2023年02月14日

No.1477 アクティビスト対応を考える

アクティビストの動きが活発化していますが、私は今からちゃんと対策を取っておいた方がよいと考えます。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2578V0V20C23A1000000/?n_cid=NMAIL006_20230212_A

事業売却や株主還元を企業に求め、株価を高めて利益を得ようとするアクティビスト(物言う株主)の動きが世界で再び活発になっている。2022年の提案件数は4年ぶりに増え過去最多に迫った。業績悪化で株価が低迷するテックなどに人員削減や事業売却を求める。金融引き締めで企業は拡大路線の修正を迫られており、23年も物言う株主の攻勢が続く。

この記事を読むまでもなく、皆さん肌感覚でも「最近アクティビストの行動が激しくなっているな」と感じるのではないでしょうか?例えばオアシスによるフジテック社外取締役の解任と新たな社外取締役の選任。ストラテジックキャピタルによる日証金への天下り問題に関する株主提案。アクティビストによるT&KTOKAに対する敵対的TOB。今まだ2月ですからね。今年の6月株主総会ではもっと増えることは間違いないでしょう。

なぜアクティビストの動きが活発化しているかと言えば、日本企業の株価が安すぎるからです。以下。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD293JW0Z20C23A1000000/

変化のトリガーを引いたのは東京証券取引所だ。昨年4月、プライム、スタンダード、グロースへ市場を再編。その後、有識者による「フォローアップ会議」で、市場再編の今後の進め方に関する議論を急ピッチで進めている。

論点は大きく2つある。

1つ目は、プライムで100億円以上とする流通株式時価総額などの基準の未達企業に認めた「経過措置」の明確化だ。3年で打ち切り、その後1年で改善できなければ上場廃止にすることを決めた。

2つ目は、資本効率の引き上げだ。プライムの半数のPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る資本効率の低さを問題視。この状況をいかに改善するかを議論している。

低PBRの撲滅に東証自身が乗り出すとなれば、企業はいやが応でも浮足立つ。

そもそもPBRが1倍を下回るのは、資本コスト(市場が求める最低リターン)を上回る自己資本利益率(ROE)を上げていないからだ。

これらの企業は株主から預かった資本を毀損しており、事業を続けるより資産を処分して解散した方がいいことになる。PBR1倍割れは、市場から「上場失格」とみなされていることを意味する。

PBR1倍割れのプライム企業は時価総額1000億円以上で292社、1兆円以上で47社(先週末時点)ある。「ゆうゆうと基準を超える大企業にも資本効率を高める意識を持ってほしい」。日本取引所グループの清田瞭・最高経営責任者(CEO)はいう。

30日に公表した対応策は、上場企業に「自社の資本コストや資本収益性を的確に把握し、改善に向けた方針や取り組み、進捗状況を開示することを要請」し、PBRが継続的に1倍を割る企業には「強く要請」するとしている。

PBR1倍割れ企業には「自社の資本コストや資本収益性を的確に把握し、改善に向けた方針や取り組み、進捗状況を開示すること」を強く要請するそうです。

私、常日頃から「アクティビスト対策はちゃんと平時からやっておくべき」と申し上げていますが、多くの会社が「じゃあアクティビストがコンタクトを取ってきたときのマニュアルを整備しておこう」と行動します。それ自体は悪くありませんし、ちゃんと整備しておいた方がよいと思います。また、もっと実戦的に「電話がかかってきたら誰がどう対応するか?」「HPのお問い合わせから来たときは?」「最初の面談は誰が対応するか?」「想定Q&Aを準備しよう」とかとか。これも大切です。

でもですね、もっと大切なことがあります。平時のうちにどういう対応をしておかないといけないかというと、当たり前ですが「株価を上げること」ですね。本当に当たり前なのですが、これができていない会社がほとんどなのです。「好きでPBR1倍割れ状態を放置しているわけではない。がんばっても株価が上がらんのだよ」 よくわかります。どうしてPBR1倍割れなのか、どうしてあそこの会社は1倍以上あるのにうちの株価は安いのか、目立つ業界じゃないと株価は上がらん、うちの業界じゃムリ・・・いろいろとご意見はあるでしょうが、だからと言って株価が安い状態のままにしておくと、必ずアクティビストに狙われます。以下の記事をご覧ください。

