2016年12月09日

No.32 おかしな株主が登場したらどうする? など3コラム

■おかしな株主が登場したらどうする?

 簡単です。さっそく買収防衛策を導入しましょう!買収者がファンドや事業会社に関わらず、です。「でも、買収者を刺激しないかな?」大丈夫です。買収防衛策の導入くらいは想定の範囲内ですから。それよりも、今のご時世、安定株主が少なくなっていますから、相当程度の株式を取得されるリスクがあります。昔なら、せいぜい買っても10%程度。で、10%持った上で、経営に対していろいろと文句をつけます。最悪、株主提案がなされるくらいでした。でも今は、経営者を入れ替えられるくらいの株式を取得してくるリスクがありますし、現に取得されてしまった会社があります。

 ですので、「え?この投資家(会社)がうちの会社の株式を買ったの?」と思ったら、即座に買収防衛策を導入する準備をしましょう。大量保有が出ていなくても、です。株主名簿に、「ロイヤルバンクオブカナダ」と出てきたら準備した方がよいです。エフィッシモさんがよく使っているカストディアンです。その他、信用取引では立花証券を使っています。ゴールドマンサックスインターナショナルも利用しているようですが、これは他の機関投資家もよく使っていますので、即座にエフィッシモ、という訳ではないです。

 買収防衛策の準備をする、というのは、「すぐに導入してください」という意味ではありません。「いつでも導入できるように準備をしてください」という意味です。グループ会社の株が買われた場合であれば、グループ会社に対して「買収防衛策を導入するかどうかすぐ検討を開始してください。いつでも導入できるように準備してください」と指示すべきです。

 また、「うちは導入済みなんだけど、どうすればいいの?」と考える会社もいらっしゃるでしょう。すでに導入済みの会社は、「発動すべきかどうか」を検討してください。これは、相当ハードルが高いです。日本において発動したケースは、ブルドックソースのみです。ブルドックソースが買収防衛策を発動したときは、株主総会で多数の株主の賛成を得て、買収者に経済的損害が発生しないような仕組みにしました。買収者であるスティールパートナーズは発行差し止め請求をしましたが、最終的には最高裁で認められませんでした。ブルドックソースの勝利です。

 日本の判例では、少なくとも、株主総会の賛成を得て、買収者に経済的損害を発生させなければ、買収防衛策の発動は認められる余地があります。しかし、一方で、買収防衛策を発動してよいのか、という批判があります。マスコミはおそらく批判するでしょう。

 裁判所がどう判断するか、マスコミ・マーケットがどういう反応をするか、をよく検討しなければなりません。

 おそらく、ほとんどのアドバイザーは「買収防衛策は抑止であって、発動を前提にしてはいけない」というアドバイスをすると思います。私は、「本当にそうか?」と考えています。場合によっては、発動することも必要なのではないかと思っています。

 いずれにしろ、よからぬ買収者が現れた場合は、買収防衛策の導入・発動を真剣に検討する必要があります。

■買収防衛策って、発動するとどうなるの?

 意外と皆さんご存じありません。簡単に言うと、買収者の持分が希薄化されます。海外では発動されたケースはないと一般的には言われていますが、1例だけあります。米国のクラウンゼラーバックという会社が発動しました(1980年代だと思います)。ゴールドスミスというアクティビストに株式を取得され、ポイズンピルを発動しました。このケースは、現在ではインターネットで調べても出てきません。私の記憶では、発動したけど最終的にはポイズンピルを消却した、だったと思います。

 きちんと記録が残っているのは、ブルドックソースによる買収防衛策の発動です(クラウンゼラーバックも米国の登録資料を調べれば記録は残っているのかもしれません)。スティールパートナーズから敵対的TOBを仕掛けられたブルドックソースが、TOBがかかった後の有事に、新株予約権を株主に付与し行使可能とすることで、スティールパートナーズの持分を希薄化しました。裁判になりましたが、最高裁まで争われた結果、買収防衛策の発動は認められました。

