった上でのことでしょうし、私が株主だけのものじゃない!と言っても「そんなことはわかってる」と言われるので、言いません。おっしゃりたいのは「株主以外のステークホルダーの利益ばかり言って、本来最重視しなくてはならない株主がほったらかしだろ?」ということかと。

P16「機関投資家からの批判もあり、買収防衛策を導入する企業は減少傾向にある」とあります。批判されたから買収防衛策をやめているのではなく、昔は国内の機関投資家が賛成してくれていたものの、2015年あたりから反対するようになり、株主総会で否決される可能性が高まったことから、安定株主比率の低い時価総額の大きな会社がやめるようになった、ということですね。時価総額の小さい会社もやめてはいますが、世の中の流れを誤解しています。時価総額の小さい会社は継続したほうがよいです。

P17「時価総額が小さく、かつ株価が低迷する企業は買収防衛策の導入割合が優位に高い」「中小型株で変化が起きない原因の一つとして買収防衛策の存在がある?」 まあ、時価総額が小さい会社はまだ安定株主比率も高いですから導入しやすいですよね。「?」と書いていらっしゃいますけど、中小型株で変化が起きないのは買収防衛策のせいだとは言い切れませんよね。たぶんそんなことはないと思います。時価総額が小さい会社が買収防衛策を導入しているのは、村上さんや丸木さんのようなアクティビスト対策ではないんですよ。「アクティビストはいずれ売るのだから正直それほど気にしていない。同業もそう。同業がまともな提案を出してきたら断れないだろう。最も怖いのは「この人たちは何者なのか?」というよくわからない買収者が登場したとき。素性がよくわからないし、怖い」という相手を想定して買収防衛策を導入しています。もちろん私の経験上の話をしているだけなので、アクティビストを意識して導入している会社もいるとは思います。

P20「買収防衛策に関する機関投資家の議決権行使」ですが、反対する機関投資家が多いものの、ブラックロックなどはちゃんと中身を見て決めているようです。ということはブラックロックは日本企業の買収防衛策を一律買収防衛策とは見なしておらず、ルールの内容次第と見ているのでしょう。国内の機関投資家でも、原則反対というスタンスの投資家もいれば、「取締役会メンバーの過半数が社外取締役」である場合は内容をちゃんと見るというスタンスの投資家もいます。機関投資家は要件を満たせば賛成する余地があるということを考えると、日本企業の買収防衛策を買収防衛策とは見なしていないということでしょう。逆に「買収防衛策などけしからん!」と一方的に言う人の方が中身をちゃんと確認していないのではないか、と見ることもできます。

P21で東京高裁の4類型をあげています。これ、昔から議論になっていたことですね。本当に(ⅰ)~(ⅳ)に該当するような買収者って濫用的なの?ってことです。株主の立場にだけ立てば必ずしも濫用的ではない場面もあります。ただ、他のステークホルダーの立場に立った場合は濫用的と捉えられるかもしれません。しかし、(ⅰ)のグリーンメーラーのような行動に関しては「違法行為?」ではないかもしれませんが、私はあまり好ましい行為とは思いません。ストラテジックキャピタルさんはグリーンメーラーのようなことをやらない投資家だと思っていましたし、現に自己株TOBを会社に実行させて応募して売り抜けるといったことをやったことがないという理解です。今後はやる可能性があるのでしょうか?ストラテジックキャピタルはそういう投資家ではなく、株主や日本の上場会社の未来を考えてアクティビズムをやっている投資家だと思っていましたので、あまりやってほしくないですね。

P25、東洋電機製造は発動事例ではありません。発動手続きにすら入っていません。質問と回答のやり取りをした後、取締役会評価期間に入ると公表したら日本電産がTOB提案を撤回しました。また、一時的であれ株価がTOB価格を上回っていますから、株主はTOB価格よりも高い値段で売却する機会がありました。そもそも日本電産がTOBを断念したのはリーマンショックの影響と考えるのが妥当では???

P26~の日邦産業さんですが、フリージア・マクロスがルール違反をしたから発動したんですよね?しかも保有割合を20%からたったの28%にするというTOBですよね?これ、さすがに強圧的では?(私はあまり敵対的TOBに対して強圧的という言葉を使いたくないのですが、さすがに強圧的です) たしか役員派遣もすると言っていたような記憶が。たったの28%を握って実質支配しようとしている狙いがスケスケですよね・・・。P27、ちょっと違和感があります。左の円グラフで事業法人株主の比率が22.8%になっているのですが、これどうやって計算してますかね?そもそも日邦産業さんって、特定投資株式を見てもほとんど持ち合いをしていないようです。あと持株会も12.8%になってますけど?上位には出ていませんが、野村信託の持株会専用信託口を入れても12.8%までいきます?

P31とP34ですが、有事型買収防衛策に対してはケースバイケースで賛成する機関投資家もいます。また既述のとおり、平時型買収防衛策にも賛成する機関投資家がいます。P31で「持合い株主のみならず、機関投資家の姿勢も一般株主が買収に応じ高値で売却できる機会を奪う要因?」、P34で「問題は、可決により株価が下落する買収防衛策に、多くの株主が賛成してしまうこと」と書いてあります。機関投資家は一般株主ではないのでしょうか?多くの機関投資家、株主が「この買収提案には応じたくない。株価が下がるかもしれないが、買収防衛策の発動には賛成」と考えて賛成票を投じているのでは?さすがに機関投資家は買収防衛策を発動したら株価が下がることくらいわかってるでしょ?それでも買収を阻止したほうが会社にとってプラスと考えているということでは?

P32買収防衛策の廃止について「しかし、その多くは有事導入型を念頭に置いた買収防衛策の廃止である」 別によいのでは?よからぬ買収者がとんでもない買収提案をしてきたら、有事型で対抗しすべてのステークホルダーの利益を守らなくてはならないと思いますよ。なお、私は有事型ではなく平時型の支持者です。

P34「三ツ星ベルト」と記載していますが、このケースは「三ツ星ベルト」ではなく「三ッ星」です。会社が違います。

最後にP35。「株価が割安で放置されているから、買収者が登場する」 ある意味正しいのですが、正確には「株価が割安で放置されているから、アクティビストが登場する」ではないでしょうか?ストラテジック・バイヤーは株価に関わらず登場します(もちろん登場するタイミングは株価に左右されるでしょうけど)。「真の買収防衛策は株価を高めること。すなわち、買収者または他の経営者が経営しても、これ以上高められない株価にしておくこと」 不可能です。もちろん実行している経営者はいるかもしれませんが、全員にそうしろと言ってもムリです。東芝もけっこう高い株価になったけど、それでも「非公開化しろー!」って言われてますよね?そもそも「これ以上高められない株価」っていくらなんですかね?機関投資家ごとに目標株価って違いますよね?これ以上高められない株価って「神のみぞ知る」では?これ以上高められない株価に上げておけばいいんだ!って経営者が言われても、答えようがないし、やりようがないです。言うは易しですね。

もちろん丸木さんは日本企業の買収防衛策の仕組みをわかった上で批判しています(と思います)。ようは「時間と情報を提供してくれというルールではあるが、結局、時間をかせいで買収提案がなかったことにしたいのだろう。買収防衛策を使ってゴネまくることが目的なんだろ?」と考えているのでは?であれば、そういうルールの運用ができないガバナンス体制にしましょう。そういう風に運用できない仕組みになっているんですと主張できるようなガバナンス体制にしてしまえば、ちゃんと納得してくれる機関投資家もいるのですから。上場会社の方もちょっと折れたほうがよいと思います。

 

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