2017年09月11日

No.164 「大株主ファンド」期待先行 内田洋行・イノテック 上場来高値

 2017年9月9日の日経15面にあった記事です。両社とも投資ファンドが大株主で株主還元の強化やファンドによる株の買い増しに期待が先行し、株価が上昇しているそうです。内田洋行については先日のコラムで触れましたが。元村上ファンドの丸木氏が代表を務めるストラテジックキャピタルが5%強の株式を保有しています。イノテックは村上世彰氏が関与している投資ファンド、レノが9月7日に大量保有報告書を提出しました。レノは黒田電気の大株主でもあります。ではイノテックの株主構成を見ます。

 法人株主2.21%、みずほ銀行2.31%、三井住友銀行1.76%、社員持株会1.74%、合計8.02%が外部から見た安定株主比率です。低いです。このままではレノが大量にイノテックの株式を買うでしょう。イノテックの財務体質を見ると、現預金が約52億円、投資有価証券が約12億円あります。有利子負債はゼロです。狙われやすい財務体質に加えて、買い占めやすい株主構成です。

 このまま指をくわえて眺めていたら、確実に買われます。そして社外取締役などを派遣されてしまうでしょう。自社株買いや増配も要求されるでしょうし、他社との経営統合を提案してくるかもしれません。イノテックの時価総額は174億円ですから、村上ファンドグループの資金力であれば買えそうです。

 イノテックがやるべきことは何でしょうか?当然ですが、買収防衛策の早期導入です。「でも安定株主比率が低いのだから、株主総会に買収防衛策をかけても否決される可能性が高いのでは?」というご指摘があろうかと思いますが、株主総会にかけずに導入すればよいのです。買収防衛策の導入は株主総会にかけなくてはならないものではありません。株主総会にかけずに導入している企業も少ないですがあります。廃止してしまいましたがパナソニックとか。他にもあります。そもそも買収防衛策などは経営判断で導入すべきものであると私は考えます。株主の了解を取っておいた方が安全という意味で皆さん株主総会にかけていますが、取締役会決議で導入したからと言って、ルールに従わずに株式取得を強行してくる買収者はいないでしょう。

 しかし「買収防衛策を株主総会に議案としてかけない場合、経営トップの選任議案に反対されるのでは?」というご意見があると思います。私は「反対されても構わない。否決はされないから」と考えます。買収防衛策議案を総会議案にしない場合は経営トップの選任議案に反対するなど、あまりに乱暴な方針です。買収防衛策によってむやみやたらに時間をかせぎ、まっとうな買収提案をつぶした場合は反対されて然るべきと考えますが、買収防衛策を取締役会決議で導入したから経営トップに反対するのはやり過ぎです。と言ってもISSなどは現実的には反対推奨してきます。しかし否決はされません。機関投資家は、中にはISSの言うとおりに反対する人もいますが、反対しない人もいます。「それだけで経営トップに反対するのはいかがなものか」と考えている人もいるのです。ですから、否決はされないでしょう。

あとは買収防衛策の内容やガバナンス体制を工夫すればよいだけです。本来、ガバナンスなどは別問題と考えますが、安定株主比率が低すぎる場合は、多少工夫して機関投資家に対してアピールしておくことが重要になってきます。買収防衛策の仕組みについては、まずは「当社は買収防衛策とは思っていない」と主張することが重要です。これ、本当は当たり前の話なのですが、そう主張した会社っていないと思います。また、濫用的に買収防衛策を使用しないし、むやみやたらに時間稼ぎはしないことも。買収防衛策のプレスで書いている会社がほとんどですが、別のプレスを準備することも検討した方がよいですね。機関投資家って、もう買収防衛策のプレスを読んでないんじゃないでしょうか。長いし、読み難いし。であれば「当社が導入した事前警告型ルールに関する社長の宣誓」とか「当社社外取締役による事前警告型ルールの運用に関する宣誓」といったプレスを公表してはどうでしょうか。社長や社外取締役がルールを濫用的に使用しないことの宣誓書などを公表すれば、機関投資家も興味を示して読むのではないでしょうか。真意を丁寧に説明すれば、ISSは反対するでしょうが、まっとうな機関投資家は理解してくれると思います。

 

このコラムのカテゴリ

関連する
他のコラムも読む

と言っても旧村上ファンドからの自己株TOBではありません。東亜建設工業は旧村上ファンドに14.53%の株式を保有されている状況ですが、2月8日に自己株取得120万株(自己株除く発行済の5.52%)・20億円上限の実施を公表しました。以下のと ...

続きを読む

2021/4/15商事法務「スクランブル」で日邦産業と日本アジアグループ(JAG)の買収防衛策発動に関してまとめられています。と言っても概要だけで詳細はわかりませんが、抜粋しながら解説したいと思います。

続きを読む

カテゴリからコラムを探す

月別アーカイブ