2023年03月24日

No.1502 東芝は理念のない非公開化を選択した

以下のとおり、東芝に対する日本産業パートナーズ(JIP)のTOBが公表されました。最初に言い訳を申し上げておくと、プレスが長いのでざっと読んでざっと作りました。間違いや勘違いなどがあるかもしれませんので、詳細については東芝が公表しているプレスをご覧ください。すみません。

まず結論を申し上げます。以下有料コラムでしたが、この機会に無料公開します。東芝はこの難局を乗り切るための船頭の選択を間違えた、というのが私の考えです。

No.1213 東芝出身者ではムリだったということ。交渉できるわけがないんですよ

https://ib-consulting.jp/column/3953/

では今回のTOBについてです。

https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/jp/ir/corporate/news/20230323_1.pdf

TOB条件等については以下のとおりです。

TOB価格:4,620円(昨日の終値4,213円)

買付予定数の上限:なし(100%買収)

買付予定数の下限:288,564,300株(所有割合にして66.7%)

TOB期間:2023年7月下旬を目途に開始 ※競争法令等及び投資規制法令等上の手続に一定の期間を要すため

FA:野村證券、後にみずほ証券・JPモルガンも

LA:西村あさひ(東芝の賛同表明プレスに記載がありました)

JIP側はFA:クロスポイント、LA:TMI、特別委員会はFA:UBS、LA:長島大野、モリソンフォスター

TOB価格ですが、公表資料によると以下の変遷です。

2022年9月30日 希望価格の範囲を1株当たり5,200円から5,500円とする旨の第二次入札プロセスの提案書を提出

2022年11月7日 追加DDの結果を踏まえて1株当たり5,200円に改訂した提案書を提出

2023年2月8日 東芝の業績予想が11月11日に大幅下方修正されたこと、半導体・HDD関連事業の事業環境悪化、キオクシアHDの株式価値算定額が下振れなど、また金融機関がローンを減額したことなどを踏まえ、1株当たり4,710円に改訂した提案書を提出

2023年3月3日 東芝の業績予想が2月14日に下方修正されたこと、有利子負債の見通しが大幅増加修正されたことなどを踏まえ、1株当たり4,610円とする、法的拘束力を有する最終提案書を提出

2023年3月下旬 東芝と協議・交渉を行った結果、TOB価格を4,620円に決定

P7~8にTOB後の経営方針についての記載がありますが、TOB後の経営体制などは決まっていないとのこと。ただ「対象者グループの各事業が掲げる経営の方向性について大きな軌道修正の必要はなく」と書いてあるので、現在の社内役員は残るのかもしれません。

なお、2022年6月27日に日経ビジネスが以下のような報道をしていました。

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00112/062400086/

多くの場合、既存株主はTOBを実施するファンドに株式を売却する。これによって、東芝との関係は消える。ロールオーバーとは、東芝が非公開化した後に既存株主が再び出資し、上場廃止後も株主になることを指す。

合意書によると、取締役会や、東芝を買収するファンド選びなどを進める特別委員会が推奨すれば、アクティビストは買収を計画するファンドとロールオーバーについて協議できる。関係者は「ファラロンとエリオットは東芝の買収に参加するつもりだろう」とみる。

今回のプレスリリースを見る限り、ロールオーバーに関する記載などはないようですが、ファラロンやエリオットはTOBに応募するのでしょうか?P4に以下のとおりありますが、「諸LP投資家」として参加するのかな??だとしたらアクティビスト、残るじゃん、ということにならないのかね?

そして以下が東芝による賛同表明のプレスです。

https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/jp/ir/corporate/news/20230323_2.pdf

まずP10

上記の経営方針を実現していくためには、中長期かつ一貫した戦略の実行を可能とする経営環境が不可欠となりますが、現在の当社は、不安定かつ変化の激しいマクロ経済環境といった外部環境に加え、多様な株主を中心とするステークホルダーとの複雑な関係性という点からも、安定した事業運営にとって難しい状況が続いているものと認識しております。異なる考えを持つ主要株主が複数存在している現在の状況において、度重なる経営陣の交代や大きな経営方針の変更が行われるなど、当社の経営を巡る一連の混乱は社会的にも広く認知されており、お客様や従業員等からの当社の経営の安定性に対する懸念や、社会的信用に対する不安にも影響が及びかねない状況となっています。

うん、そういった経営の安定性に対する懸念や社会的信用に対する不安を払しょくするのが経営陣の役割であり、払しょくするための適切な情報発信をすべきであったのであり、払しょくするために非公開化するってのは理屈がおかしくないですか?上場している以上、いろんな投資家が投資をします。多様な株主が存在するのは当たり前であり、株主提案をされたり、臨時株主総会開催を請求されたり、敵対的TOBをされたりするのは上場会社にとって当たり前の話です。

東芝経営陣が打ち出す経営戦略に納得しない株主がいるのは当たり前です。アクティビストが声高に自身の主張を展開しても、練りに練った経営戦略を公表し、納得してくれる株主を増やせばよい話であって、「アクティビストによって経営が混乱しているから」などの理由で非公開化したら、東芝は二度と上場できませんよ?この非公開化には理念がない(そもそもMBOなどの非公開化に理念なんてないのでしょうけど)。

P36

不正会計問題から数えると8年にも及ぶ混乱は、当社の従業員にとって大きな苦痛であり、更には十分な数の新入社員の採用という意味においては、具体的に数値として課題が見えて来ている。毎日の様に、経営の混乱と言われるようなニュースがメディアで喧伝 される状態を早く解消し、本来の仕事に集中できる状態を作る事が必要である。しかしながら、過去の株主総会が示す様に、現在当社の株式資本は、多くの違った意見を持つ株主で構成されており、当社の本来の企業価値を発揮するには安定的な株主が望ましい。安定的な株主基盤を実現するための手段として、現在株主への還元と、将来企業価値創造のバランスを考えるに、本取引の提案は、有効な手段だと判断する。

多くの異なる意見を持つ株主で構成されているのは、どの上場会社も同じですよ。何を言っているんだ?

ここまで書いて非常に疲れたので、このくらいにしておきます。アクティビストに攻められたからといってそのたびに非公開化なんてしてられませんよ。アクティビストの主張がおかしいと思うなら、ちゃんと言い返すべきなんですよ。そして応援してくれる株主を増やすんですよ。こんな理念のない非公開化なんてしていたら、東芝に未来などないのでは?それこそ、最終的に社員が不幸なことになってしまうように思います。

冒頭で書いた通り、東芝はこの難局を乗り越えるための船頭の選択を間違えたのです。東芝の事業をきちんと理解し、かつ東芝の不正問題とは関係のない人を社外から連れてくるべきだったと私は考えます。

なお、最後に。3Dの動きが静かですね。ちょっと気になっています。3Dはこの価格で満足するのでしょうか?以下の記事。まあ2022年1月6日の記事ですから状況は変わっているかもしれません。

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00112/010600052/?P=3

QUICK・ファクトセットによると、3Dの保有株式に占める東芝株は8割超となっている。3Dは21年にも東芝株を大量取得しており、「ほかの大株主より取得価格が高い」(関係者)とされる。高値の売却が期待できる非上場化を求める動機が、アクティビストの中でも強い可能性がある。交渉は険しい道となりそうだ。

 

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