2019年04月26日

No.576 「大阪には手を出すなよ」なんて言わないでいただきたい

「このニュースに注目」大坂には手を出すなよでまとめましたが、2019年4月25日の日経「私の履歴書」で三井住友フィナンシャルグループ名誉顧問の奥さんが以下のようにおっしゃっています。https://www.nikkei.com/article/DGXKZO44137080U9A420C1BC8000/

村上世彰さんは彼が通産官僚のころから旧知の仲だ。「大阪には手を出すなよ」。アクティビスト(物言う株主)に転じた彼にクギをさしていた。が、忠告は無視された。うちがメインバンクの阪神電気鉄道株を買い占めたのを機に対峙した。「タイガースがほしい!?」。冗談じゃない。

やがて村上ファンドは行き詰まり、宙に浮いた阪神株の引き受け先が焦点に浮上した。

2006年、阪急電鉄の角和夫社長が強い意欲を示された。関西は私鉄王国。路線が重ならない他社も候補だったが私は終始、「阪急・阪神」で動いた。

阪神本線と阪急神戸線は競合路線だ。だが「線より点」。両社が起点とする梅田の再開発は今、関西経済の起爆剤として期待が高まっている。

先月と今月の「私の履歴書」は非常に興味深く読んでいます。味の素の伊藤会長のお話も非常におもしろかったです。今回の奥さんのお話も、元金融機関の社員として非常に興味深く読ませていただいています。ただし、今回のお話については「余計なことを言うのはやめていただきたい」と思っています。

村上さんは「会社は株主のものである」と考えている方です。そのような方に銀行のトップが「大阪には手を出すなよ」という一言を発した場合、村上さんはどう捉え、どう行動するでしょうか?奥さんは「忠告」したと考えていらっしゃるようですが、村上さんは「忠告」と捉えず、「恫喝」と捉えたのではないでしょうか?村上さんにとって奥さんの一言は「株主主導のガバナンスを遂行しようとする我々の抵抗勢力の発言」と聞こえたのかもしれません。当然です。村上さんは株主主導のガバナンスを遂行しようとしており、その際たる敵は債権者主導のガバナンスを敷いてきた銀行でしょう。日本企業の最大の債権者であり、安定株主でもあった銀行は株主主導のガバナンスを進めるに当たっての敵に他なりません。その敵である銀行のトップから「大阪には手を出すな」と言われたら?逆に手を出すでしょうね。「やってやる!」と村上さんの闘志に火をつけたことでしょう。

余計な一言だった、と言わざるを得ません。私は銀行出身の方を実際尊敬しています。というのも、証券マンと違って決算書も読めますし、何より会社のことをきちんと誰よりもちゃんと考えている方々だからです。それに非常に勉強熱心な方が多いと思っています。ただし、専門外のことに余計なことを言ってはいけません。銀行には銀行の専門領域があります。企業防衛は、かつては銀行も「両社の間に立って話をまとめる」「いさめる」という観点において専門要素を有していたのかもしれませんが、時代は変わりました。銀行が間に立って敵対的買収や株主提案の落ち着きどころを探って落ち着かせることなどできないのです。

金融機関やその他のアドバイザーは企業防衛、株主提案、敵対的買収について、実際のところよく知らないのではないかと私は思っています。というのも、もしよく知っていたとしたら、こんなに村上ファンドに買われる会社が多発することはないのではないかと思うからです。最近村上ファンドに買われている会社は安定株主比率が低いから買収防衛策を導入しようにもできないし、誰がアドバイスしても同じ結果だったのではないかと見ることもできるのですが、それにしても工夫がない。企業防衛についてよく知らない、企業防衛についてちゃんと研究、勉強しないアドバイザーが多いということではないかと思います。

実際に銀行や証券会社には企業防衛の専門部隊はいないでしょう。信託銀行でも企業防衛マニュアルなどの作成をアドバイスしていましたが、有事の経験はないでしょう。弁護士も、どこかの事務所がよいという訳でもなく、どの弁護士を雇うかによりけりです。事務所の経験というよりは、弁護士個人の経験によっていると思いますので。

有事に備えて平時から社内体制を整備することに加えて、社外のアドバイザー体制もよく考えておく必要があります。

 

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