2017年08月31日

No.157 物言う株主 再び存在感

 ちょっと遅くなってしまいましたが、2017年8月27日(日)日経2面の記事です。2017年上期にアクティビストが経営改善を提案した企業は世界で485社と半期として過去2番目の高水準だったそうです。記事にはありませんが、2017年の日本企業に対する株主提案は200件超と過去最高でした。世界の流れと同じですね。

 P&Gやネスレなど、時価総額の大きな企業に対する提案もあります。このような時価総額の大きな企業の株式をアクティビスト1社でたくさんの株式を保有した上で経営改善を要求するのは不可能でしょう。他の機関投資家もアクティビストの主張を支持するから、アクティビストの主張をある程度受け入れなくてはならなくなるのでしょう。

 皆さん、この記事を読まれてどう感じたでしょうか?コラムを読んでくださっている方で「うちの会社には関係ない話」と思われた方はいないでしょう。コラムを読んでいない方は、記事自体に興味がないかもしれませんし、読んだとしても「ふーん、うちには安定株主がいるから関係ねーや」と思ったかもしれません。危ないですね。

 日本においても時価総額の大きな企業がアクティビストのターゲットになる可能性はあります。例えば、ファナックとかキーエンスとか。財務体質は良好ですし、安定株主比率はかなり低いです。キーエンスの配当議案の賛成率なんて64%しかありません。「なんで配当議案に反対するの?」と思われるかもしれませんが、これはおそらく、キーエンスの配当があまりに低いので、あえて反対票を投じることで「会社の配当方針に納得していない」と機関投資家が意思表示をしたということでしょう。ちなみにキーエンスの配当利回りは0.2%、自己資本比率94.7%、手元キャッシュ4,169億円(連結)です。外国人株主比率は48.86%です。

 実際に日本においても時価総額が大きい企業に対してアクティビストが攻撃を仕掛けたことがあります。コラムでも取り上げたことはありますが、例えばJTです。ザ・チルドレンズ・インベストメントファンド(TCI)がJT株式の1%弱を取得して、増配や自社株買いの株主提案をしました。時価総額の大きな日本企業だってターゲットになっています。なお、JTの株主には政府がいます。(政府を安定株主と位置付ければ)安定株主比率が高い企業ですが、ターゲットになりました。アクティビスト・ファンドにとってターゲット企業を決める際に、安定株主比率はあまり関係ないのかもしれません。もしくは「政府は決して強い株主ではない。なぜなら世論の動向によっては我々の提案に賛成せざるを得ないからだ」と安定株主の特性を見極めたうえで投資したのかもしれません。

 ここから先は、今の世の中で決して受け入れられる意見ではありません。私、「株主は物を言うな」と思っています。正確には「上場企業の株主は物を言うな」です。未上場会社の株主は企業に物を言っても構いません。自由に売れませんから。でも上場企業の株主については、株主総会以外で企業にコンタクトを取る必要はないし、物を言いたいのであれば「株主総会で発言しろ」「議決権行使で意思表示しろ」と思っています。個人株主が企業に物を言えますか?言えませんよね。なんで機関投資家は企業にコンタクトを取って物を言ってよいのでしょうか?インサイダーに近い情報を入手し、もしくは、経営者やCFOの発言内容を聞き、表情などを見て、個人株主よりも有利な立場で株取引をするリスクがあります。企業は株主に説明すべきである!そりゃそうでしょう。ただし、株主総会の場で、です。それ以外の場で本来説明する義務などありません。上場企業の仕事を増やすな、です。「経営改善を要求する!」 は?いい会社の株買えよ!あんたらが銘柄選択間違えただけだろ?です。インデックス投資家だから売りたくても売れない!それはあんたらが勝手に決めたルールでしょ?そんなのワシらの知ったことではない、です。

 どうして企業に投資家との対話を促すのでしょうか?大きなお世話ですし、個人株主との情報格差が広がるだけです。本来、機関投資家と個人で情報の格差があってはいけないはずです。IRやガバナンスをビジネスにしている会社の利益のために上場企業の仕事が増えている気がしてなりません。

