2017年08月30日

No.156 税優遇しても持ち合いは減りません

 本日8月30日(水)の日経26面「経済教室 企業統治と安定株主 持ち合い解消へ税優遇も」について書きます。たぶん、この執筆者は企業経営者からほとんど話を聞いていませんね・・・。税優遇したって、事業会社が持ち合い株を簡単に売却するはずがありません。だってそもそも、資本を非効率化させてもよいから持ち合いしましょうという考えのもとでやっているのですから、税を優遇されたからと言って企業財務の観点で合理的な行動を取る訳がない。また、政策保有株主の比率は過去10年で低下傾向にある、とか、企業は政策保有株式への問題意識を高めており、とか書いていますが、間違っています。データを正確に分析した訳ではないので、えらそうなことを言えませんが、たぶん、減っているのは銀行や生損保といった株主の持株数です。事業会社はそんなに減っていないはずです。金融機関の持株数が減っているのは、企業統治に対する問題意識ではありません。銀行におけるバーゼル規制などが厳しくなっており、自己資本比率の観点から売らざるを得ないからです。ドイツで株式売却時のキャピタルゲイン非課税政策が導入され、持ち合い解消が促進されたと書いていますが、これ、たぶん、ほとんどが金融機関でしょ?

 そもそも、金融庁は事業会社の持ち合いについて問題視はしていないはずです。随分前、政策保有株式の保有目的開示が義務付けられた際、金融庁にヒアリングしたことがあります。保有目的の開示をこれ以上厳しくするかどうか確認したところ、「金融機関に関してはあり得る。しかし事業会社は考えていない。そもそも我々は金融庁ですから。事業会社に対して厳しく指導しているとは捉えられたくないですので」という考え方でした。

 「政策保有株主が多く存在する会社では経営者が機関投資家と対話する意欲を失うというモラルハザードのリスクもある」と指摘していらっしゃいます。そんな訳ありません。政策保有株主がたくさんいても、外国人株主比率が高ければ機関投資家とちゃんと対話しています。時価総額上位100社の企業を見ても、例えばNTTやNTTドコモは安定株主比率が高いです。また、ソフトバンクやユニクロも、オーナーがまだ株式を持っているから安定株主比率が高いです。しかし、これら時価総額の大きな企業が機関投資家との対話に対する意欲を失っているとは思えません。この執筆者が言っている企業って、安定株主比率の高い時価総額の小さな企業のことではないでしょうか?だとしたら、機関投資家と対話しなくてもよいです。なぜなら、株主にほとんど機関投資家がいないからです。まあ、そうは言っても、安定株主比率が高く時価総額の小さな企業であっても、けっこう機関投資家を訪問していますよ。たぶん、この方は現場を見たことがありませんね。

 学者の方って、本当にわかってないんです。機関投資家との対話がイヤだから持ち合いする企業なんていませんよ。そんなしょうもない理由で大切な会社の金使って持ち合いなんかするわけないでしょ。

 「株式の政策保有は、資本の活用を非効率化し」・・・そんなこと言われなくても日本の経営者はわかっています。なぜ持ち合いをするのか?最近よく書いていますが、よからぬ株主が現れたときのための対抗策です。多少の資本が非効率化することは経営者もよくわかっていますが、会社が悪い意味で乗っ取られることを防ぐための対策です。決して、経営者が地位にしがみつくための保身の策ではありません。

 持ち合い解消って、ほとんどが金融機関による影響なんです。諸外国もそうだと思います。それは、金融機関の経営が厳しくなり、株式を持っていられなくなったからということです。企業統治に対する危機感から売却する人なんていません。

 これだけ「持ち合いは悪」「持ち合いは経営者の保身」と言われ続けると、経営者も洗脳されてしまうでしょう。持ち合いって、経営者の保身のためにやっているのでしたっけ?そんなことを考えて持ち合いをしている経営者がいますかね?中にはいるのかもしれませんが、私は会ったことないです。持ち合いしているから機関投資家と対話しないという経営者もいるのでしょうか?いませんよ、そんな人。そもそも「機関投資家との対話を!」と言っていますが、機関投資家ってそんなにレベルの高い人なんですかね。社長の時間を割いてでも会って話を聞く価値があるのでしょうか。貴社のことを十分に理解して価値のある話を聞かせてくれるのでしょうか。疑問です。「株主に対する説明責任だ!」株主総会だけで十分でしょ。このご時世、何かにつけて「説明責任!」「説明が不十分!」と言われますが、私は株主の方の勉強が不十分と思っています。もっと1社1社の議決権行使を真剣に検討すべきです。できないなら白票を投じるべきです。過去5年間のROE平均が~などという生ぬるい基準で経営者に反対推奨などすべきではない。企業のトップを数値基準で判断するなどもってのほかです。

 今回の日経の記事は、内容自体に価値はないと思いますが、皆さんが「何のために持ち合いをしているのか?」をあらためて考えるきっかけになるのではないかと考えます。何のための持ち合いか?経営者ではなく、会社を守るためではないでしょうか?

 

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