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00121/00206/

三井住友信託銀行の調査によると、上場企業でデータが取れる1839社のうち21%(382社) でアクティビストによる株式取得が確認されている(2022年7〜8月時点)。さらに4%(79社)の企業でも株式を握られている可能性が高いという。実に4分の1の上場企業にアクティビストが潜航中なのだ。

さらに見てみよう。これら1839社をPBR(Price Book-value Ratio=株価純資産倍率)の高低で見ると、PBRが低い企業ほどアクティビストが浸透している。PBRが2倍以上のセグメントでは17%程度の浸透度だが、PBRが1〜1.3倍のセグメントでは28%に跳ね上がり、1倍を割っているセグメントでは30%にも達する。

上場企業の約6割でPBRが1.3倍を切っている事実と照らし合わせると、多くの経営者にとってアクティビストは「今そこにある危機」だ。加えて22年は円安が急速に進行した。海外から見れば日本企業はもはやバーゲンセール状態で、アクティビストがこれに目をつけないわけがない。世間を騒がせている事例は氷山の一角にすぎず、今後さらに表面化する可能性が高いということだ。

どこの会社もターゲットになります。今貴社がターゲットになっていないのは、ちょっと言い過ぎかもしれませんが「順番」です。いずれ必ずターゲットになります。だって旧村上ファンドのターゲットになった会社を見てください。最終的には大規模自己株TOBをやらされて、旧村上ファンドが大金を手にして出ていきます。そしてそのお金で新たな投資先に狙いを付けます。その繰り返しですよ。いずれ貴社がターゲットになるんです。

大切なことは「アクティビストが来たらどうするか?」ではなく、「アクティビストが来ないようにするにはどうするか?」です。私がいつも申し上げているとおり、有事になったらどう対応するかではなく、有事にしないことが大切なのです。だから、PBR1倍を割れている会社は、即刻、大規模な株主還元について検討をはじめ、早く1倍割れの状態を解消すべく自己株取得や増配を実施する必要があります。もちろん大規模株主還元だけではなく、抜本的な業界再編につながるようなM&Aだって考える必要はあります。

でも皆さんは「うーん、アクティビストが来ないかもしれないし、今大規模株主還元なんかやったらなんか損だよね」と思っていませんか?そういう気持ちを見透かすのがアクティビストですし、そういう気持ちが株価に反映されているとも言えるのです。そもそも大規模な株主還元を行うことは、会社にとって損なことではありません。株主還元を公表し、株価の状況を改善させれば、重要なステークホルダーである株主はハッピーなのです。株価が改善されることによって、皆さんもアクティビストに狙われにくくなるということでハッピーなのです。

「アクティビストが来てから株主還元を公表するのだとダメ?」 ダメとは言いませんが、なるべく早めに公表したほうがよいと思いますね。旧村上ファンドに株式を大量に買われて、最終的に自己株TOBで買い取った会社って、マーケットから評価されています?「おお、大規模な株主還元を実施してくれた!この会社は株主に向き合うよい会社だ!」って評価されていますか?されていませんよね?以下、ジャフコです。

旧村上ファンドが大量保有報告書を提出したのが2022/8/9です。その前は1,800円くらいだったので上がってはいますが、420億円も自己株TOBを実施したのに、最近の株価はなんかちょっとねえ・・・。2月13日の終値は2,134円、PBR0.80倍です。

そして以下、セントラル硝子です。

1株あたり3,500円、総額約500億円の自己株TOBをやったのに・・・ねえ・・・。2月13日の終値2,848円、PBR0.83倍ですよ。

マーケットは「旧村上ファンドを追い出すための自己株TOBであり、株主還元なんかではない」と見なしたのでは?そして大切なことは従業員の思いですね。従業員は「旧村上ファンドを追い出すために何百億円も使った。俺たちの給料は上げてくれないくせに」と見なすでしょう。

やるんだったら、平時のうちに抜本的な株主還元を実施し、マーケットやステークホルダーから評価された方がよいでしょう?今こそ株主還元を再考すべきだと思いますね。アクティビストが来てからでは遅いですし、来たとしてもなるべく早めに交渉して出て行ってもらうよう大規模株主還元をやったほうがよいように思います。アクティビスト対応に長いこと付き合わされるのも、時間のムダです。社長やCFOがそれに付き合うのって、もったいないですから。

 

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