 発動の要件としては、株主総会において多数の株主の賛同を得ていること、スティールパートナーズに経済的損害を与えていないこと、などです。簡単に言うと、全株主に新株予約権を付与、しかし、スティールパートナーズだけは行使できない、スティールパートナーズ以外の株主は全員行使、スティールパートナーズの持分は希薄化される・・・という流れです。「だとすると、スティールパートナーズは大損したのか?」と思われるかもしれません。スティールパートナーズに付与された新株予約権は行使できない代わりに、会社が買い取ります。ですので、スティールパートナーズは経済的損害を被りません(法律関係者の方が読むと、行使じゃなくて取得では?と思われるかもしれませんが、本件、ざっくり書いていますのでご了承ください)。お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、これって、経済的に見ると、自社株買いなんですね。スティールパートナーズという特定の株主から自社株買いした、ということなんです。

 ブルドックソースはマーケットから批判されました。でも、どうなんでしょうか?スティールパートナーズというよくわからん投資ファンドが、突然、TOBをかけてきた。目的は「純投資」 はあ?全株買うのに目的は純投資???発動する気持ちもわかります。

 「あなた、当時、ブルドックソース側のアドバイザーでしたよね?」と言われるかもしれません。「かばってるんでしょ?」とか。そういうわけではないんです。相手が事業会社で、きちんとした目的があって、両社にとってハッピーなM&Aだ、ということであれば買収防衛策を発動するなんてできません。でも、少なくとも「本当にちゃんとした買収者なの?」と疑いたくなるような買収者はいます。経営に重大な影響をおよぼすレベルの株式を取得しつつ「純投資です」と言うような株主を信用しろ、というほうが不思議ではないでしょうか。なお、買収防衛策を発動した場合の手続きですが、ブルドックソースが発動したときのプレスリリースが参考になります(株券電子化前ですのでご留意ください)。http://www.bulldog.co.jp/company/pdf/070711_IR2.pdf

■買収防衛策は発動を前提にしてはいけません、と言うアドバイザー

 素人です。教科書しか知らないアドバイザー、と思ってください。

 少なくとも、ブルドックソースは発動しました。裁判所も認めました。「発動すべきではない」というのは、教科書的にはそうでしょう。私もそう思います。

 ただし、当然ですが、まともなストラテジックバイヤーが買収提案をしてきた場合、条件にもよりけりですが、発動することは相当ハードルが高いと考えてください。これは私も賛成できません。事業会社が事業会社に対して、株主にとっても魅力的な価格で買収提案をし、従業員のリストラなどもしないと明言している状況で、「いや、発動だ!」と会社が判断しようとした場合、私は体を張って止めます。

 しかし、よくわからない投資ファンドの場合、発動も念頭に置いた上で行動したほうがよいのではないかと考えます。

発動したら・・・マスコミやマーケットは批判します。相当批判します。相手がよくわからない投資ファンドであっても「発動はまずいんじゃないの?」と。おそらく有識者と言われる方々も「発動はよくない。買収防衛策はあくまで抑止であって発動を想定してはいけない」と。「スティールパートナーズのどこが悪なのか?株式投資による利益追求は悪なのか?」と言う人もいるでしょう。

株式投資による利益追求は悪ではありません。デイトレーダーが悪かと言われれば、悪ではありません。でも「悪ではないけど、限りなくグレーなことをやっていませんか?」という投資ファンド(特定の誰かのことを言っている訳ではありません)に対しては、毅然と買収防衛策を発動すべきです。スティールパートナーズは東京高裁に「濫用的買収者」と断定されています(法曹関係者には、あの決定文はちょっと、とおっしゃる方もいると思います)。

想像ですが、本当は買う気もないのにTOBをしかける、そして、ホワイトナイトが登場するのを待ち、売り抜ける。まあ、「そのような株価に放置していた経営者が悪い!」と言われるのでしょう。でも、みんなそうじゃないですかね。

投資ファンドに狙われた会社の方、一度ご相談ください。今のアドバイザーは「買収防衛策の発動はまかりならん!」とおっしゃるかもしれませんが、私は「相手次第では発動あり!」と考えます。

なお、日本が少しずつ変化していけば、私も「買収防衛策の発動はまかりならん」という考えに変わると思います。今の日本は人材の流動化も進んでいません。そういう状況を突いて、投資ファンドは狙ってきます。人材の流動化が進んだり、役員報酬が高額になったり、高い価格でTOBをしてきたらその値段で売るかどうかの決断をすればよいという時代になれば、買収防衛策の発動という発想はなくなると思います。

 

 

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