2017年07月18日

No.131 株持ち合い縮小 10%割れなど2コラム

■株持ち合い縮小 10%割れ

 2017年7月16日の日経7面にある記事です。企業統治改革により株主に合理的な保有理由を説明できない株を持ちにくくなっているため、持ち合い株を減らす動きが加速しています。コラムではたびたび取り上げてきた話題です。この記事ではいくつかの企業が取り上げられているので、分析してみます。

 まず、丸井グループについて。丸井グループはコーポレートガバナンス報告書において「保有意義の薄れた株式は、当該企業の状況を勘案した上で売却を進める」と説明しているそうです。では、丸井グループの株主構成を見てみましょう。

 法人株主比率が15.99%、三菱東京UFJが2.48%保有していますので、合計すると18.47%です。個人でも一族がいるでしょうから、もう少し高いのでしょう。しかし外国人株主比率が27.78%とまあまあ高いですね。私、丸井グループってもっと安定株主比率の高い企業だと思っていました。青井一族でもっと株式を保有しているものだと・・・そんなに持っていないのですね。大丈夫ですかね?そんなに安定株主比率が高くないのに。一族がまだ株式を保有しているから、なんとなくオーナー企業の気質がまだ残っているのではないでしょうか?オーナーがいるから株主構成のことなんて考える必要がない、と。だとすると、危険ですよ。安心できる株主構成とは言えませんから。

 では丸井グループの保有株式の状況はどうなっているのでしょうか?

 30銘柄で177億円だそうです。総資産が約8,000億円の会社ですから、まあほとんど投資有価証券をもっていないということですね。ちなみに、三陽商会は丸井グループ株式を1,311,200株(約22億円)保有しています。この株式の丸井グループ総議決権に占める割合は0.57%です。微々たるもんですね。丸井グループは三陽商会株の1.7%を保有していたのですから、比率で考えると割に合いません。持ち合いは比率ではなく金額で実行しますから、比率のことを言っても意味はないかもしれませんが、こっちが1.7%持っているのに、相手は0.57%しか持っていないのだから割に合わないと考えても不思議はありません。

※シビアなことを言えば、「バーバリーのライセンスを失った三陽商会はもういいや」と思われたのかもしれません。

 しかし、私は「本当に大丈夫?」と思っています。これからの株主総会議案は僅差で決まることが多々あると思います。今年の株主総会では、リコーの役員賞与議案が52%で可決されました。僅差ですね。逆に、イリソ電子工業などは僅差で監査役への慰労金議案が否決されました。他にも僅差で可決・否決されたケースがあります。0.57%という水準は微々たる水準かもしれませんが、後々大きな意味を持ってくるかもしれません。これからの株主総会運営を甘く見ない方がよいです。ちなみに、丸井グループは今年、買収防衛策も廃止しました。外国人株主比率が高いから、更新を諦めたのでしょうか?だとすると、川崎汽船のようなことにもなりかねませんので注意が必要です。時価総額はたったの3,600億円ですから。

 なお、記事中で他にも例示されている企業があります。まあ、商社などはそもそも時価総額が大きいし、安定株主比率も低いです。また、投資が本業ですから、どれが持ち合いでどれが投資なのかもよくわかりません。気になるのはゼネコンです。記事では「日本の持ち合いの典型とされてきたゼネコンでも解消が進む」と指摘しています。が、私は「本当に?」と思っています。ゼネコンは本当に「持ち合い」をしているのでしょうか?私は、ゼネコンは持ち合いをしているのではなく、片持ちをしているという認識です。すべてのゼネコンを調べた訳ではないのですが、感覚として、ゼネコンって株式を持ってはいるけど、自社の安定株主比率は高くないのです。例えば、大林組を見てみましょう。

 法人株主が8.59%、日本生命が2.90%、大林剛郎氏が2.35%、従業員持株会が1.35%ですから、合計15.19%です。時価総額約9,600億円ですから、これくらいの水準にならざるを得ないでしょうが、やはり高くはありませんね。他にも記事で指摘されている戸田建設、西松建設などを見ても、戸田建設はやや高いですが、西松建設はけっこう低いです。各社様々ですが、ゼネコンはひとくくりに「持ち合いの典型だ!」と非難されるような業界ではありません。実は株式を持たされているだけだと思います。

 持ち合い解消の動きは、昔と比べて加速していることは事実でしょう。しかし、それは本当に持ち合い解消なのかを正確に把握する必要があります。単に政策投資株式を売却しているだけで、持ち合いを解消していない可能性があります。つまり、片持ち株を整理しているだけで、お互い持っている持ち合い株は整理していない、ということです。これであれば自社の安定株主比率に影響はありません。また、持ち合い先との力関係も重要です。持ち合いであっても、どちらかの力の方が強い場合があります。この場合、一方が解消できても、一方は解消できないことだってあります。このような表面しか調べていない記事を見て「うちも持ち合い解消しなくては!」などと考えてしまうことは、かなり危険です。これからの株主総会は1%の攻防になる可能性が高くなってきました。たった1%の持ち合い解消であっても、いつかの株主総会で「あのとき持ち合い解消を急いでするんじゃなかった!」と思う場面があるかもしれません。

