2019年05月07日

No.579 (無料公開)令和における新しい企業防衛体制

平成最後の日経新聞、4月30日(火)7面に「企業磨くファンド進化論」という記事がありました。https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44271370W9A420C1TCR000/

記事の最後には

日本企業にとっての令和は、株の持ち合いに代表される内向きを脱し、市場の声を聞く開かれた時代になるべきだ。そのためには投資家も、経営者に一目置かれるよう変わる必要がある。企業からむしり取るのではなく、磨いてこそファンドも進化できる。

とあります。私は持ち合いを内向きとは思いません。株主だけの利益を重視し、中長期的な企業価値向上には目を向けず短期的な株価上昇のみを追求する強欲な株主対策としてやむなく行っているのが持ち合いです。持ち合いは経営者の保身のために行っているのではなく、従業員、取引先、善意の株主という会社の重要なステークホルダーを守るために行っているのです。

しかし、上場会社は持ち合いに対して及び腰になっています。既存の持ち合いに関してはできる限り守っていくと思われますが、新規の持ち合いは増えないでしょう。コーポレートガバナンス・コードが制定され、政策保有株式の保有理由を詳細に説明するよう求められている世の中で、新たな持ち合いをする上場会社は少ないでしょう。令和の時代において、新たに持ち合いをすることで会社を守ることは不可能です。いくら持ち合いは悪くない!と主張しても、世の中は認めてくれません。投資家はその会社から離れていき、株価が下落し、ますます企業価値と株価が乖離することになり、買収リスクが高まることにもなりかねません。

では令和の時代において、上場会社はいかにして会社を不当な買収、乗っ取り行為から守ることができるのでしょうか?それは平成の時代に開発された事前警告型ルールの導入に他なりません。昭和の時代に開発された「持ち合い」という企業防衛手法は平成で終わりを迎えました。株式市場がグローバル化する中、持ち合いが認められなくなったのは当然の流れなのかもしれません。これからの時代は、平成の終盤になって開発された事前警告型ルールが企業防衛の主なツールになっていくのではないでしょうか?というよりも、会社を守るツールは今のところ事前警告型ルールしかないと言っても過言ではないと思われます。

ただし、事前警告型ルールを廃止する会社が増えている中で、改めて事前警告型ルールを導入したり、再導入したりすれば、それこそマスコミが「持ち合いの次は買収防衛策の復活!」「買収防衛策による内向き経営への逆戻り!」と批判するでしょう。一方で、日本の上場会社を取り巻く状況は本当に厳しくなっています。アクティビスト・ファンドによる株主提案は増加し、大量の市場買付けにより実質的に買収されてしまった会社も出てきてしまいました。そして、上場会社はアクティビスト・ファンドから社外取締役を受け入れざるを得なくなっています。ターゲットになっている企業も、10年前は時価総額数百億円規模であったのに対し、今では数千億円規模になっています。10年前は「他人事」であった敵対的買収が今や「わが社もターゲットになるかもしれない」という時代になりました。また、アクティビスト・ファンドだけではなく、事業会社による敵対的TOBも実施され、成功しました。

日本の上場会社で敵対的に買収される会社は今後、どんどん出てきます。これはほぼ確実なことです。実際にはこのような状況に日本の会社が置かれるのは10年前だったのです。スティール・パートナーズやかつての村上ファンドの行動が活発化したのが2003年~2005年、王子製紙が北越製紙に対してTOBを実施したのが2006年です。スティール・パートナーズがブルドックソースに対して敵対的TOBを実施し対抗措置を発動したのが2007年です。10年ほど前に実は日本の上場会社は今と同じような状況に置かれていました。しかしリーマンショックの発生により、アクティビスト・ファンドが日本の株式市場から撤退したことで、一旦、敵対的TOBの流れは止まりました。しかしそれがまた今動き出しているのです。この動きは止められません。

連休前のコラムで事前警告型ルールの導入に必要なのは「少しの勇気です」と書きました。現在の事前警告型ルール廃止の流れの中、新たに導入したり、再導入したりすることに抵抗があるのはよくわかります。しかし今導入・再導入しておかないと、いずれ皆さんの会社がターゲットになるかもしれないことは否定できません。村上ファンドのターゲットになった会社は、ターゲットになるまで「うちが狙われることはない」と考えていたのでしょう。そして狙われた後でも「そんなに買われはしないだろう」と高を括っていたことでしょう。佐々木ベジさんに狙われた会社もそうです。伊藤忠に敵対的TOBを仕掛けられたデサントもです。共通するのはみんな事前警告型ルールを導入していなかったことです。事前警告型ルールさえ導入していれば「こんなことにはならなかった」のです。

経営者は株主の利益を拡大させる必要があります。しかし、株主の利益を拡大させるのは誰でしょうか?経営者、従業員、取引先などです。株主利益の最大化のためには経営者、従業員、取引先の協力が必要です。その重要なステークホルダーが株主利益最大化のために、安心して働ける環境を整備するための一つの策が事前警告型ルールではないかと私は考えます。

もちろん、新しい時代における企業防衛手法は事前警告型ルールだけではありません。株主還元策の強化もその一つでしょう。No.535 新しい買収防衛策~これなら株主総会決議は必要なし~だって検討する価値はあると思われます。株主、経営者、従業員、取引先、地域社会、国などへの利益配分のバランスを重視し、よりよい会社を作っていくために企業防衛体制を引き続き議論していくことが必要ではないかと考えます。

 

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