2023年05月14日

No.1532 NTTが1株を25株に分割

なぜNTTは1株を25株になどという株式分割をするのでしょうか?投資家層の拡大?何のために?これ、たぶん株主数は爆発的に増えると思いますよ。69万人の株主数が100万人くらい増えて169万人になりますかね?でも仮に100万人増えたとしましょう。では1人が100株=16,400円分買ったとして、それが時価総額に占める割合は?16,400円×100万人=164億円です。NTTの時価総額は14,879,228百万円です。164億円÷14兆8,792億円=0.11%です。何のためにやるの?この方々がNTTの株を買っても、NTTの株価には何の影響も与えないと言っても過言ではありません。

これ、NTTクラスの会社だったらわかってますよね?ではなんでNTTがこんなことをするのでしょうか?私、よーく妄想してみたのですが、NTTの狙いは投資家層の拡大もあるのかもしれませんが、法人顧客層の拡大もあるのではないかと思うにいたりました。では詳しく説明します。

以下NTTの開示資料です。

https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/05/12/230512b.html

2024年から新しいNISA制度が導入されることも踏まえ、株式分割を行い、投資単位当たりの金額を引き下げることにより、より投資しやすい環境を整え、当社グループの持続的な成長に共感していただける投資家層を幅広い世代において拡大することを目的としております。
なお、今回の株式分割を行うことにより、東京証券取引所が明示している望ましい投資単位の水準(5万円以上50万円未満)を外れることになりますが、単元未満株主が増加している現状などを踏まえ、投資環境を整えることで、議決権を有する株主として当社株式を保有していただきたいと考えております。今後の投資単位の水準については、新しいNISA制度導入後の株式市場の動向や株主構成の変化等を総合的に勘案しながら、引き続き検討してまいります。

NTTの持続的な成長に共感してくれる投資家層を幅広い世代に拡大することが目的だそうですが、それにしてもここまでの分割をやりますかね?5月12日のNTTの終値は4,108円なので、25で割ると理論的には1株164円になります。ということは100株が最低投資単位なので、NTT株を16,400円で買えることになります。ただ、上記のとおり100万人が買っても164億円の効果しかなく、NTTの時価総額に占める割合は微々たるもんです。このような投資家層を拡大しても、NTTの株価に与える影響はほぼないのでは?

NTTは幅広い世代に投資家層を拡大することで何がしたいのでしょうか?一般的に個人株主を増やすメリットは、下値を支えてくれる投資家層の拡大、アクティビストや敵対的TOBに対する備えなどと言われています。ただ、本当にそんな効果があるのかと言われれば私も「ホントかよ」と思っています。個人株主は議決権行使をしないか、しても白紙のためにサイレント株主と言う意味ではいてもらったほうがよいのですが、株価の下支えとか敵対的買収対策とかの効果はわかりません。しかもNTTの時価総額を考えると、数は増えても率に影響はほとんどありません。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC124400S3A510C2000000/

NTTの株主数は22年3月末で69万人。島田明社長は同日の決算説明会で「(NTTの株主は)かなり年齢層が高い。個人投資家の8割が60歳代だ。若い人にも投資してもらうためには単価を下げていく必要がある。米アマゾン・ドット・コムやグーグル(アルファベット)のような米国株と同じような環境整備をしていく必要がある」と分割の狙いを話した。

アマゾンやグーグルはどうして単価を下げているのでしょうか?以下ニュースです。理由はこっちではないでしょうか?

https://hedge.guide/feature/amzn-googl-stock-split.html

米国の大手企業30社の株価に基づいて算出されるダウ平均は、各社の株を足して30で割った上で、さらに除数で割って算出されています。時価総額の大きさに応じた加重平均ではないため、分割前の2社のように1株が4ケタの企業を採用するのは困難な仕組みになっています。分割で株価が3ケタ台になることにより、時価総額で世界上位5社に入るアマゾンとアルファベットが採用の有力な候補になったと言えます。

また、以下のサイトのデータが正しいのかどうかわかりませんが、アマゾンの「Individual stakeholders」は9.76%となっています。低いですよね。感覚的にですが、米国の個人って個別株を買うのではなく投信を買っているようなイメージです。すいません、あくまで私の感想、イメージです。

https://money.cnn.com/quote/shareholders/shareholders.html?symb=AMZN&subView=institutional

そして以下のP18にはこう書いています。私、英語の資料を読むのが苦手なので間違ってたらすみません。

https://s2.q4cdn.com/299287126/files/doc_financials/2023/ar/Amazon-2022-Annual-Report.pdf

As of January 25, 2023, there were 10,845 shareholders of record of our common stock, although there is a much larger number of beneficial owners

