2017年07月31日

No.140 買収防衛策の廃止理由は継続・新規導入企業にとって迷惑な話

 今年、買収防衛策を廃止した企業の理由は以下のとおりです。導入公表日は、各社のホームページでさかのぼれないものもあるため、間違っているかもしれませんが、そこはご了承ください。

皆さんいろんな理由を書いていますが、字が細かすぎて読めませんね。すみません。細かく見たい方はご連絡ください。

ただ、だいたい「金融商品取引法による大量取得行為に関する規制が浸透したから買収防衛策の目的としている時間と情報の確保が一定程度担保された」を理由にしている企業が多いと思っていただいてよいです。

これ、買収防衛策を更新している企業やこれから導入しようとしている企業にとっては迷惑な理由なんです。なぜかと言うと、金商法の整備によってTOBルールは改正されましたが、改正後に実施された「敵対的」TOBはほとんどありませんし、質問権を行使したケースなどもほとんどありません。とてもじゃないですが、改正TOBルールが「浸透した」などとは言えない状況です。TOBルールが改正されたことで、以前に比べてTOB期間は長くなり、質問権が確保されました。しかし、十分な回答がなされた例はほとんどないと言っても過言ではありません。にも関わらず、皆さん一様に「改正TOBルールが浸透した!」「時間と情報の確保が一定程度なされた!」と主張し、それらを廃止理由にします。本当ですか?

 本当の理由は「買収防衛策を可決できるだけの安定株主がいるかどうか自信がない」ではないでしょうか。廃止理由に「経済情勢、市場の動向、当社株主構成を含め、当社を取り巻く経営環境の変化」を挙げている企業がありますが、これが本音でしょう。株主総会をとおせるだけの安定株主がいるのかどうか不安だから廃止した、という企業が多いのではないでしょうか。また、「機関投資家と対話したけど理解を得るのは非常に厳しい」というカプコンさんのような意見もあります。

 株主のスタンスは以前から厳しかったですし、株主のスタンスが厳しくなったというよりは、安定株主が少なくなったために株主総会を通せなくなったということだと私は考えています。であれば、私としては正直に書いてもらいたいと思っています。TOBルールが改正され、それが浸透した、とか、時間と情報が確保されるようになった、とか、すべてウソです。それはソレキアのケースで証明されています。ソレキアが満足するレベルの十分な回答を佐々木ベジ氏はしていませんよね。「具体的に質問してもらわないと回答できない」といったレベルの回答がありましたので。

そもそも、TOBルールが改正されたのは2006年12月ですし、ルールが改正されてから買収防衛策を導入した企業も多いです。以前は「TOBルールが改正されたから廃止する」という理由が多かったのですが、私は「TOBルール改正後に買収防衛策を導入したのに、改正されたから廃止するという理由はおかしい」と言い続けました。そうすると、TOBルールが改正された後に導入したのにTOBルールが改正されたから廃止するとは言えないことがわかったから「改正TOBルールが浸透したから廃止します」と言い始めました。ズルいです。更新している企業やこれから導入しようとしている企業にとっては迷惑な話です。本当はみんな必要だと思っているのに、自社は総会を通せないから「TOBルールが浸透した」などと言っています。そしてマスコミは「コーポレートガバナンス重視の流れの中、買収防衛策を廃止する企業が増えている」と報道します。本当は「金融機関を中心とした持ち合い解消の動きの中、安定株主比率が低下し株主総会を通すことが厳しいと考えた企業が買収防衛策を廃止している」と報道するのが正しいです。

今回は廃止企業の廃止理由を分析しました。次は廃止企業の株主構成を分析します。たぶん、おもしろいことがわかると思います。

持ち合いが正しい行動とは言いません。ただし、普通決議すら可決させる自信が持てない株主構成というのはちょっとどうかと思います。当然、仕方のない企業があることは理解していますが、とんでもない株主提案がきて可決されてしまうような株主構成はいかがなものかと思います。

 

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