2017年11月29日

No.218 クアルコム買収、実現なら何位?世界のM&A番付(2017/11/7日経電子版)

米半導体大手のブロードコムが同業のクアルコムに1050億ドル(約12兆円)で買収を提案した。この金額はM&A(合併・買収)の世界ではどの程度の規模なのか。調査会社のトムソン・ロイターによると、過去に実現した世界のM&Aの事例で最も金額が大きかったのは、2000年に英ボーダフォン・エアタッチが独マンネスマンを買収した案件で約2000億ドルだった。今回のクアルコム買収が実現した場合、ランキングは4位となる。以下、具体的な事例を見てみよう。

■1位 ボーダフォン・マンネスマン

英携帯大手ボーダフォン・エアタッチによる独通信大手マンネスマンの買収は、敵対的だったことで当時話題となった。買収金額は約2000億ドル(現在のレートで約23兆円)。20年近くたつが、これを超える成立したM&Aは出てきていない。

■2位 AOL・タイムワーナー

2000年の米情報通信AOLによる米メディア大手タイムワーナーの買収は、総額が約1800億ドル(約20兆円)となった。当時、新興企業にすぎなかったAOLが仕掛けた買収は「世紀の統合」と騒がれた。しかし、ITバブルがはじけて統合効果が上がらず、09年にAOLのほうが統合会社から切り離された。その後、AOLは15年に米通信大手のベライゾン・コミュニケーションズに、タイムワーナーは16年に米AT&Tにそれぞれ買収された。

■3位 ベライゾン

世界のM&Aトップ10には通信業界のM&Aが5件入っている。3位は14年のベライゾン・コミュニケーションズによるベライゾン・ワイヤレスの完全子会社化(約1300億ドル)。6位には米AT&Tによるタイムワーナーの買収(約1100億ドル)が入った。5位は米タバコのフィリップモリスが分離独立する際に旧会社の株主に実施した自社株の割り当てだった。

■日本のトップ5は金融再編

ちなみにトムソン・ロイターの調査で日本の企業が関係するM&Aランキングのトップにくるのは01年の住友銀行とさくら銀行の統合。規模を約450億ドル(約5兆円)とはじくが、世界ランキングでは10位圏外だ。日本ランキングの5位までは金融業界の再編が占めており、6位には16年にソフトバンクグループが約3兆3000億円を投じた英半導体設計アーム・ホールディングスの買収が入った。

■巨大ゆえの難路

ソフトバンクのアーム買収4回分相当になるブロードコムのクアルコム買収提案だが、この巨大さが、実現の最大の障害になるとの見方が多い。クアルコムはスマートフォン(スマホ)向け半導体に強みを持っており、特にキーパーツである通信モデムチップでは圧倒的な世界シェアを誇る。通信技術の特許を多数保有し、それを製品の納入数量・金額にリンクさせた強気のライセンス交渉は携帯キャリアやスマホ部品メーカーの間では有名だ。実際、世界各国の独禁当局から「優越的な立場の乱用による独占禁止法違反」を指摘されている。一方、ブロードコムもWi―Fiや大容量通信に使う半導体で高いシェアを持っている。クアルコムの経営陣は現時点ではブロードコムの買収提案に警戒感を隠さない。敵対的買収に発展したり、感情的なこじれから暗礁に乗り上げたりする可能性も小さくない。仮にそれを乗り越えたとしても「強すぎる企業の誕生」を各国の独禁当局がどう判断するか。買収実現には相当の難路が予想される。

 古い記事ですみません。書こうと思いつつ、出張などがあり遅くなってしまいました。

通信用半導体大手の米ブロードコムは11月6日、同業の米クアルコムに買収提案したそうです。負債の引き受けも含めた買収総額は1300億ドル(約15兆円)で、実現すれば半導体業界で過去最大のM&A(合併・買収)となります。一方、クアルコムは11月13日、ブロードコムによる買収提案を拒否すると発表しました。1株あたり70ドルという株式の買付価格は「クアルコムの企業価値を過小評価している」という内容です。ブロードコムは敵対的であっても買収を続ける構えのようで、即座に「買収に取り組み続ける」と声明を出しました。敵対的買収に発展する方向のようです。

 前頁に掲載した記事によると、買収が実現した場合、世界のM&Aランキングでは4位になるそうです。前頁の内容で注目したいのが、1位です。ボーダフォンによるマンネスマンの買収は、敵対的買収です。世界のM&Aランキングの1位は敵対的買収である、ということです。海外のケースであり、日本のケースではありませんし、日本における敵対的買収の金額はたかがしれています。佐々木ベジによるソレキアへの買収は20億円くらいだったでしょうか?ボーダフォンによるマンネスマンへの買収金額は現在のレートで約23兆円です。トヨタの時価総額は23兆2,567億4,400万円です。トヨタクラスの会社が敵対的に買われたということですね。

 世界ではトヨタクラスの会社が敵対的に買われています。なぜか?株主構成が日本とは違うということも一つの理由でしょう。あと、クアルコムが出した声明は「クアルコムの企業価値を過小評価している」という内容です。ソレキアのように「経営陣に何の打診もなく突然TOBを実施した!無礼者だ!」などという情けない声明ではありません。買収提案はあくまで株主に対するものですから、価格が重視されるべきであり、クアルコムの声明は非常にまっとうな内容であり、ソレキアの声明は海外の投資家にしてみれば「は?何言ってるの?」という内容でしょう。

 こういう敵対的買収は日本でも確実に増えます。なぜなら、日本の会社は安定株主に守られてなどいないからです。安定株主神話は神話です。冷静に考えたら、過半数の安定株主がいなければ、会社を守ることなどできませんから。しかし、なぜか日本の会社は「安定株主がいるから大丈夫」と考えているフシがあります。これってたぶん、株主総会における株主の投票行動と敵対的買収における株主の行動をごちゃまぜにして考えてしまっているからだと思います。つまり、安定株主が30%くらいいれば、株主総会の普通決議が否決されることはまずありません。つまり、過半数が経営陣を支持してくれているということです。会社が把握している安定株主+見えないステルス安定株主で会社は守られていると錯覚しているということです。ステルス安定株主とは?個人株主のことです。日本の会社は個人株主を安定株主であると見なしているフシがあります。ここが大きな間違いなのです。株主総会の議決権行使行動と敵対的買収における株主の行動はまったく異なります。株主総会などに個人株主は本来興味ありません。でも、株価には非常に高い関心を持っています。議決権行使はしないけど、敵対的TOBには本来応募する株主なのです。それは、佐々木ベジが証明してくれました。あんなに安定株主比率が高いソレキアへの敵対的TOBを成功させたのですから。

 クアルコムのケースは、決して遠い海外で起きているケースと楽観視すべきではありません。いずれ確実に日本企業もターゲットになります。「日本企業のROEは低い!」 経営者が外国人に代わった瞬間にROEを大幅に引き上げることが可能かもしれません。外国人がそれに気付いたら終わります。

 貴社がターゲットになる可能性は?100%です。と思っておいたほうがよいです。今の世の中、日本郵船が村上ファンドのターゲットになる時代ですから。今のうちから、かつての有事のケーススタディを学び、準備しておくことが重要です。

 

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