株主数が10,845名ということなのかな?だとしたらNTTの株主数は69万人なので、今の水準ですら多過ぎ感があります。

さすがにNTTがこのような背景、理由をご存知ないとは思えませんから、知った上でやると考えたほうがよさそうです。個人株主を増やすメリットは株価の下支えや敵対的買収対策と一般的には言われていますが、NTTが本当にそんなことのために1株を25株に分割しますかね?そしてみなさんは「株主数が69万人からどれだけ増えるのだろうか?ヘタすりゃ200万人とかにならないか?」と思いませんでしたか?そして「株主管理コストが爆増しないか?」とも。

冷静に考えて「株主管理コスト」って何でしょうかね?たぶん招集通知と言った株主への書類等の発送コストや株主総会の議場にかかるコストなのかなと思われます。ただ、これ、そんなに多額にならないかもしれませんね。以下、昨年のNTTの定款変更議案です。

https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/05/12/220512b.html

株主総会資料の電子提供、場所の定めのない株主総会開催(バーチャルオンリー株主総会)について定款変更済みです。

昨年の招集通知の表紙です。リアルタイム配信について触れています。総会資料は一応昨年は発送していたようです。今年も本冊子は送付するのかな?

まあ、さすがに株主数が爆増したらコストも多少は増えるでしょうけど、ただ、これ私はNTTと信託銀行の思惑があってのことではないかとも想像しています。あくまでこれから述べる見解は私の想像です。「こんな風に見ることもできます」というアタマの体操だと思ってください。

以下のニュースがあります。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB233KR0T20C23A4000000/

みずほ信託銀行と楽天証券は企業の個人株主向けの情報発信で連携を始めた。みずほ信託の顧客企業に対し、楽天証券に口座を持つ個人株主の年齢や性別、最新の株式の保有状況について、個人情報が特定できない形で集計・分析した結果を有償で提供する。企業は若者など、特定の株主層に絞って情報を発信できるようになる。株式市場で存在感を増す個人株主に自社の魅力を訴え、長期保有につなげる。

おそらくアクティビストの活動が活発化する中、安定株主もいないからサイレント株主である個人を増やそう、個人でもいろんな層にアプローチしよう、そのためのツールをご提供します!っていう営業ですよね?時代が変わるとき、こういうサービスが横行します。はっきり申し上げますが、株主構成なんてコントロールするのは不可能です。

NTTだってそんなことは百も承知でしょう?ではなぜNTTがこのような株式分割をするのか?ネットで「バーチャル株主総会」って調べてみてください。一番最初にどんなページが来ましたか?以下でした。

「バーチャル株主総会トータル支援 NTTグループ」

これでしょ?

NTTの狙いは「自社のバーチャル株主総会システムを上場会社に売り込むための営業」ではないかと見ることもできます(あくまでアタマの体操ですよ)。NTTは1株を25株というかなり規模の大きい株式分割をしても、さほど株主管理コストは増えない可能性はあるものの現実的には増えるでしょう。でも今回、信託銀行がNTTに対して「コストは今までどおりでけっこうです!」「ディスカウントします!」と言っているかもしれません。なぜなら信託銀行も、これから上場会社が株式分割をして株主数を増やしてくれれば、信託銀行が上場会社から取る手数料を増やせるかもしれませんから。※再度念押ししますが、あくまで私の想像です。信託銀行の収益も、上場会社の株主数が増えたらアップするという構造なのかどうかも存じ上げませんので。

これ、NTTと信託銀行による営業活動ではないかと見ることもできます。

信託銀行:上場会社のみなさん!これからアクティビストが増えます!株主提案や敵対的TOBが増えます!幅広い世代の個人投資家を呼び込むべきです!株式分割をしましょう!あのトヨタや任天堂、NTTがやっているんですよ!

NTT:当社は幅広い個人投資家層を呼び込むために大規模な株式分割をしました!電子化対応等により招集通知コストが増えることはなかったです。なお当社の株主数は株式分割により●●●万人と日本で最多となりました。しかし当社のバーチャル株主総会支援システムを使えば、滞りなくリアルとバーチャルの株主総会を運営することができました!わが社が体を張って実証済みです!

もちろんいろんな投資家を呼び込むことによる副次的効果はあると思いますよ。例えばですけど、株主数を大幅に増やすことでアクティビスト対策も期待できるかもしれません。あまり実質的な効果はないかもしれませんが、一応、IRアドバイザーなどが「株主にレターを発送し主張を訴えることが重要」と言っていたりするらしいので、もし本当にそうだとしたら、株主数が100万人を超えていたら、アクティビストが株主名簿の閲覧謄写請求をして、住所を起こしてレターを発送するのは現実的に困難になるという効果はありそうです(ただネット時代なので、ホントに物理的にレターを送ることに意味があるのかどうかは疑問)。有事の局面において株主に何かしら書類を発送しなくてはならないときに、株主数が多いと攻めにくいかもしれません(どうかな~。ムリヤリ考えた発想です)。

「NTTがそんなことまでして営業なんてしないだろ?」 まあそうかもしれません。ただ、逆に今回の株式分割を「コストをかけてでも投資家層を広げるためにやるんだ!」と考えた上でのことだとしたら、ちょっとどうかと思います。

 

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