2017年08月03日

No.143 TCIと加熱式たばこ

 ザ・チルドレンズ・イベストメント・ファンド、TCIと呼ばれている英国のアクティビスト・ファンドです。5年ほど前ですが、日本たばこ産業(JT)の株式を取得し、株主提案をしました。主な提案内容は、剰余金の配当、自己株取得などです。剰余金の配当ですが、JTの会社提案は1株当たり6,000円でしたが、TCIの提案は20,000円でした。TCIの提案だと配当総額は2,000億円です。自己株取得の規模は8,000億円です。合わせて1兆円とかなりの規模の株主還元を要求しました・・・ちょっと現実的ではありません。JTの財務であれば、数値上はやれないことはないのかもしれませんが、現実的な経営を考えると、非現実的な規模のように思います。TCIの主張は以下のとおりです。

 これらのTCIの主張に対して、JTは「中長期に亘る持続的な利益成長を目指し、将来の利益成長につながる事業投資を行うことが、株主共通の利益に資すると考えております」といった反論を行いました。もちろんもっと詳細に反論していますが、反論の主軸はこれです。ちなみに、JTはけっこう株主還元を実施していますし、私はJTの株主還元策には特に問題はないと考えます。グラスルイスもJTの判断を支持し、TCIの提案に反対しました。なお、もちろんISSはTCIを支持しました。ちなみに、当時のJTの単体ベースの手元現預金は350億円です。連結ベースだと当然もっとありますが、1兆円もありませんから、借入などの外部調達をする必要があります。銀行は本当に貸してくれるのか?調達できるのか?といった実務的問題をISSはわからないのでしょう。「配当可能利益は十分あるじゃないか!」 アホか・・・です。

 私がJT vs TCIのケースからお伝えしたいことは、やはりアクティビストは短期的利益しか追求していない、というより、短期的利益しか追求できない人たち、ということです。5年、10年先の会社のあり方を考えて株主提案をしたとは思えません。

2012年にTCIがJTに株主提案をした際、TCIは5年後を考えていたのでしょうか?今の世の中では、加熱式たばこが登場しています。たばこ業界は安定したキャッシュ・フローを確保できる、大幅増配・自社株買は可能だ!そうかもしれませんが、近視眼的です。加熱式たばこの登場を予想していたでしょうか。

これがファンド運営者と企業経営者の違いですね。しょせんアクティビスト・ファンドは財務のことしかわからず、事業のことはまったくわかっていません。いや、財務のことも本当はわかっていないと思います。※「アイコスを開発したPMIはJTより株主還元を充実させていたぞ!」「加熱式たばこの開発にそこまで資金は必要ない!」としつこく反論してくるのでしょうけど。

「いらないお金は配当にまわせ!」 いらないのならそうかもしれませんが、いつ必要になるかはわかりませんし、ある程度のお金は必要でしょう。研究開発投資にまわす必要があります。アクティビスト・ファンドは株価が上がって売却すればよいだけですが、経営者はその先の先まで考えて経営する必要があります。

よく「エフィッシモでも投資先によっては10年も持っている先があるのだから、もう短期的利益の追求者とは言えないんじゃないか」という人がいますが、私は間違っていると思います。短期的利益の追求とは持っている期間と関係ありません。10年持っているから短期的利益の追求者ではない、ではなく、長期的視点に立って会社に意見を言っているかどうかです。配当や自社株買いのことばっかり文句を言うファンド、それしか言えないファンドなんて、単なる短期的利益の追求者です。株主提案なんて、10年間継続保有していないとできない、という法律改正をしてしまえばよいと思います。

でもそんな短期的利益の追求者であるアクティビスト・ファンドの株主提案も、可決されてしまえば日本の法律上従わざるを得ません。皆さんご存じのとおり、JTの株主には財務大臣がいます。JTの時価総額は巨額ですが、安定株主比率が低くはないのです。当然、時価総額は巨額ですから、TCIもJT株式をそんなには買えませんし、安定株主がいるのでTCIの提案は可決されませんでした。

皆さんの株主構成が黒田電気になっていないかどうかチェックが必要です。また、ソレキアになっていないかどうかもです。

 

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