2023年12月08日

No.1649 第一生命のTOBは完全に敵対的TOBですよ

以下、日経さんの記事です。

第一生命、異例の「後出し」買収提案 国内M&Aに転機

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB078PE0X01C23A2000000/

7日開いたオンラインの記者会見で第一生命HDの甲斐章文執行役員は「同意なき買収を企図しているのでなく、親会社のパソナやベネワンの賛同を原則にしている」と、敵対的な買収ではないと繰り返した。

昨日何度かツイッターに書きましたが、今回の第一生命のTOBはベネフィットワンの同意を得たTOBではありませんから、現時点で同意なきTOB=敵対的TOBですよ。日経さんをはじめとしたマスコミは対象会社の意見表明がなされていない状況だから敵対的・同意なきとは書かないのかもしれませんが、現時点で同意がないのですから同意なきTOBだし、敵対的TOBです。むしろ「後出し買収提案」という表現のほうが卑怯な感じがしますし、失礼な気がします。

しかしまた日本生命と第一生命の差が浮き彫りになりましたね。日本生命はニチイ学館を友好的に買収する一方で、第一生命はベネフィットワンに敵対的・同意なきTOBを提案しました。余談ですが、上場会社が導入する買収防衛策、日本生命は賛成してくれますが、第一生命は反対するんですよね。なんか両者の違いがよくわかります。

さて、第一生命による敵対的・同意なきTOBを受けてみなさんは何を考えておけばよいでしょうか?まず、これまで敵対的TOBを実施したのはオーナー系が多かったけど、今回は第一生命というサラリーマン社長系の会社が実施したという点が大きなポイントです。以下、昨日まとめたコラムです。

https://ib-consulting.jp/column/4992/

上記日経の記事にもありますが、ほとんどオーナー系です。ここには書いてありませんが、水面下で検討していた会社もオーナー系でした。なんでオーナー系ばっかりなんでしょうね。たぶんオーナーって株式を握ることの魅力と握られることの怖さを一番よくわかっている存在だからかなと私は思います。まあもちろん敵対的TOBという乗っ取りとも言われかねない行動を取るにはリスクがあるのでオーナー系しか決断しにくいというのもありますが。

第一生命はサラリーマン社長系の会社に加えて、金融機関なんですよ。通常、金融機関ってお行儀が悪く見える行動ってしたがりません。そもそもTAKISAWAに敵対的TOBを仕掛けたニデックの永守さんが「大手証券にサポートを依頼したが全部断られた」とおっしゃっていたとおり、自身が敵対的買収をしかけるわけでもないのに、サポートですら躊躇します(もちろん永守さんの依頼をどういう理由で断ったかはわかりません。手数料があわなかっただけかもしれませんし)。

そんな第一生命が敵対的TOBを選択したということはかなりインパクトのある話ですよ。ほかの会社も追随する可能性がありますし、今この時にもすでに検討している会社がいるかもしれないのです。

みなさん、これでも「うちの会社がターゲットになることはないだろ?」と思いますか?ベネフィットワンもそう思っていたと思いますよ。当然、横やりが入る可能性は検討したでしょうけど「まあ大丈夫っしょ?」と思っていたのでしょう。そしてこれまで敵対的TOBを仕掛けられた会社、アクティビストに狙われた会社のすべてが「うちがターゲットになることなどないだろ?」と思っていたんですよ。みなさんと同じです。

だから買収防衛策の必要性も検討せず、企業防衛のことも考えず、ある日突然買収者が登場し「なんでうちがターゲットに?!」と驚き慌てふためくのです。なお「でもいざとなったら有事型買収防衛策で対抗すればいいんだろ?」「いろんなアドバイザーがオレたちの知らない魔法を使って助けてくれるんだろ?」と思っていませんか?

有事型で対抗しようとしたコスモはどうなりましたか?あのケースは有事型でおそらく勝てたケースですが、結果、岩谷産業というストラテジックバイヤーが登場してしまったではないですか?「え?あれは友好的じゃないの?」 とんでもない!あれも敵対的・同意なき株式取得ですよ!

みなさんがやるべきことは有事になったらどう戦うか?を考えることではありません。この話は何度もしていますが、何度でもします。みなさんがやるべきことは「有事にしないこと」です。有事になったら莫大なお金もかかるし、なにより社長が有事対応で忙殺されます。社長が本業に専念できず、会社の競争力が落ちます。中長期的な企業価値が毀損してしまうのです。そういう有事にならないよう、平時から「有事にしないために何をすればよいのか?」をちゃんと準備するんです。

世の中にあふれる企業防衛関連の情報をキャッチアップし、それが自社にどういう影響を与えるのか?をよく考えるのです。「持ち合い解消だー!」本当に貴社は持ち合いを解消してよい会社ですか?デンソー株を売却するトヨタの本音は?「買収防衛策なんて廃止だー!」貴社は買収防衛策が必要な会社では?そもそも経験したことのない敵対的TOBに対応するために時間と情報の確保が必要ない会社なんてあるんですか?そもそも貴社は買収防衛策とは何なのかを説明できますか?買収防衛策は買収提案を阻害するための策ではないですよ。時価総額の大きい会社は「うちは総会決議を取れないから防衛策はムリ」と思考停止していませんか?新しい買収防衛策はありますよ。

そしてみなさん。守りだけを考えていてはダメですよ。攻撃こそ最大の防御と言います。敵対的TOBを経営戦略の1つとして検討する時代になりました。

 

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