この記事を見ているとおもしろいことが書いてあります。「事業会社も銀行株を売却し、持ち合い比率はピークだった90年度の34.1%から05年度に11.6%まで急低下した。だがその後、スティール・パートナーズなど株が割安な企業に敵対的買収を仕掛けるファンドが登場し、防衛目的から持ち合いが一部で復活。持ち合い比率も08年度は13.0%に上昇した。」とあります。持ち合い解消を進めてきたものの、スティール・パートナーズなどの投資ファンドが登場すると、持ち合いが増えたようです。やっぱり、何かあると持ち合いで対抗したり、防衛策で対抗したりするのが王道ということです。だから、持ち合い解消の議論をしておく必要はありますが、本当にやるかどうかは慎重に検討すべきと思いますし、私は流行りに乗って安定株主比率を崩してまでやる持ち合い解消は今はやめておくべきだと考えます。

また、比較的時価総額が大きい企業は安定株主比率があまり高くないことから「うちの安定株主比率は高めようもないし、1%くらい減ってもいいでしょ?だってそもそも低いんだから」という議論になりがちです。たかが1%、されど1%です。後々、本当に後悔するときが来るかもしれません・・・

持ち合い解消は理想論ではありますが、現実を見ておく必要があります。ベジや村上ファンド、エフィッシモが虎視眈々と狙っているのが現実です。持ち合い解消を進めている企業には「佐々木ベジって知っていますか?」と聞いてみたいですね。たぶん、知らないです。

■ディーラー失職の危機

 2017年7月16日の日経5面にある記事です。私の業務とは直接関係のある記事ではありませんが、書いてある内容で一部気になるところがあります。それは「中部地方のある地方銀行は08年の米金融危機前に金利先物の取引をやめた。金利変動に伴う収益への影響を小さくするための取引が必要なくなったためだ。「いまさら再開しようとしても取引できる技能を持った行員がいるかどうか。いま金利急変が起きたらと考えると怖い」。市場担当者は眉間にしわを寄せた。」という部分です。

 これが、ソレキアの敗因ではないでしょうか?何度も申し上げましたが、ソレキアが佐々木ベジの敵対的TOBに屈してしまった要因は、増配で対抗すれば勝てたのにホワイトナイト戦略を選んでしまったこと、佐々木ベジが会長をつとめるフリージア・マクロスが2015年9月中間期末の株主名簿に登場した段階で買収防衛策を導入しなかったこと、です。なぜ買収防衛策を導入せず、増配もしなかったのか?まさに日経記事にあるように「技能を持った行員がいるかどうか」です。敵対的TOBに対抗するための技術やノウハウを持った社員がフィナンシャル・アドバイザー内にいなかったのでしょう。

 「金利先物の取引をやめた。金利変動に伴う収益への影響を小さくするための取引が必要なくなったため」 置き換えれば「敵対的TOB対策のビジネスをやめた。日本では敵対的TOBは成功しないだろうし、スティール・パートナーズは撤退し、村上ファンドは逮捕され、敵対的TOBを実施する人たちがいなくなったため」でしょう。

 「いまさら取引を再開しようとしても取引できる技能を持った行員がいるかどうか。いま金利急変が起きたらと考えると怖い」 まさにそうなってしまいました。敵対的TOB対策をビジネスとして再開しようとしても、できる人材はいないはずです。なぜなら過去の敵対的TOBを経験した人がいないからです。そして、佐々木ベジによる敵対的TOBの成功、村上ファンドによる株主提案の成功、エフィッシモによる株式大量取得という急変が起きてしまいました。急変が起きても、対処しようがありません。ノウハウがないからです。

 日本企業に対する敵対的TOBや過激な株主提案はこれからが本番です。なぜなら、日経にあるとおり、持ち合い解消が進んでいるからです。また、このような記事を見て「うちも持ち合い解消せねばならんな!」と考えて本当に持ち合い解消をしてしまうからです。ちょっと立ち止まって考えていただきたい。本当に持ち合い解消をして大丈夫ですか?アクティビスト・ファンドは10年の間、爪を研ぎ続けてきました。対して、証券会社やIRアドバイザーは爪を研いでいません。だから、事業会社の皆様のところに、敵対的TOB対策やアクティビスト・ファンド対策に関する価値ある情報が届いていないのです。一部の会社は「うちは実績がある」と言うかもしれませんが、所詮、人海戦術しか知らないはずです。敵対的TOBにおける総合的な戦略を練ったことがないでしょうし、そういう人材はいません。知恵と工夫のある総合的なアドバイスをすることはないでしょう。

 

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