 株主が物を言いたいのなら、せめてウォーレン・バフェットのレベルになってからにしてください。コカ・コーラのCEOだったロベルト・ゴイズエタは株主であるウォーレン・バフェットに毎日のように電話して経営に対する意見を聞いていたそうです(ネタ元が一昔前に売れた「夢をかなえるゾウ」ですので、信ぴょう性がどうなのかわかりません)。村上さんにしろ、いろんなアクティビストにしろ、「株主の意見を聞け!」と声高に主張しますが、そもそも耳を傾けるべき価値のある意見だと思っているのでしょうか?思い上がりも甚だしいです。価値のある意見を言う株主だったら、経営者は毎日でも電話して意見を聞いてくるはずです。意見を聞いてこないということは、聞く価値がないと思われているということですから、身の程をわきまえた方がよいです。私自身、コラムを書いている分野に関しては、当然皆さんよりも知識・情報・分析において上回っていると思っていますが、皆さんの事業分野に関しては足元にも及びません。だからコラムは専門外のことは取り扱っていません。投資家って知ったかぶりして経営者に意見する人が多いように思います。ちょっと不動産のことをかじったから、鉄道会社の経営に意見する、とか。ちょっとコンビニのことをかじったから、コンビニ以外のスーパーを売れと意見する、とか。ちょっとかじっただけでその分野のプロに意見するなんて恥ずかしくないのでしょうか。

 と、そんな愚痴を言っても世の中変わりません。株主はこれからも物を言い続けるのでしょう。株主提案をしてくるのでしょう。IR・ガバナンスアドバイザーは煽るのでしょう。

そんなアクティビスト達にどう対応するのか?安定株主がたくさんいた時代であれば、無視しておけばよかったのですが、そうは言っていられない時代になってしまいました。

「村上世彰氏やスティールが日本市場で猛威を振るってから10年余り。パッシブ勢の後ろ盾を得たアクティビストが世界で勢いを増す中、日本企業ももはや無縁ではいられなくなっている。」

 株主提案への対応を考えると、やっぱり個人株主が重要になってきます。しかし、敵対的買収への対応を考えると、個人株主だけでは守ることはできません。アクティビストの勢力が増し、よからぬ輩による敵対的買収が増えるであろう時代において、時代に逆行する意見ですが、安定株主を増やすことが最も重要になってきます。しかしそれだけでは対応しきれません。株主構成で守ることには限界があるからです。「個人株主を増やしましょう~」「買収防衛策は廃止して時価総額を拡大させましょう。企業防衛の王道は時価総額の拡大ですよ~」 きれいごとで会社を守ることはできません。アクティビストって、なんのために経営改善を要求していると思いますか?会社のためではありません。株主のためです。株価のためです。株価が上がったら?当然、売り抜けます。「早く株価を上げろ」という短期的視点に基づいて経営改善を要求します。ただし、彼らの要求は基本的に財務に関する要求とか事業の切り離しに関する要求です。しかし、それが長期的な利益に資する改善なのかはわかりません。そんな要求はある程度財務諸表を見ることができる素人でもできます。

 村上ファンドの株主提案であっても同調する株主が増えてきました。私はよい風潮とは思っていませんが、止めようのない流れかもしれません。そういう流れの中で、安定株主対策を捨てることは得策ではありません。昨日、よいタイミングで企業統治と安定株主に関する話題が日経で取り上げられました。何度でも言いますが、実戦を経験して思うのは、安定株主がある程度いないと戦えない、ということです。ウォーレン・バフェットではない単なるアクティビストは、はっきり申し上げて会社の敵です。敵が「安定株主対策を止めろ!」と叫んでいます。つまり「武器を捨てよ!」と叫んでいます。捨てたら一気にイナゴの大群(Invasion der Heuschurecken)に攻め込まれて、会社が食い尽くされてしまいます。アクティビストは増配・自社株買い・事業の選択と集中についての意見を持ってはいますが、貴社の事業を成長させる方法などは知りません。なぜなら素人だからです。素人の意見など聞く必要はありません。

 

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